第14話

「遠回りすることに意味があるなんていう人がいますけど、意味なんてありません。遠回りなんてしない方がいいんです。」


嘘で塗り固めて自分勝手に、自分より立場が弱いと思われる女性を弄ぶようでいて、そのように「内側」で狩って弄ぶこととは別で、秋村は自分がいる外側では、自分の人生に安寧を見出したいという、勝手な願望があった。


そのために、秋村自身がゆっくりではあるが、やっていることがあった。

それは親しい人のつながりを保つことだった。旧交を温めるといえばわかりやすいかもしれない。


しかしその日は、旧交を温めるつもりで会った人に、秋村はひどく不愉快な気持ちにさせられた。

その人は秋村の大学時代の教官で、もともと考え方が偏った人で、あえて会いに行った秋村にも非があった。

「遠回りすることに意味があるなんていう人がいますけど、意味なんてありません。遠回りなんてしない方がいいんです。」

ふと秋村はその教官が、大学時代に言っていたこの言葉を思い出した。

この教官は歳を重ねても全く変わっていないし、自分の探しているような人間関係の適切な依存先にはならない、とよく分かった。

もう二度と会うことはないだろうが、わざわざ会いに行って嫌な気持ちになったから、秋村はひどく徒労感を感じたのだった。

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