第2話

「雪国」の主人公である島村は、英文学に通じた明治時代のインテリエリートで、田舎の内側の人間たちの右往左往を、一歩距離を置いて、外から眺めて描写しているような印象を与える。

しかしそんな風にカッコつけて、綺麗な文章で着飾っても、そのストーリーの本質は、所詮は俺と同じで、貧しい田舎へセックスツーリズムに出かけた男の回想ではないかと、と本作の主人公である秋村はツッコみたい気持ちになったということなのだ。


それでいて、秋村自身が、「雪国」の主人公である島村の、その一歩外側からクールに眺めているような態度に共感する部分もあった。

その理由はシンプルに言えば、射精をすると急に気持ちが冷める「賢者モード」のときの虚しさに似ていた。

女を求めるときは、感情的で欲情していて、女を捕まえるためなら、あらゆる手段をとるのに、いつも結局うまくいかずアポを終えて、気落ちして帰路につき、翌日からいつもの日常生活に戻るときには、そんな自分に嫌悪感や強い虚しさを感じてしまう。

そこで一歩引いた、まるで俺は女をそんなに欲しているわけじゃないんだという体で文章を書くと、虚しさや自己嫌悪を軽くすることができる。

文章を書く理由、小説を書く理由は皆それぞれあるがろうが、一つの理由としては、自分の乱れた心の整理という自己満足で書くこともあるだろう。

もちろん今回の主人公の秋村は、「雪国」の作者や島村が一歩引いた目線で描いているのが、自分と同じ理由だと決めつけているわけではなかった。

ただ秋村は、先ほどのような理由で、経済的格差を利用して女性を恋愛関係に持ち込もうとする邪な一面と、それを一歩引いた目線でクールに眺めるように描く点に、小説「雪国」と自分とが共通すると思った。

そして秋村は、自分が同じような小説を書くなら、まず社会的弱者の女性をターゲットにする邪な面をはっきりと示した上で、嫌悪感や虚しさを紛らわすために一歩引いたクールに眺めているような書き方をしていると、はっきりさせて書きたい、と思った。

そしてこの物語はそのような秋村の物語である。

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