有原の宣戦布告と織田のトラップ

 有原は、猫部を呼び出した。

 貴史はちょっと遠目に隠れて様子を見ていた。


「猫部、俺と日本史で勝負してくれ。そして俺が勝ったら、俺と小町ちゃんが仲良くなれるように協力してほしい」


「なんなの? 私に勝負を仕掛けるのって流行ってるの?」


「猫部が漫画やお菓子で空気を読む人じゃない、ってわかったから奥の手を使ったんだ」


「もっと頭良さそうな奥の手をもてよ」


「いいから、受けてくれよ勝負!」


「わかったよ。いいけど、じゃあ、私が勝った時は……」


 猫部が急に声をひそめたので、何を言ったかは貴史に聞こえなかった。



♢♢♢



 そして、考査前。

 猫部が勝ったらどうするのかを有原に訊くと、「それは誰にも言わない約束で、って言われたんだ」と有原は答えた。気になるがしょうがない。


 有原は元々日本史が好きだ。性格も几帳面なので、勉強を舐めてかかることもない。担当の先生は優しいし、他教科との兼ね合いもあるから変化球は投げてこないだろう。互いに高得点をとりながら、僅差で勝敗が決まると予想した。


 ならば……。今回は妨害工作、ハニートラップを仕掛けることにした。貴史は、織田に声をかけた。


「織田、お前、猫部のことどう思う?」


「え? 猫部? うーん。さっぱりした性格で、信頼はあるよね」


「女としては?」


「え? 何、急に。まあ、美人だと思うよ。普段はさばさばしてるけど、そういう子が自分の前でだけ甘えてきたら可愛いよね」


 さすが学年一、女に弱い織田。女子のことは、いかなるとき、いかなる相手でも悪く言わないし、そこから自分と付き合っているシミュレーションができる妄想力がすごい。


「猫部は、お前のことが好きらしいよ……」


「え! そうなの?! 全然気づかなかった」


 これは嘘だ。あのゴリラメンタル猫部が、人に恋するはずがない。


 織田は、「〇〇ちゃんがお前のことを好きなんだって」と言われると、その子を好きになるという習性があった。一人でも多くの女の子と繋がりたい、きっとそんな遺伝子なんだろう。果たして、猫部が相手でも成り立つだろうか……。


「たしかに、最近、よく目が合うと思ってた……」


 早速、勘違い。


「俺の時だけ、声色が高い気がする」


 電話に出るお母さんか。気のせいにもほどがある。


「俺の前にいるとき、緊張してるよね?」


 猫部が男ごときに緊張するわけないだろう。


 ツッコミどころ満載で、恋は勘違いから始まるということがよくわかった。


「告白は、俺からしてあげないとね」


 告白って、してあげるものなの? 恋愛上級者の世界はよくわからない。


「両想いなら、男が告白すべきだよ」


 この一瞬で両想いになっている。時空間の歪みがすごい。


 何だかよくわからないが、織田を唆すことには成功した。

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