代理戦争三戦目 有原の日本史
高三になり、貴史は気づいた。
猫部に気をとられすぎて、彼女を作る機会を失っていた。図書館で勉強しているカップルが眩しい。
今気になる子と言えば、小町ちゃんだ。小柄で明るくて、可愛い。が、猫部の友達だ。
はあ……また猫部だよ。これで告白して振られようものなら、「私に一度も勝てない激弱男のくせに、よく告白しようなんて思ったな」と、言わんばかりの目で蔑んでくるに違いない。
とは言え、告白するほど小町が好きかと言われれば、そうでもない。単に彼女が欲しいだけだ。もうくだらない勝負は辞めて、受験勉強に専念しよう。そう思っていたとき、有原が話しかけてきた。
「俺、小町ちゃんのこと好きなんだよね。卒業前には告白したいと思うんだけど……」
「いいんじゃない。告白すれば」
「そうなんだけど、小町ちゃん、いつも猫部と一緒にいるんだよね」
今までの女の子もまず四六時中、猫部と一緒にいる。
「わかる。猫部と取り巻きってデキてんのかな」
「え?! 百合展開?!」
有原はよからぬ妄想を始めたようだ。
「猫部ってやたら男らしいよな」
「男らしいを通り越して魔王だよ」
「もしや、本当は男だったりして。『とりかへばや物語』みたいに」
「それは女らしい男が女のフリをするのだから、男らしいまま女の格好してもダメでしょ」
「そっかぁ。じゃあ、単に怖い人か」
そうだな、と思って思わず笑った。
「告白、するの?」
「うーん、まだあんまり話してないんだ。まず猫部を含めて話せるようにしたいな」
随分慎重だ。
♢♢♢
その後、有原は”猫部に”小町が好きだ、と伝えた。
「なんで本人に言わず、猫部に言うの?」
「え? 知ってたら、普通、気を利かせるでしょ、人として」
気を利かせる……なんて言葉、猫部の辞書にあるんだろうか?
その後、俺の余計な心配の通り、猫部は何ら二人をとりなすことはなかった。有原は、猫部に漫画を貸したりおやつをあげたりするが、猫部が気を利かせている場面など一度も見なかった。
「もー! 何で協力してくれないかな!」
「それは猫部に期待しすぎじゃない?」
今回ばかりは猫部が可哀想だ。
「平安時代なら姫を狙うなら侍女から、ってのが当たり前じゃん?」
「令和ならただの節操無しだよ」
一瞬、猫部と付き合うってどんな感じだろうと思ったが、何一つ想像できなかった。
「はっきり言ったら? 協力してくれ、って」
「でも、そこまでして振られたら恥ずかしくない?」
面倒臭いやつだな。もしかしたら猫部は、お前の下心をもう小町に話してるかもしれないんだぞ。
「じゃあ、猫部に勝負を持ちかけなよ。あいつ負けず嫌いだから。で、勝ったら協力してもらう約束をすれば……」
俺は、これまで敗れてきた男たちの話をした。
「なんて、おっそろしい女なんだ……。これはもう得意の日本史しか選択肢がない」
「ああ、油断するなよ。あいつは勝負事となると強いから」
こうして有原をけしかけることに成功した。
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