代理戦争三戦目 有原の日本史

高三になり、貴史は気づいた。

猫部に気をとられすぎて、彼女を作る機会を失っていた。

もう、受験生だ。

表だって浮き足だったことはできないが……逆に彼女がいたら、勉強も頑張れそうだ。

二人で一緒に帰ったり、図書館で勉強しているカップルを見ると羨ましく思った。



今気になる子と言えば、小町ちゃんだ。

小柄で明るくて、可愛い。


が、猫部の友達だ。


はあ……また猫部だよ。

これで告白して振られようものなら、


「私に一度も勝てない激弱男のくせに、よく告白しようなんて思ったな」


と、言わんばかりの目で蔑んでくるに違いない。



まあ……告白するほど小町が好きかと言われれば、単に彼女が欲しいだけ……でもある。

もうくだらない勝負事は辞めて、受験勉強に専念しようと思っていたときだった。



「俺、小町ちゃんのこと、好きなんだよね。卒業前には告白したいと思うんだけど……」


有原が急に言い始めた。


「いいんじゃない。告白すれば」


「そうなんだけど、小町ちゃん、いつも猫部と一緒にいるんだよね」


そうなんだよ。

今までの女の子もまず四六時中、猫部といる。



「もう、猫部と取り巻きはデキてんじゃない?」


「え?! 百合展開?!」


有原はよからぬ妄想を始めたようだ。



「たしかに、猫部ってやたら男らしいよな」


「男らしいを通り越して魔王だよ」


「もしや、本当は男だったりして。『とりかへばや物語』みたいに」


「それはあくまで、女らしい男が女のフリするのだから、男らしいまま女の格好してもダメでしょ」


「そっかぁ。じゃあ、単に怖い人か」


そうだな、と思って笑った。



「告白、するの?」


「うーん、まだあんまり話してないんだ。まず猫部を含めて話せるようにしたいな」


随分慎重だ。



その後、有原は猫部に”小町が好きなんだ”と伝えたらしい。



「なんで、本人に言わず、猫部に言うの?」


「え? 知っててくれれば、気を利かせてくれるかと思って。普通、そうするでしょ、人として」


気を利かせる……

なんて言葉、猫部の辞書にあるんだろうか?


その心配の通り、猫部は何ら二人をとりなすことはなかった。

有原は、猫部に漫画を貸したり、おやつをあげたりするが、猫部が気を利かせている場面など一度も見なかった。



「もー! 何で協力してくれないかな!」


「いや、まあ、ちょっと猫部に期待しすぎじゃない?」


今回ばかりは猫部が可哀想だ。



「平安時代ばりに、姫を狙うなら侍女から、じゃない?」


「いやいや、令和でやったらただの節操無しだよ」


一瞬、猫部と付き合うってどんな感じだろうと思ったが、何一つ想像できなかった。



「はっきり言ったら? 協力してくれ、って」


「でも、そこまでして振られたら、恥ずかしくない?」


面倒臭いやつだな。

下手したら猫部は、お前の下心をもう小町に話してるかもしれないんだぞ。



「じゃあ、猫部に勝負を持ちかけなよ。あいつ負けず嫌いだから。で、勝ったら協力してもらう約束をすれば……」


貴史は、これまで敗れてきた男たちの話をした。



「なんて、おっそろしい女なんだ……。これはもう、得意の日本史しか選択肢がない」


「ああ、油断するなよ。あいつは勝負事となると強いから」


こうして有原をけしかけることに成功した。

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