湯川の宣戦布告

 考査前、教室で薫子が猫部に物理を質問していると、そこに湯川が割って入った。


「薫子ちゃん、物理なら俺に聞きなよ。物理オンチと一緒に勉強してるとオンチが感染るよ」


 よくそんなイラつくセリフが出てくるもんだと、逆に感心した。


「ウザいから、あっちいって」


 猫部が言う。熊と虎の睨み合いになった。


「あー、そこね。そこはさぁ……」


 猫部の言葉を無視して、湯川は解説を始めた。こいつのメンタルも化け物だ。だが、意外にも湯川の解説はわかりやすかった。


「なるほど……! なんかわかった!」


 薫子の顔が輝く。猫部も不服顔ではあるが、解説には納得のようだ。


「ほらね、結果を出したいなら付き合う人間を考えないと。他にわかんないとこある?」


「待てよ湯川。たしかにお前が物理が得意なのはわかるけど、お前は性格が悪い。だから純粋な薫子に話しかけないでくれる?」


 ストレートすぎる。ホントに猫部の家の躾はどうなっているのか。


「おやおや、まるで友達思いなこと言ってるけどさぁ、考査の点数は内申点に響くじゃん。内申点が命の推薦や総合型選抜も考えてるんでしょ? だったら、解けない問題に悩んでないで、さっさとデキる奴に教えてもらった方がはやいよぉ。時間が節約できれば、他の教科も勉強できるじゃん。本当に薫子ちゃんのことを考えてあげるのってそういうことじゃない?」


 全く正論だが、言い方がムカつく。


「他に物理が得意なやつに聞くからいいよ。オイ、貴史! お前、こっち来て教えろよ」


 火の粉が飛んできた。


「いや、俺は教えるのうまくないから……。そもそも猫部が物理を得意になればいいじゃん。今回のテストで、湯川より高い点数をとりなよ。そうすれば、薫子にも教えられるし、湯川を頼る必要がないだろ」


 果たして、この提案に猫部が乗るのか……。


「それ! いいね! 猫部、俺と勝負しようぜ! お前が勝ったら、お前の言うことなんでも聞いてやるから!」


 湯川が鼻息を荒くして言った。湯川は完全に猫部を見下している。


「ああ?! わかったよ! 私が勝ったら、お前は一生、私と薫子の視界に入ってくんなよ!」


「いいよ、いいよ。せいぜい頑張ってね」


 湯川は鼻で笑った。

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