代理戦争二戦目 湯川の物理

猫部との勝負は全敗のまま高校に上がった。


そして、また猫部と同じ高校、同じクラスだ。

俺の貴重な出会いの一席が、自動的に猫部に奪われる。



もはや背に腹は変えられない。

猫部に勝つには、猫部の弱点を攻めなくては。


今までは騎士道精神もあったが、結果負け続けているのだから、もう形ばかりのプライドは捨てよう。

どんなに素晴らしい精神を持っていたとしても、結果を出せない男は弱い男だ。



貴史は、猫部がどれほどゴリラメンタルであろうと、”文系女子”に変わりないことは分かっていた。

次に攻めるなら、物理だ。

猫部の物理はいつも赤点すれすれ。

これならイージーモードだ。


もちろん、理系男子の貴史は今ですら物理は勝っている。

だから、自分が勝負をかけても面白くない。

ここは、湯川に頑張ってもらおう。



湯川は、すでに猫部の天敵だ。

正直いうと、俺も好きではない。


湯川は、数学と物理だけは飛び抜けてできていて、いつも女子を見下した発言が多かった。

それでいて性欲は人一倍強く、男子で一緒にいると下ネタしか話さない。

男子の中でもひいてる奴もいた。

そのキャラクターは当然女子も知っているから、大抵の女子からは嫌われていた。



その湯川が好きなのが、猫部の友達、薫子だ。

薫子は清楚で優しくて、女子にも男子にも好かれていた。


そんな薫子を、じっと湯川が見つめているのだから、もうキモイのなんのって。

視姦罪があるなら即逮捕だ。


そんな可憐な薫子を、猫部が守っている。


湯川が薫子を見ていると、


「何見てんだコラ」


と、メンチをきる。

湯川はチッと舌打ちしながら目をそらす。


……ここは動物王国か。


まあ、いい。

そんな嫌悪感丸出しの二人の対決なら面白いだろう。

ここで猫部が負ければ屈辱感は倍増だ。


貴史はそう考えて、湯川に近づいた。




♢♢♢




「湯川くんは、薫子ちゃんのこと好きなんだよね?」


「え? なんで知ってるの?」


「見てればわかるよ。話しできてるの?」


「いや、あの猫部が邪魔でさ。俺は薫子ちゃんに話しかけてるのに、あいつが答えるんだよ。あいつ、俺のこと好きなのかな」


怖っ。

その発想はなかった。



「まあ、俺は、猫部が頭下げてくるなら付き合ってもいいよ。好みじゃないけど。胸がない女子って、女として失格だよね」


ホント、クズだな。

が、仕方ない。

今だけだ。



「で、薫子ちゃんがどうしたの?」


「ああ。俺も、湯川くんと薫子ちゃんが仲良くなるには、猫部が邪魔だと思うんだ。で、中学の時にこんなことがあってさ……」


貴史は、大柴の話をした。



「なるほどね! それはいいな! 猫部が下僕……そしたら、何をしてもらおうかなぁ」


湯川の顔が一気にゲス顔になった。

やばい奴に話を持ちかけてしまった。



「いや、でも得意な物理の勝負で下僕契約はバランス悪いだろ。とりあえず賭けは無しで、点数で勝とう。その後も何回か負けを意識させれば、猫部もお前にデカい態度を取れなくなるさ」


「それもそうだな。じゃあまず次の考査で圧勝してやるよ」


湯川はニヤニヤと笑った。

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