大柴の賭け

「おい猫部! 俺は次のテストでお前よりいい点をとってやるからな!」


 昼休み、みんなが弁当を食べている時に、大柴が急に叫んだ。


「はあ? まあ、勝手にどうぞ」


 猫部はボブカットの髪を耳にかけながら言った。隣に座る栄子はポカンとしている。


「やる気ない返事をするなよ。お前がサボったせいで俺が勝っても意味ないんだから、全力出せよ、全力」


「テストなんだから、手抜く訳ないじゃん。大体なんで勝負しようとしてんの?」


「え、いや、まあ、それは……いつもお前が英語が得意で偉そうだからだよ……」


 栄子がめあてだ、とクラス全員が思った。大柴が栄子を好きなのは周知の事実で、バレていないと思っているのは大柴本人だけだった。


「……いいよ。勝負しよう」


 猫部の静かな返事に周りはビビったが、大柴は思い通りに事が進んだと思い、満足気な表情をしていた。


「で? 何を賭けるの?」


「え? 賭け?」


「勝負と言うからには、何か賭けないと。私が勝ったら何をしてくれるの?」


「えと……。じゃあ、CD貸してあげるよ」


 猫部がバンッ!!と机を叩いて立ち上がり、大柴がビクッとした。


「ふざけんな! 人のこと偉そうと言った上に勝手に勝負ふっかけたんだぞ! そんなヘボい賭けの内容で私の気が済むわけないだろう!」


 猫部が大柴を睨みつけた。大柴は猫部の凄みに腰がひけている。これぞ蛇に睨まれた蛙。


「じゃあ何を賭ければいいんだよ!」


 猫部はノートを一枚裂き、さらさらと何かを書いて、その紙を大柴の目の前に突きつけた。


「”次回のテストで負けた方が、勝った方の下僕になります”……?」


「これくらいしないとねぇ」


 猫部の目が光った。


「下僕なんて、そんな……」


 大柴の本能は、これが悪魔の契約書だと見抜いたようだ。


「はぁ、ここまで来て引っ込めるなんて……。男らしくないよねぇ、栄子?」


 猫部は栄子に視線を流した。栄子は苦笑いで「そうだねぇ」と言う。


「わ、わかったよ! やるよ! お、お前が負けたら俺の下僕だからな!」


 大柴の声は震えていた。

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