第33話 じつは新兵器の実験をしていまして……

 話の舞台は移りまして冥王星沖合二十万キロの空間点。

 西山は機関の点検を行いつつ、先程の三式弾発射実験による機関への負荷を各種データを取りつつ調べていた。

「天音、機関回転数の推移は?」

「こちらです。」

「うん、安定しているね。」

 といってもグラフに波は殆どなく、寧ろ先程の三式弾は通常の高圧光線増幅砲に比べたらエネルギー消費は微々たるもの。この程度なら旧式機関でも賄える。

「正直三式弾の実験は機関の動作異常をチェックする事がメインみたいなものだし。」

 ボヤくように西山が呟く。

 そして艦外服のヘルメットを被り直す。

「さて、次に備えて機関の整備をしましょう。」

「了解。事前の取り決めに従いエネルギー伝達回路について重点的に点検します。」

「ちょっと待って。」

「和紗ちゃん、どうしたの?」

「冷却系統の点検と軽めの改修も追加していい?時間に関しては上に掛け合ってみるから。」

「はい……?」

 取り敢えず上司である西山の指示に伊藤天音技官は頷きこそすれど、「何故今更冷却系統を」と少し謎に思った。

「じゃあ改修作業内容を伝えるよ。まず核融合炉冷却系統のD1弁と艦内環境調節回路の繋ぎ弁を解放して……。」

 西山は機関冷却系統概要図をタブレットに表示させながら具に指示を出していく。

 そして伊藤がそれを書き取り、他の技官や機関科員に伝えていく。

 少々大袈裟で心配性な措置だと皆思いながら作業を行っていたが、これが後々効いてくることはこの場にいる誰も、そして指示を出した西山本人でさえもハッキリと分からないまま動いていたのであった。

 

『新型艦砲、陽電子衝撃砲の発射試験を行う。』

 機関整備が終わり、橘司令の命令が再び出た。

 いよいよ本丸である。

『総員第一種戦闘配置。艦外服の着用継続。不要区画の閉鎖及び電力供給遮断。』

 西山を始め、技官や機関科員達は緊張の面持ちで作業を続ける。

『機関室、状況知らせ。』

「こちら機関室。機関正常動作中。陽電子衝撃砲へのエネルギー移転の準備は整っております。」

 そう応答する声には先ほどとは打って変わって、硬さが宿る。

 何せ今回の実験で用いる陽電子衝撃砲は未だに日本の自衛隊以外に取り敢えずの完成を為している国は無く、完全に人類にとって未知なる兵器であった。

 そして西山はエネルギー回路、つまり砲と機関をエネルギー的に結び付ける機構の開発主任であり、責任も大きい。

 ゴクリと唾を飲み込む。手に力が入り、いつの間にか拳が出来上がっていた。

「大丈夫だよ、和紗ちゃん。」

 伊藤が西山の背に手を回す。

「はぁ〜、これがイケメン女子だったら良かったのに。」

「和紗ちゃん?」

「わ、痛い痛い痛い。」

 伊藤が西山の背をかなり容赦なく叩く。

「でも緊張は解けた。ありがとう天音。」

 ニッと笑い歯を覗かせる。

「まあ何かあってもこの私がいるから大丈夫!」

 そう高らかに宣言する様子を見て、「むらさめ」の機関科員達は珍客の珍事(?)に苦笑を浮かべた。

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