第32話 じつは給料日がやってきまして……

 さて晶との同居何始まって十日ぐらいになった頃、事件は起きた。

 その日もいつも通り夕方ぐらいにダラダラゲームをしていると唐突に一つ、涼太の頭の中にアイデアが湧いてきた。


――もう晶と一緒に風呂入ってもいいんじゃね?


 ……と。

 そして両親不在のその日の晩、昔からの涼太のこの兄弟に対する憧れの行動を実行に移すことにした。



「さぁて、本日は給料日だ!」

「やったー!」

 朝っぱらから防衛省共済組合エンケラドゥス防衛局支部の前で雄叫びを上げる二人。

 何せ本日は待ちに待った給料日。いくら振り込まれたのかを通帳に記帳しに来るついでにニタニタしに来たのである。

 実際涼太と晶の給料は防衛省告示の俸給表の基本給に各種手当がついた額なので容易に算出できるが、やはり自分の口座に金が入っているということを自覚するこの感覚が楽しいのである。

 どうやら娯楽に乏しくなりがちな辺境のエンケラドゥスであるからか二人と同じ思考回路の人間も多く、朝から共済組合の支部の前にわざわざ午前休を取って並ぶ猛者も多いのだ。

 因みに涼太は普段はこういう事はしない。するにしても勤務後が多い。

 そうこう並んでいるうちに窓口の順番が回ってきた。

 通帳を機械に入れて記帳してもらう。

「しかしうちの国、まだ結構紙使っているよね。」

「確かに昔はペーパーレスとか脱ハンコとか五月蝿かった時代もあったからな。何故か結局紙に回帰しているし。」

 何故か日本人は昔から紙が好きであるもんだなぁ、と少々感慨が込み上げる。

 そう話しているうちに処理が終わったのか、通帳が機械から出てきた。

「さぁて給料を数えましょう。」

 そう言って涼太は通帳の数字を数えるのに血眼になる。

 結果、七十八万六千三百二十九円。

 うん、今月は有給取ってるから飛行手当が少ないのは知ってた。

 一方の晶は、六十九万九千八百七十三円。

 着任したばかりであり、飛行手当とかが無いのでこんなものである。

「うわぁ凄い金額。こんなに給料貰ったの初めて。」

「確か晶って昔は何処に所属していたんだっけ?」

「愛知の小牧駐屯地。」

「なるほど本土ね。」

「どういう事?」

「いやエンケラドゥス所属になるだけで通常の宇宙滞在手当に加えて僻地滞在手当満額、外宇宙勤務手当とかがたっぷり付いてくるからここに来るだけで給料が上がるシステムなんだよ。」

「へぇ〜、そうなんだ。」

「オマケに使い所があんまり無いから懐はずっと暖かいまんま。」

 辺境の地に娯楽が少ないのは世の常なり。

「しっかしまぁ、給料が入ったら?」

「やる事は一つしかないよね!」

 二人は通帳の数字を見ながらニシシシシと下卑た笑いを浮かべた。




――数時間後、真嶋家。

「ちわーっす。ピザの宅配っす。ご注文の商品をお届けに参りましたぁ!」

 ピザの宅配が来た。

 配達機械に録音されていた陽気な声が再生される。因みにこの配達機械の到着サインの音声は複数種用意されており、どの音声が再生されるかはランダムらしい。

「はいよー。」

 涼太はそう言いながら玄関を開け、パスワードを入力してピザを受け取る。

「んじゃ熱々のうちにどうぞ〜!」

 機械音声のくせになかなか馴れ馴れしい。

 やはり配達機械の音声への拭えぬ違和感と共にピザを持って部屋に入ると、晶がコーラとゲームの準備をしていた。

「届いたぞ。」

「こっちも準備オーケー!」

 そうして二人は同時にニタリと笑う。

「「それじゃあどんちゃん騒ぎ行ってみよー!」」

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