第31話 実は義弟と荷物持ちジャンケンをしまして……
そうこう歩いているうちにアイスも食い終わり、前々から兄弟が出来たらしたかったことを実行に移すことにした。
そう、荷物持ちジャンケンである。ルールは至ってシンプル、ジャンケンに負けた方が全ての荷物を持つというモノだ。
「よし、それじゃあ晶、荷物持ちジャンケンだ。」
「えぇっ⁈この重たいの二つ持つの⁈絶対やだ!」
「そんなんでどうやって士官学校の生活に耐えてたんだ……。まあいい、筋トレの足しだと思ってさ。」
「うへぇ〜……。兄貴って鬼畜だよね〜……。」
「エンサム2で容赦無くハメてくるお前が鬼畜とか言うな。」
そして厳正なるジャンケンの結果、勝利したのは――
「かっかっかー!見たかコレも兄の実力だ!」
――涼太だった。
地味にコレが晶への初勝利だからか少々小躍りしたくなる。
「実力って、只の運じゃ……。」
「日頃積んだ功徳のお陰だ。運も実力のうちって昔から言うだろ?というかコレは慶喜や土方の恨みだと思え。仇はとったぞ、天国の二人!」
天に向けてビシッと敬礼する涼太であったが、幾ら人工重力があると言えどもここは宇宙空間。正直どっちが天だが分からない。
そして持っていた荷物を晶に渡した。両腕にずしりと重さが増したせいか、晶は「うへぇ〜。」と情けない声を上げる。
「重たい〜……。」
と拗ねた様に晶は言い、
「兄貴〜……。」
と今度は甘えた声を出す。
よくこんな体力で士官学校を卒業できたな……。
チクショウ可愛いじゃねぇか。
可愛い弟の悲痛な叫びを無視するのは、甘やかし過ぎとは思うが、心忍びない。
「じゃあ次の角で交代な。」
「やったー!」
全く現金な奴である。直ぐにさっきまでとは段違いのスピードで涼太が言った角に向かう。
そして荷物を床に置いて、手をこまねいている。
ただまあ、悪い気はしない。そしてそのまま両手に買い物袋をぶら下げながら帰宅した。
この後も晶の機嫌はすこぶる良く、涼太と一緒にゲームに興じたり、涼太の部屋に漫画を借りに来たりした。
そうして関羽と張飛程までは行かないまでも、義兄弟としての晶との絆は確実に固まってきた――かに見えた。
――冥王星沖合二十万キロの空間点。
航空自衛隊航空開発実験集団特務宇宙艦隊旗艦もがみ型宇宙巡洋艦「むらさめ」。
「船務長、無人艦の制御状況知らせ。」
「ハッ、ロ号一番から三番制御状態良好だよ。」
「全く…。宇佐美姉よ、いつも言っているが他の部隊でその言葉遣いをするなよ。」
「りょーかい、橘司令。」
「まあ良い。して砲雷長、砲塔状況知らせ。」
『こちら砲雷長。機関よりのエネルギー伝導終わり、砲塔温度270K前後を維持。三式弾発射可能です。』
スピーカーから曇った音が流れる。
「はぁ〜咲人君、スピーカー越しの冷静な声も素敵…。」
艦長橘冬子二等空佐が宇佐美光莉三尉の痴態(?)を注意する前に話に割り込んできたのは宇佐美三尉の双子の妹、宇佐美千影三尉である。
「ちょっとひーちゃん、真面目にして!私だって、」「「〜〜〜〜っ!」」
やはり双子。二人して言葉にならない可愛い叫び声を上げる。
『全く何してんだか…。』
そう高屋敷咲人三尉が呆れるもの無理はない。何せ宇佐美姉は船務長、宇佐美妹は航海長という責任ある役職に就いているのだ。
と言っても高屋敷三尉に責任が無いわけでは無いが、それは別の話である。
少なくとこのやり取りを一応じゃれつきと周囲は認識しているが、実際は三人で一つのカップル(?)とバレた暁にはどうなることやら……。
そのまま橘司令は続ける。
「して航海長、本艦の進路は?」
「120秒後にロ号一番、射程圏内に入ります。」
「機関室、機関状況知らせ。」
『こちら機関室、各種機器正常動作。航行に支障なしどころか速力増加も可。流石新型主機ですよ。』
機関室からの声は実に騒がしそうな声である。
「師匠も凄いね。」
「そっちの方面も凄いけど、技術者としての腕も一級品ですしね。」
双子姉妹がわちゃわちゃし出した時、橘司令がサイレンを鳴らすボタンを押した。
ウゥ〜、ウゥ〜と警報音が鳴り響く中で橘司令は命じる。
「総員第一種戦闘配置、艦外服を着用。これより三式弾の発射実験を開始する。目標、ロ号一番。」
各員のディスプレイに「火器管制系統制御パネル 三式実体弾射撃用(仮)」が現れる。
『これより実体弾射撃シーケンスに移行。目標ロ号一番。直接照準発射モードを選択。』
ディスプレイ上で「直接照準発射モード」が囲まれ、「照準入力系統の変更を確認」という欄が出てくる。
『目標座標入力、発射準備ヨロシ。』
ディスプレイでも「諸元入力」と「弾頭準備」は完了と表示され、そのまま下に大きな文字で「発射準備完了」が浮かび上がる。
その表示と同時に船外では高屋敷三尉が光学照準装置を覗きながら砲塔を操作し始める。
そして光学照準装置に映る像のピントが定まって、「圏外」の文字が「圏内」に書き換わり、ロ号一番の上に「捕捉」の二文字が表示される。
発射準備完了のサイレンが艦橋に鳴り響き、まさに今航空自衛隊が宇宙海軍としてのルビコンを一つ渡ろうとする瞬間である。
「三式弾、射てーーーーッッッッ!」
『射てーーーーッッッッ!』
ボンッ、という音が轟いたのは艦内だけであったが、艦外にいた高屋敷三尉の身体にも衝撃波が伝わる。だが光学照準装置からは目を離さない。
そのまま弾頭はロ号一番に向かい此れに命中、破壊した。
爆裂四散した破片が観測され、それの記録が艦載カメラに自動的に取られる。
『実験完了。』
橘司令の静かな宣言が機関室についているスピーカーから聞こえる。
「やりましたね。」
「まあ、なんのこれしき。」
そう長い黒髪を左右に揺らしながらご機嫌そうに歩く一人の少女。
取り敢えず艦外服の上だけを脱いだばかりか、髪は少々雑然としている。
「まあ、本丸は次だよ。」
「そうだね、和紗ちゃん。」
そう和紗と呼ばれた少女、西山和紗技官は口許に不敵な笑みを浮かべた。
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