第30話 じつは義母に頼まれてお使いに行きまして……
涼太と晶は二人連れ立ってスーパーに、激務の所為か疲労困憊気味な美由貴さんに頼まれたお使いを果たしに来た。
渋る晶を何とか連れ出し、スーパーへの道中肩を組もうとするも恥ずかしいのか嫌がられた。まだまだ道のりは遠い。
スーパーでは「人間左回りの法則」を逆手にとって、効率的に回るためにわざわざ右回りで回ったりした。そして美由貴さんに頼まれたものを籠に詰めて(余計なものも多分に入れた気もするが……)会計を済ませた後の帰り道のことである。
涼太たちはかれこれ世紀単位でベストセラーし続けている半分に割れる容器のアイス『パピコ』を食べながら帰っていた。
二人ともアイスに口を付けているのでこれでもう共犯である。
「それにしても晶、美由貴さんって凄いな。」
「何が?」
「此のメモだよ。見て何かに気付かないか?」
「……歳が結構いってる割に、平気でキャラ物を使っていること?」
うちの弟はなかなかに神妙な顔して非道ことを言ってやがる。なので思わずツッコミも大きくなる。
「ちげぇよ!年齢とか趣味とかに触れてやんな!——そうじゃなくてリストの順番。」
「え?」
晶は全く気付いていなかったようだが、スーパーを回っているうちに薄々涼太は勘づいていた。
「コレ、思いつきで書いたんじゃなくて、スーパーの売り場の配置順に書いてあるんだ。」
「ゑ⁉」
野菜から始まり、魚、肉、惣菜、日用品と――恐らく美由貴さんは涼太たちがスーパー内で物を探して右往左往しないように、と配置と効率を纏めて考慮してくれたのだろう、あの疲労困憊の中でである。
美由貴さんのバケモノみたいな頭のキレと配慮の計算高さにビビる涼太と晶であった。
そしてこれが意味することとは――――
「「わざわざ右回りしたのはマジで無駄だった!」」
と二人して叫んだのだ。
次からはリスト通りに回ろうと決心する二人であった。尤も余計なものをまた買ってしまいそうだな、と涼太は苦笑した。
歴史は繰り返す。一度目は悲劇として、二度目は喜劇として。
ふとマルクスの『ルイ・ボナパルトのブリュメール18日』に出てきた有名な文句を涼太は思い出した。その言葉通りに全てが収まるのだろうか?
ふとそのような疑念が頭を過ぎる。最近何処となく疑心を働かせるような出来事が続いているせいか、考えが良くない方向に進みがちである。
そのような涼太の黒い思考は晶の呟き中断される。
「多分母さん、昔はスーパーでアルバイトしていたからじゃないかな?」
「……前の会社が倒産した後の混乱期だったのか?」
「父さんと別れるちょっと前だから、多分それぐらい。」
何となく察してそれ以上は深く踏み込まなかった。
両親の離婚——二人に共通する話題。
だがそれに土足で上がっては駄目な気がした。
まだ触れるには関係が浅い、そう涼太は判断した。
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