第34話 じつは給料が入ったのでどんちゃん騒ぎを始めまして…

 机の上に広々とジュースやピザが広げられ、コーラがシュワシュワと泡をたてて弾けている。

 テレビの画面に映るはエンサムのプレイ画面。

「とりゃっ、あっそこ危ない!」

 そして画面には敗北して地面に倒れこんだ土方歳三のビジュの横で、中沢琴の勝利シーンが流される。

「また兄貴の負けだね~。」

 またもやにんまりと楽しそうな顔を浮かべる晶。

 本日十一戦零勝十一敗という実に情けない戦績を叩き出した涼太は、「あーっ、もう!」と悔しそうな声を上げてコーラを一気飲みする。

 と言ってもこのままピザが冷めても余計に興醒めである。またピザを一切れを取る。

 少し冷めたのか、チーズの伸びがさっきより悪い。それが地味に癪に触る。

 だが晶の弾けんばかりの笑顔を見ていると、そんな事は途端にどうでも良くなる。

 勝手に一人でCPU相手に快勝を重なる晶を横目に見て、(此奴、ちと強すぎる…。)と少々ドン引きこそしたが。

 だけど兄貴として、と言うことを考えると十分お釣りがジャラジャラ出るダメージ…な筈。

 それはそうと、晶の口の周りにピザのトマトソースが付いている。

「晶、ソースが付いているぞ。」

「えっ、本当?どこどこ?」

 そう言いながら見当違いなところを一生懸命に擦り、一向にソースが取れない。

「ここだぞ。」

 そう言ってティッシュを一枚取り出し、口元を拭ってやる。

「はい、取れたぞ。」

「あ、ありがとう…。」

 あまりにも餓鬼っぽい行動に少し恥ずかしさを覚えているのか、晶が顔を赤らめる。

 更には少し不満そうな顔でコーラを飲んでいる。

 少しの膨れっ面で、ストローから息を逆流させてコーラをコポコポさせている。

 ボコポコポコポコポコ。

 良い意味で油断してくれている。この晶の綺麗な顔が笑ったり、呆れたり、拗ねたり、怒ったり、今みたいに照れたり、と。

 嬉しい、という言葉が相応しい気分となった。

 だからまるでその音が何かの合図の様に、涼太は喋りだした。

「……晶、俺はお前と兄弟になれて嬉しいと思っている。」

「な、なんだよいきなり……。」

「本心だよ。晶がいなかったら俺は一人でダラダラ過ごすだけの夏休みになってしまう。」

「べ、別に僕じゃなくても誰かと遊べばよくない?兄貴結構友達いそうだし。」

 時折炭酸そのものの気泡が弾ける音がする。

「買いかぶりすぎだよ。」

 一息吸う音がする。最早どちらの息か分からない。

「それに俺はたくさんの友達より少ないけど深い関係の方がいい。」

 またコーラを喉に流し込む。舌で感じる刺戟が少し弱くなった。

「晶はどうなんだ?」

「それは……。」

「やっぱり嫌だったか?」

「ううん……。そうじゃない……。」

 そう言いながら晶は自分の胸の前で両手を包むようにして組む。

「ただ兄貴と一緒にいると時々変なんだ…………。」

「変?」

 晶は手をごそごそと軽くくねらせる。

「こう、胸の中がざわざわするっていうの?何ていったら良いかアレだけど——。」

 今度は顔を赤らめる。

 一瞬悪い予感が走るが、晶はそれをすぐに打ち消した。

「——あっ、でも兄貴と一緒にいるのは凄く楽しいよ!」

「なら良かった。」

 やはり安堵のため息が自分の口から溢れる。純粋に兄として受け入れてくれてる事が嬉しい。

「ただまあ欲を言うと——」

 だけどまだまだ互いに本心を曝け出せるぐらいの距離に縮まっていない気がする。

「——俺は晶との距離を縮めたいな……。」

 互いに親の離婚を経験した者同士、その辺りの話が出来るぐらいに。

「えっ⁉︎それってどういう意味⁈」

「だからもっと気を許せってこと。頼らないかもしれないけど、一応お前の兄貴だからな。」

「あ、兄貴だから、ね? あはははー…。」

 また一つ打ち解けたところで、涼太は漸く踏ん切りが着いた。

「よし!じゃあ晶、一緒に風呂に行くか!」

 束の間の静寂が流れる。晶の笑顔がそのまま固まる。

「え?……えぇえええ――――――――――――————⁉」

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