第27話 じつは義弟に完敗しまして……

 して二十分後。

「――はわッ!ちょっと晶さんストップスト――――ップ!それは卑怯だって!」

「せいッ!」

「うわっ!ちょっ……ガードッ――うわッ!負けた……。」

 涼太は晶にコテンパンにされていた。

 小癪な事に晶はものの十分でコツを掴みだし、すぐに涼太を圧倒し始めた。

 それ以降は圧倒的ワンサイドゲーム、一方的な蹂躙。要はボロカスに圧倒されたのだ。

 無論涼太は一切の手加減はしていない。寧ろガチだった。たったの三戦で晶は涼太と同じ土俵に並んだのだ。……ただ涼太が弱かっただけだが。

「畜生、やるじゃないか晶……。」

「えへへへ~、僕の勝ちだね~!」

 不意に晶は笑った。

 その瞬間、「義弟にゲームでケチョンケチョンに蹴散らされる威厳もヘッタクレもない情けない兄」という己の汚名を忘れた。晶が笑ってくれた、これ以上兄貴冥利に尽きることはあるだろうか。

 だがそれは一瞬であった。直ぐに強くあるべき兄として、歴史オタクの端くれとして、勝利が至上命題たる自衛官として、このエンサム2で敗ける訳にはいかない。

 そして持ちキャラを土方歳三に変更していざ再戦、かと思ったら敗北敗北敗北。

 仕舞にはプライドも威厳もヘッタくれもなく、勝ち筋すら全く見えなくなってしまったのだ。

 ……結果オーライじゃないか。

 ゲームに誘った目的は晶と距離を縮めること。確かに目的は達成している。

 涼太は晶の笑顔を引き出すことに成功し、晶はゲームに夢中で楽しそうだし。満足のいく結果の筈じゃないか……。

 だが腑に落ちない感覚が胸の中に充満する。


『——自分より弱い者のところには嫁に行かぬ。欲しくば打ち負かせ。』


 中沢琴の勝利ボイスが自棄に腹立たしい。

「あははは、また勝っちゃった♪」

 この喜びよう、よもや晶は涼太のことをボロカスにして楽しんでいるだけでは?ゲーム内で日頃溜まりに溜まりまくった涼太への鬱憤をただしゃあしゃあと晴らしているだけじゃないか?

 そうだと思いたくはないが、この様子だとまあ有り得そうだ。

「なあ晶、別のゲームをしないか?ほら、協同プレーで攻略するタイプのやつ。」

「えぇー? 漸く慣れてきたところなのに。」

「まあまあエンサム2は又今度で――」

「いや、もうちょっと――」

 立ち上がろうとしたその時だった。不覚なことに、晶に腕を引かれてよろけてしまった。

「おわっ!」

 そのまま晶の方に体勢が崩れる。咄嗟に受け身を取ろうとしたが、身体の下には晶がいる。そのままだと「バチン!」とソファと共に晶を叩いてしまう。

 それだけはダメだと思い、腕を突きだす。

 そう、傍から見れば晶を押し倒したような姿勢になってしまったのだ。

 晶の眼が大きく開き、瞳孔が大きく開いている。

「だ、大丈夫?ごめん、僕が引っ張ったから……。」

「いや、気にするなって。」

 涼太の顔の、文字通り目と鼻の先に晶の顔がある。

 目のピントが徐々に合ってくると、心惑わされるような感懐に襲われて思わず溜息を吐きそうになった。

 何故美術品として美を感じるときには起きない嫉妬が、人の顔に感じた時に生じるのだろうか?

 見れば見るほど、夜空の星が段々くっきりと見えてくるように、晶の瞳が美しいと感じた。

 すると、とある欲求が涼太の中に湧き起こったのだ。

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