第26話 じつは義弟がゲームに乗ってきまして……

 必要書類の処理も一通り済まして、さて美由貴さんも仕事に戻って家に一人なことだし、暇つぶしにゲームでもしようかとテレビの電源を入れた。

 起動するまで待っている間、ゲームができるなんて贅沢なことだな、とふと思った。

 別に涼太自身が相当のゲーマーというわけでは無い。あくまで暇つぶし程度に少々嗜んでいるだけであり、普段はアニメやラノベを主な娯楽としている。

 ゲームについていえば、とりま話題のソフト(辺境に位置するエンケラドゥスでは幾ら量子もつれを利用した超光速通信が近年運用を開始したといってもやはり地球にある日本本国から相当距離が離れているので流行からは遅れがちになりやすい。)を買ってはみるが中途半端に放り投げて最後までいかないことが多い。コレが悪癖だとは自覚はしているが、一向に治る気配がない。

 取り敢えず適当に目についた『エンサム2』を選んだ。

 この『エンド・オブ・ザ・サムライ2』は幕末の日本を舞台にした対戦ゲームである。登場キャラは新撰組隊士として坂本龍馬やら岡田以蔵やら、他にも多少(どころじゃないのも時折いるが…)マニアックな剣士たちが勢ぞろいしている、幕末マニアには堪らない一品なのだ。

 因みに俺の持ちキャラは土方歳三(別に日本史上トップクラスのイケメンだからとか、某男子校のノリ全開な北海道での金塊バトルロワイヤルの漫画に出てくるお爺ちゃんの土方歳三が格好良いからとかでは断じてない。)だが、しばしば勝麟太郎(勝海舟)も使う。勝麟太郎の必殺技「咸臨丸加農砲一斉射出」はなかなか見応えがあって好きだ。

 ただまあ、未だに陸地に何故軍艦が出現するのかは理解不能。確かに勝麟太郎は日本海軍の祖の一人ではあるが、それにしたってである。

 あと裏技でペリーを出せるが、テメェサムライじゃなくて米国軍人じゃねえか、とツッコミどころ満載なのがこのゲームの魅力(?)である。ちなみに光惺はクソゲーだと言っていた。

 久方ぶりにゲームに熱中しているうちに晶が帰ってきた。

「ただいま~、あれ、母さんは?」

「美由貴さんなら職場に戻った。」

 それ以上会話は続かない。再びコントローラーのボタンを押す音とゲームの効果音だけが居間に木霊する。——が晶は興味深そうにテレビ画面をじっと見つめている。

「やるか?」

「べ、別に……、そんなつもりで見ていたわけじゃ……。」

 やりたそうだな。

「良いから来いって。一寸ちょっと独りでやることに飽きてきた頃合いだからさ。」

「で、でも、やったことないし……。」

「大丈夫だ。コマンドは凡そ他の格ゲーと同じだし、何となくプレーしていたらこういうのって大概できるから。」

「でももうすぐ外宇宙航空機航行がいこう免許試験で……。」

「休憩も大事だろ?取り敢えず一回だけ!な?一寸相手してくれよ?」

 すると晶は暫し考えた上で、渋々といったかんじで涼太の隣に座った。

 機械を操作し、対CPUモードから通常対戦モードに切り替え、晶にコントローラーを手渡す。

「はいお前2Pな。ところでこのハード使ったことは?」

「一応は。士官学校時代の隣部屋の友達が持ち込んでた。」

 そういえば涼太たちの母校、航空自衛隊航空士官学校群には共通して「パソコンの持ち込みは可だが、テレビの持ち込みは禁止」という奇妙なルールがあったのを思い出した。

 そしてテレビ機能の付いたパソコンを持ち込み、中華鍋を自力で曲げてパラボラアンテナを自前で作り出しテレビを受信する猛者が涼太の同期にいた。無論教官たちにすぐに撤去されたがそれなりに映ったらしい。

「そっか。じゃあ今日からうちのを自由に使って良いから遠慮なく遊べよ?」

「あ、ありがとう。」

 晶は少し照れくさそうにコントローラーをにぎにぎしている。朝誘ってもやらなかったのは、実は遠慮していただけなのかもしれない。

「じゃあ早速やってみるか。」

 因みに涼太は徳川幕府最後の将軍、徳川慶喜を選択した。勝麟太郎に次いで涼太がよく使用するキャラだ。

 晶はというと――

「ほう、中沢琴か……」

 中沢琴——女性でありながら男装して新撰組という浪士隊に参加していた女剣士だ。新撰組自体がままマニアックで知名度は低めだ。

「なかなかセンスあるな?」

「なんかカッコよかったからコレにしただけ。」

「あそう……。じゃあステージはお任せで――。」

 そのまま画面がステージ候補がスロットルみたいにピコピコ切り替わり、舞台は自動的に五稜郭に決定された。

 将軍慶喜と新撰組浪士中沢琴が斬り合うとかメンツですら無茶苦茶の限りだが、場所も五稜郭とは歴史マニアからすれば違和感しかない。それはそれで面白いか。

「一応先に言っておくが、俺は手加減できる程器用じゃないぞ。」

「ええ~……。このゲーム初めてなんだけどぉ~……。」

「問答無用!いざッ!」

 ゲームとは雖も、涼太の血が滾る。例え弟が相手でも手を抜くつもりは毛頭ない。だがその昂ぶりも自衛官という職業病故か、それとも涼太に内在する何かが涼太自身を圧迫しているのか。

「ここで兄としてのプライドを見せてやる!」

「年下に勝ちを譲って後進を育成しようとするのも兄だと思うけど……。」

 甘いな。これだから士官学校出たてホヤホヤのひよこは。そして兄として弟だけには絶対に負けるわけにはいかないのだ!

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