第24話 じつは義弟の実父について訊きまして……
「——あの子ったらまだ前の父親のことを引き摺っているみたいなの。」
「…晶の本当のお父さんですか?」
「ええ、太一さんから聞いていると思うけど、また別の意味で大変な人だったよ。」
「それはちょっとだけ聞きました――。」
――家庭を蔑ろにするロクデナシだってことは。
「それでも晶はお父さんのことが好きだから、今の生活に戸惑っているみたい。決して太一さんや涼太くんに問題があるわけではないのだけれども…。」
涼太はこの発言に当惑した。涼太の予想では晶はロクデナシな親父に愛想を尽かした挙句に男性不信になったものと思っていた。
だが、未だに実の親父が好き?好きだったの間違いではなくて?
涼太の頭の中で思考が駆け巡るのをよそに、美由貴さんは答えを与えるかのように続ける。
「私の元夫、晶のお父さんはうだつの上がらない自衛官でね、訓練で成績が上がらないことのせいにして酒や博打に溺れて、あの時敵役の動きがこうだったら、とか自分のことを棚上げにして部下が使えないなどと恨み事をつらつら言う人だったわ。」
「元旦那さん、確か空自でしたっけ?」
「そう……。何度か大規模な作戦に出動したらしいけど、其の度にへまを扱いて部隊全体の足を引っ張ったりと……。結局二尉から昇進もできずそのままお酒に逃げて、あとは太一さんから聞いた通りよ。」
「落ちぶれて結局除隊したんですよね……。」
「ええ。ただ、あの人はいい加減なところがあっても、晶の前だけではいいお父さんだったの。いろんなものを買い与えたりいろんな場所に連れて行ったりと……。」
美由貴さんの眉間に皺が寄りだす。表情もさっきより暗い。
ここから先は、少なくとも赤の他人が土足で上がっていい領域ではない。だがその胸中を吐露したがっているようにも思える。なのでここは晶の為にも無礼千万は承知で聞くしかない。
「離婚以前に、私とあの人との関係はすっかり冷え切ってしまっていたの。結局価値観の違いとして別れてしまったけど……。」
そこで美由貴さんは言葉を区切った。そしてこうボソッとか細く呟いた。
「何を背負いこんでいるのか大雑把でいいから教えてくれても良かったのに……。」
涼太は今度こそ絶対に今踏み越えてはいけない一線だと咄嗟に感じ、この呟きを無視することにした。
理由は分からない。だが確かなことは、親父も晶の実の親父も果報者だという事だろうか。
「でも八歳の晶に価値観の違いで、なんて言っても難しいでしょう?」
涼太は話を合わせる。
「まあ確かに。価値観って何?って感じでしょうね。」
「私たち夫婦の間に挟まれた晶は、私たちの問題なんて全然関係が無かったの。理由もよくわからないまま成長して……。いつの間にかお父さんって口に出さなくなったわ……。」
「そうだったのですね……。」
頭の中に甦るは己の忌まわしき記憶。涼太を産んだ女の悲しそうな顔、項垂れる親父、そして夢に見たあの「SIGNAL LOST」とだけ表示されたモニター。
己の中にある、まだ知覚できていない黒い部分が疼きだした。
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