第23話 じつは義弟の趣味を義母から訊き出しまして……

「それはそうと美由貴さん、相談したいことがあって、じつは晶のことなんですけど……。」

 改めてひなたちゃんのアドバイス通りに晶の趣味を聞き出そうとする。

「あらやだ、あの子ったらまた何かしちゃったの?」

「ああ、いえ。そうじゃなくて、晶のことを訊きたくて……。」

「晶のこと?どんなことかしら?」

「俺、もっと晶と仲良くなりたいんです。ですがきっかけがなかなか見つからなくて……。」

 すると美由貴さんはにっこりと満面の笑みを浮かべた。

「嬉しいわ。涼太くん、あの子のことを考えてくれていたのね?」

「ええ、まあ……。義理とはいえ折角兄弟になったので、晶がどんなことが好きなのかとか、趣味とかを訊きたくて。」

「そうね~……。」

 美由貴さんは顎に手を置いた。

「好きなことは漫画を読むことかしらね?」

「漫画?」

「私はその方面には疎くてねえ。よくわからないけど、。それと趣味はゲームね。いつもスマホで

ゲームをしているわよ?」

 なんだ、涼太の閲兵、監査、実弾訓練、昇任試験、免許更新試験、空英検等の面倒くさい諸行事が無い期間ゴタゴタとした用事のない僅かな暇な時間と一緒じゃないか。

 だったら話は早い。晶にもそれとなくそういった話題を振ってみよう。

「有り難うございました。晶との関係を構築することがなかなかできなくて丁度悩んでいたんです。」

「母親の私でも分からないことが多いわ。まあただでさえ仕事が忙しくてまともにコミュニケーションを取れなかったばかりか、一度本当に失業して親子共々路頭に迷いかけたという心配や苦労を掛けた時点で母親失格だけど。」

 おっと、美由貴さんが横に目を向けると同時に眼からハイライトが消えたぞ。そして普段の様子からは想像だにしないほどに、何とも言えない陰の真っ黒なオーラが漂っている。

 どうやら以前の勤め先Cosmo Developmentのことは禁句のようだ。

 そして一頻り昔の会社や上司の恨み節を早口すぎるほどのスピードで独り言ちった後、ハッとしたかのようにめをパチクリさせて「ごめんなさいね。ちょっとトラウマで……。」と申し訳なさそうに言った。

「いえ……。」

 やはり親世代になると時代柄トラウマも多いのだろう。

 勢いそのままに美由貴さんは言葉を続ける。

「でも涼太くんのような素敵なお兄ちゃんができて、あの子もきっと嬉しい筈よ。」

 そう美由貴さんに言ってもらえたのは良いものの、一抹の不安が残る。

「晶は嬉しいって思ってくれますかね?逆に迷惑って思うんじゃないですか?干渉するなって……。」

「どうしてそう思うの?」

「ほら、馴れ合いは勘弁って顔合わせの時に……。」

「それは――。」

 脳裏に浮かぶは顔合わせの時の光景。

 そもそも色々と不服そうな不貞腐れた顔。涼太に視線を向けるどころか明らかに『真嶋涼太』の存在を捉えていないことを物語る目線の先の床。空を切る握手の手。そして空気を冷たく切る晶の拒絶の言葉。


『馴れ合いは勘弁してほしい。』


 晶かな拒絶の瞬間を一つ一つの情景と共に丁寧に思い出してしまい、どことなく胸の奥が苦しい。

 だがそこで美由貴さんから発せられた言葉は意外なものだった。

「――あの子ったら、まだ前の父親のことを引きずっているみたいなの。」

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