第22話 じつは義母の仕事について(成り行きで)に訊きまして……

 エンケラドゥス標準時で午後三時半、モノレールの中は車内についている人工照明の白い光で充満しており、暗いトンネルの中では影を反映させる。

「まもなく、第六官舎地帯、第六官舎地帯です。お出口は右側です。本日もエンケラドゥスモノレールをご利用いただきありがとうございます。」

 涼太の最寄りの駅が近づくといつも通りの自動音声によるアナウンスが掛かる。

 この時間のモノレールは人がまばらだ。いても移動中の背広組か民間事業者、親子連れといったところか。涼太以外に制服を着ている人間はいない。

 駅に着くとドアが開くが、涼太以外に降りる人間はいない。

 そのまま改札を抜けて家路を辿ると、たまたま美由貴さんが家にいた。

「あら、涼太くん。おかえりなさい。」

「あれ?美由貴さん、今日会社じゃないのですか?」

「ええ、でも前の部門に比べたら閑職だからそこまで大変じゃないわね。」

 口ではそう仰ってますが、同居を始めて一週間も経ってないうちに十二時回って帰宅したこともあるので、激務である事には違いない。

 親父も親父で仕事柄数日家を空ける事もザラであるので、夫婦の時間が上手い事取れているかどうかは正直少々疑問であり、心配でもある。

 かくいう涼太も夜間待機等で丸二日家を空けることも多いので人のことをあまり言えないが。

「そうでしたか。あと今更聞くのもなんですが、美由貴さんはどういった仕事をしているんでしたっけ?」

 そういえば美由貴さんの仕事の詳しい話は聞いてなかったなと思い、この機会に思い切って訊いてみることにした。

 ものだし。

「あら、太一さんから聞いてなかったの?」

「はい、三菱商事に勤務しているとしか…。」

「そうねえ、じゃあ一応コレを。」

 そう言って美由貴さんはカバンから名刺ケースを取り出し、一枚の名刺を差し出した。

 名刺には「三菱商事株式会社 社会インフラグループ 宇宙インフラ本部 土星資源エネルギー開発事業部 エネルギープラント開発グループ第三管区 チーフエンジニア 富永美由貴」とごっちゃり書かれていた。

 美由貴さんは涼太に名刺を渡しながら気づいたのか、「あら、苗字変えなきゃ。」と呟いた。

 涼太も「頂戴します。」と言い、美由貴さんの名刺を受け取った。そして「親しき中にも礼儀あり。」という故事通りに、自分の名刺を返礼として差し出した。

 涼太の名刺は美由貴さんのと違ってシンプルに「防衛省 航空自衛隊 エンケラドゥス駐屯地 三等空尉 真嶋涼太」とだけ書かれている。因みに背景はコスモファルコンの写真である。

「あら、やっぱり二人は親子ね。」

 涼太の名刺を見て美由貴さんが言った。

「そうなんですか?」

「ええ、初めて知り合った時は確か太一さんはまだ海上自衛官だったけど、その時の名刺に文字のフォントや構成が似てるわ。でも『日本海軍第三護衛艦隊司令部付海軍大尉』とか書いてて、癖が強いなぁ、と思ったけど。」

 そうあっけらかんと昔を思い出して美由貴さんは笑ってるが、涼太としては親父の昔の名刺が中二病丸出しであるという事実を知ってしまい、何処となく嫌な気分になってしまった。

 そうなると何故二人が結婚したのかが益々わからなくなってきた。

 取り敢えず涼太はこのネタをスルーすることに決めた。そして本題に移る。

「それはそうと美由貴さん、相談したいことがあって、じつは晶のことなんですけど……。」

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