第20話 じつは大敗を喫しまして……
――また負けたな。
そう思いながら涼太はエンケラドゥスへ帰還していた。前方を航行する親父の『ゆきかぜ』が正直鬱陶しい。
スコードロンリーダーの塗装として標準的な白郡ではなく花紺青の色をしている『ゆきかぜ』は、全長八十メートル(涼太が乗るコスモファルコンが全長十五・九メートルであることを考えると、小ささがよく分かる。)とそこまで大きい艦ではなく駆逐艦というよりコルベットという方がサイズ感的にしっくりくるが、涼太には物理的な大きさ以上に大きいものとして感じられた。
そしていくら宇宙空間で洋上艦より機動力があるとはいえ曲がりなりにも艦艇なので、流石に航空機に機動戦では敵わない筈だ。
だが現実はどうか、普通に航空機顔負けである。単艦で戦うときは勿論、この艦隊は艦隊で
して今回の訓練成績は、
航空隊被撃墜十八
(内訳 作戦機十七 偵察機一)
第四駆逐隊
ゆきかぜ 小破(左舷対空機銃一部被弾)
はまかぜ 小破(艦首空間魚雷発射管被弾)
しまかぜ 中破(姿勢制御装置艦底部ノズル出力低下、艦底部クラス1(一応艦の内部ではあるが装甲は薄く滞在には宇宙服が必要な外縁部)区画一部露出)
司令部判定 第四駆逐隊勝利
という結果に終わった。
涼太はギリ終盤まで持ちこたえたが、ミサイルを切らしたのでガドリング砲による突撃攻撃を親父の艦である『ゆきかぜ』に敢行し、見事対空機銃の一部を無効化することには成功した。だが、結局『ゆきかぜ』の主砲に撃墜された。
「撃墜判定」との文字が表示されると同時に『訓練空域より待避』という機械音声が繰り返され、直ぐに待避区域へと機首を向けた。
待機区域では少しの間機をホバリングさせながらボーっとレーダーで訓練の推移を眺めていた。
やはりというべきか、わが小隊長吉田一尉はなんやかんや残っている。そして偵察隊に所属する親友の光惺も意外なことに(失礼だが)残っている。しかもちゃんと危ない空域を戦果確認をしながらしっかり飛んでいるのだ。
確かに光惺は士官学校でも光惺は開校以来最高の航空機操縦スコアを叩き出したが、まさかもうここまで通用するものとは、と感嘆を禁じえなかった。
そして航空隊残機が武装を全て使用し切ったのを以てエンケラドゥス守備隊司令部は訓練終了を宣言、そして順次帰投の流れとなった。
そして現在エンケラドゥスに向けて飛行中である。
すると案の定ピピーンピピーンという音を立てて、親父からの秘匿回線での着信が知らされる。ケッ、と思いながらも回線を開いた。どうせ切っても優先通信で無理矢理回路をこじ開けられるだけだ。
『おう、涼太。調子はどうだい?』
実に陽気な声である。普通にムカつく。
『惨敗して調子がいいとでも?』
『おっとそれはそうだった。フッ。』
『あっ、今親父鼻で笑ったな!』
『さーて、どうでしょう。』
いつになく勿体ぶった調子である。イライラが募り、額に青筋が出来る。
『それにしても涼太、今日は根性を見せたな。』
『ああ、あの最後の突撃か。』
『あれはよくやった。成長したな。』
親父はへへっと笑った。
『てか親父、また機動戦を仕掛けてきたな。前は急旋回しながらチャフ出してたし。』
『まあ洋上と違って水や空気の抵抗はないし、艦を三百六十度自由自在に機動することだってお手の物よ。あとチャフやフレアが航空機の専売特許とは大間違いだぞ。普通に洋上艦に搭載されているぞ。』
『……マジか。』
ところがここから親父の口調が変わる。
『それはそうとここからは真面目な話だ。』
『………一応聴こうじゃないか。』
大体これぐらい親父が話を勿体ぶるときは九割方碌なもんではない。が、万一があるので一応聞いておく。
『近々お前に転属の辞令が来る。』
おっと、ガチだった。
『…マジで?』
『嗚呼、マジマジの大マジよ。』
…訂正、あんまりだったわ。だが親父は續ける。
『だが詳しいことは俺も似たような辞令を受ける予定だってこと以外は、俺の口からはこれ以上何も言えない。』
いつになく最後の方の言葉が尻すぼみする。
『…どういうことだ?』
少し逡巡してから問いかけた。
『本当に涼太、ごめん。』
ところが親父はそう言い残して回線を切ってしまった。ディスプレイに残る『SIGNAL LOST』の表記が点滅するのが何処となく心に少し引っかかる。
どうやら最近身の回りで色んな事が起きすぎているせいか、通信アプリを切るのと同時に、ドッと気疲れが体中に波及したような感覚が体を走り、怠くなる。
それにしてもこの胸騒ぎ、本当に何だろう?
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