第15話 じつは義弟と風呂で遭遇しまして……
夕食後、部屋でノーパソ相手に過去の模擬空戦の訓練データをダラダラ見ていたら、風呂を済ませたのであろう美由貴さんが涼太を風呂に呼びに来た。
「涼太くん、お風呂開いたわよ。」
「了解です。じゃあ頂きま……——」
ハッキリ申し上げよう。十代男子には実に目に毒です。
少々ぎごちなくなりながら風呂へ向かった。
涼太は脱衣所で風呂に入るために服を脱ぎ始めたところだった。上着のファスナーをジーッという音と共に下げる。
先ほどの夕食時の大失態を思い出し、思わず手が止まる。親子共々夕食に出てきた料理を美味い美味いと褒めまくった挙句にそれらが民生スーパーの惣菜だと知った。
正直めっちゃ恥ずかしい。
敢えて戦果を上げるとすれば、親子そろっての滑稽な様子に晶がツボったので無駄骨ではなかった事だろうか。
ただまあ、美由貴さんに訊きたいのは「どうしてこんなうちの親父を選んでしまったのですか?」という事であろう。
こんな残念な親父で本当によかったのですか?
てか唐変木な親父が何故こんな別嬪さんを嫁にもらう事が出来たのだろうか?
やっぱり分からない。
そのまま上着を脱ぎ、それを洗濯機に放り込もうとしたら、とんでもないブツが目についた。
そう、美由貴さんのブラジャーである。そして何がとは申さぬがただ一言、デカい。
何とも言えぬ気分になってそのまま素早くシャツやズボンを脱ぎ、パンツまで脱いで全裸になった――と、その時扉の向こうに誰かが立った気配がした。
――トントン……
最悪の事態とそれに対する言い訳を頭の中でグルグル考える。
まさか――
「ごめん、僕だけど……」
晶であった。
涼太はほっと安心し「入っていいぞ。」と返答した。
「ごめん、まだ入ってな――」
扉を開けて顔を出した晶が一瞬で固まった。
「どうした?先に風呂に入りたかったか?」
「あ、あああ、ああ、あの、その……」
晶は小刻みに震えていた。顔色は赤くなったり青くなったりと忙しない。
「俺、もう脱いじゃったから次で――」
次の瞬間、扉は勢いよく閉められた。そとからドカドカといった足音が聞こえてくる。
よくは分からなかったが、多分先に風呂に入りたかったのだろう。
湯船に浸かりながら、新たな家族が増えたという感慨に浸る。真嶋家の再出発だ。
まるで内惑星戦争で疲弊しきった人類が再出発を切る再生の物語かの様に感じられた。
――いや、それは考えすぎか。
水中から勢いよく手を上げると、水が浴室内を跳ねる。
涼太は思いついたかのように息を吸う。そしてそのまま湯の中に潜り込む。
――水の世界。
慣性制御技術によって地球上と同じ重力が発生しているエンケラドゥスでは宇宙空間の様に水がゼリー状の塊になって浮きはしない。そう、仮初の繋ぎ。
新たな家族との絆が仮初にならぬよう祈りながら、顔を湯船から出した。
風呂から出たついでに歯を磨いているとまたコンコンと控えめなノックが聞こえてきた。
「……もう上がった?」
またもや晶である。そのまま扉越しに返答する。
「もう上がった。」
「……服は?」
「着てるよ。」
そのままソロリと扉が開き、晶がおずおずと顔を出した。
「ありがと……。——あと、さっきはごめん……。」
「何が?」
「だから、い、色々見ちゃったし……。」
晶は顔を真っ赤にさせる。
「ああ、あれか?俺は全然気にしてないぞ。」
「そ、そんな、見れれて気にならないの⁈」
「そりゃまあ、家族だったら裸ぐらい当然だろ?」
尤も美由貴さんは除くが。
「ふ、普通なの⁈」
プールや銭湯に行けば男同士でも裸を見られるのは当然だ。そもそも男同士、気にする必要はない。
ただ、晶の場合は父親の件もあるのか少々同性の男性不信な節がある。やはり抵抗はある程度感じるのだろうか?
「でもまあ、今回は俺の方こそ悪かったな。次からは気を付けるよ。」
「う、うん。そうしてもらえると助かり…ます。ありがとう、涼太くん。」
何だか他人行儀に聞こえた。
「そうだ、俺のことは兄貴と呼んでくれ。」
「アニキ?」
「ああ、涼太って名前呼びでもいいし、兄ちゃんや兄さんでもいいけど、できたら兄貴の方が嬉しいな。」
兄を貴ぶと書いて『兄貴』。うん、いい響きだ。
「それじゃあ、兄貴で。」
「おう!」
また少し打ち解けたところで、涼太は歯磨きを再開した。ところが…
「…じゃあ、兄貴。出てってくれる……?」
「ペッ――え?俺まだ歯磨きの途中だけど……。」
「僕、風呂に入りたいし……。」
「俺のことは気にしなくてもいいぞ?歯を磨いたらすぐに出るから――」
「い、いいから早く出てって!」
そのまま歯磨きも半ばのまんま、洗面所から追い出された。
そのまま台所で歯を磨いて、部屋に戻った。
布団に寝っ転がりながら、少々晶について心配になった。苦手とはいえ同性の裸を見ずに過ごすことは殆ど不可能だろう。そうなれば晶は将来困ることも多い筈だ。
そのままではいけない。
ならば、自分が文字通り一肌脱ぐ他なし。機会を窺って、兄弟で背中流しとかもするか!尤もそれ程に至るまでにはどれだけの時間がかかるか分からないが。
後に実際に実行した暁には大後悔する羽目になってしまった事を考えながら、涼太は眠りについた。
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