第14話 じつは義弟に見とれてしまいまして……
先ほど宇宙港まで行って取って来た荷物を美由貴さんのと晶のとに仕分けてそれぞれの部屋に運び入れる。親父は美由貴さんのを、俺は晶のを運んだ。
晶の部屋の前に到着した時、段ボールを三箱持ちながら言う。
「——ここ、晶の部屋だから。」
そう言って右足で扉を蹴破り、丁寧に段ボールを床に置く。
「ここが僕の部屋?」
「ああ。隣は俺の部屋。で向こうは親父と美由貴さんの部屋。廊下の突き当りはトイレだ。」
「う、うん……。」
晶はどこか戸惑っているようだ。
扉の前で立ちすくみ、中の様子をじっと眺めている。
「ほら、遠慮せずに中に入ってみろよ。」
「あわっ⁉」
俺は晶の背中を押し、少々強引に部屋の中に入った。
大して大きくもなく小さくもない、だが小綺麗に清掃とワックス掛けはしている部屋。流石は佐官の官舎、エンケラドゥスでは結構マシな部類の部屋である。無論日本本土の方がよっぽどいい部屋は多いが。といっても地球上の他国の疲弊度からしてもこの部屋は相当マシであろう。未だにアメリカのニューヨークや中国の北京ですら内惑星戦争時に建設された避難用地下都市の大部屋で雑魚寝なんかザラである。
因みに親父がちゃっかり注文していた新品のベットや棚やエアコンなんかも数日前に運び込んだばっかりだ。
といっても地獄のワックス掛け等(てか一番しんどかった作業である。)の苦労について押しつけがましく言うつもりは無い。新たなる家族を迎えるのに当然の準備をしただけなのだから。
「どうだ、感想は?」
話しかけても応答が無い。一瞬どうしたんだろうと不安になったが、晶から「うわー………」と感嘆の声が漏れた。
「気に入ったか?」
「こんなにきれいな部屋を使って良いの?」
「勿論。さあ荷解きだけで大丈夫だぞ。」
「うん。」
余程部屋が気に入ったのか、返事が「了。」じゃなくなっている。
「家具の配置換えもしたかったら手伝うし、他に必要なものがあったら遠慮なく俺や親父に言ってくれ。なんたって先輩と上官をパシリにできるまたとない機会だからな。」
晶は「ありがとう。」と言って振り返っていた。
俺は油断して、さっきの玄関での件の反省を全く生かせなかった。
だから次に目に映るものに心がすっかりかき乱された。まるで凪いだ水面に小石が落とされた後の様に。
目が離せない。
そこにあったのは、少年の無邪気に弾けた笑顔ではなく、
無垢な少女のはにかんだ笑顔があった。
幾分か経ち正気を取り戻した時、晶はいつもの仏頂面を浮かべ、小首を傾げていた。
「……どうしたの?」
「ああ、いや、別に……。」
こういう時変に何かを言おうとすると無駄に上擦るだけである。だが口ではそうでも、体の動きは如実に動揺を表出する。なので俺は誤魔化す様に段ボールに手を伸ばす。
「段ボール開けるね。」
「ああっ!それはダメ――――――!」
「ゑ?」
思わず古文調の発音になる。晶が急に顔を真っ赤にして慌てだした。
見ると段ボールに「衣類(その他)」と書いてある。
はっとした。(その他)の表記は下着を表すやもしれぬ。確かに男同士でも気を遣うのは世の常なり。
「あ、ありがとう。あとは僕一人でやるから出ていってもらえる?じゃあ――」
「えっ…………———」
そのまま扉がバタンと閉まる音がして、俺は追い出された格好となった。
「じゃあ、ごゆっくり~……。」
当然返事はない。
晶との心の距離はまだこの扉の様に隔絶されたままだ。
といってもまだ俺たちの関係は始まったばかり。
気を取り直して次を考えよう、と思って隣の自室に入った。
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