第12話 じつは新たな家族のために家の準備をしまして……
「涼太よ……。」
「はい親父、すいません…。」
今御覧のとおり居間にて正座して叱られているのは真嶋涼太三等空尉である。
「昨日のうちにせめて荷物を退かしといとけと言ってたよな。」
「面目ありません…。」
こうなると親父は手を付けれない。言い訳したところで更にキツイのが待ってるだけだ。
「美由貴さんと晶の部屋のワックス掛けを今日する筈だったが、罰として家の床全部にワックス掛けすること。」
「ヒェッ!」
「疲れてたからが何だ、弛んどるぞ!貴様は士官学校で何を学んだ!即応精強だ!掛かれッ!」
即応精強って海自のモットーじゃ…と思わんでもなかったが、よくよく考えると親父は元々海上自衛官で洋上勤務だったのを思い出した。
そして地獄のワックス掛けが始まった。
実際二人に割り振られていた官舎はそこまで大きくなかったので思ったよりは幾分か楽であった。荷物をすべて出して一気にワックスを二時間で掛け、乾くのを待っているころ、
「そういや美由貴さんと晶の荷物が港に留め置いてたままだからちょっと取ってこい。」と言われた。
え~、と思わんでもなかったが可愛い義弟の為にひとっ走りしてくることにした。
「トラックはそこにあるぞ。」
「了。」
そうして親父は私用のトラックのキーと民間貨物ターミナルのIDカードを投げ渡してきた。
エンジン(閉鎖系の環境のため、基本的に乗用車は電気自動車が主流だが、馬力が必要なトラック等は水素自動車が多用されている。)をかけて、そのまま発進させた。エンケラドゥス内部には一応車両用道路は整備されているがその半分以上は自衛隊用であり、民生設備がしっかりしているとは言い難い。
そのまま五分程中央環状道を走り三つほど自衛隊用ゲートを通り過ぎた時、「エンケラドゥス宇宙港民間ターミナルIC」と分岐する矢印とともに描かれた緑色のサラの案内標識が見えてきた。それを通り過ぎるとその二百メートル先にある「民間貨物ターミナルICまで百メートル」の青い錆びた看板が見えてくる。その看板に従い貨物ターミナルに直行する。
民間貨物ターミナルの門前は閑散としていた。警備していた警察官にIDカードを提示すると、直ぐに門が開いた。敷地内は閑散としており、貨物はスペースの半分程度しか残っていなかった。そこから新しい家族の荷物を回収して退出門から出て帰途に就いた。
官舎に戻ると親父が外に出した荷物の上で何処か黄昏れながら胡坐を掻いていた。
「何やってんだよ、親父。」
そう言いながらエンジンを切り、トラックから降りた。
「おお涼太か、お帰り。」
涼太は段ボールを荷台から降ろし始めた。
「まだワックス乾いてないから荷物は運びこまないでいいぞ。」
「了。」
ところが親父は徐に口を開きだした。
「涼太、よくやった。」
そして涼太の頭をワシャワシャ激しく撫でた。
「どうした、親父?」
「昨日の件を知らないとでも?」
そうして似合わない優しい笑顔を向けてくる。いや、本当はこうする方が似合うのかもしれないが、職業柄なかなかできるものではないのかもしれない。
そして只一言「よくやった。」と言った。
「……親父、それを知ってたのなら今日のお仕置きを無しにしてくれよ…。」
「いや、それとこれとは別だろ。ぶっちゃけ寧ろそんなに体力がないのかとほとほと呆れたが。」
真顔で言い返された。自衛官としてはぐうの音も出なかったが。
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