第10話 じつは模擬空戦に完敗しまして……

「で真嶋三尉、今回の作戦は?まあ分かり切ってはいるが。」

 小隊長の吉田一尉が涼太に問う。

 基地に帰還した後のブリーフィングルームで、Echo隊の反省会が行われた。

 だが涼太の返答を待たずして吉田一尉は続ける。

「まず誰が土星の環を出て戦わないと決め付けた?」

 ごもっともな意見であるが、そんなこと今回の作戦を考えるときには一切考慮していなかったのだ。一瞬にして頭から血の気が引く。

「まあ確かに土星の環の中で戦うのは熟練でも神経を擦り減らしミスを誘発しやすいのは事実だ。今回はそこを突くために衛星の影に隠れて奇襲を掛けようとしたんだな。」

 殆ど全てを見抜かれた。

「まあ搭乗歴1年ちょっとにしては大したものではあるが。俺たちをギャフンと言わす日を楽しみにしているぞ。」と肩をパンパン叩かれた。

すると八木三尉が「一つ質問をよろしいでしょうか?」と手を挙げた。

「何かね?」

「一体どうやって自分を撃墜したのでしょうか?」

「それは簡単だよ。お前らが設定した囮の飛行経路には一つ弱点があったからだ。」

「……その弱点とは?」

 涼太もそこが気になっていたので尋ねた。

「まあこれは宿題だ。次来る時まで考えとけよ。」

 といって吉田一尉と磯部二尉はブリーフィングルームを後にした。


 もう帰ってもよかったがどうも引っかかることがあり、涼太は一人搭乗員休憩室でタブレットを使て今回の模擬空戦のデータを見ていた。

「どうも引っかかるんだよな…。」

 タブレットに表示されたEcho4が撃墜される寸前の各機の配置図を睨んでいる。

「何が引っ掛かるんですか、涼太先輩。」

「あっ、ひなたちゃん。」

 いつの間にかひなたちゃんが隣に座ってた。

「どうしたの、こんなところに?」

「じつは…」

 といってついさっきあった出来事を語ってくれた。


 ひなたちゃんはいつも通り担当する機の着陸誘導を出していた。ところがひなたちゃんは着陸態勢に入った機の機首の角度のずれが許容限界を超えていたことを把握できておらずそのまま着陸させようとしたらしい。尤も先輩オペレーターに気付いてもらい事なきを得たらしいが。


「ハア~、やっぱり私って駄目ですね。」

 正直そこまで落ち込まなくても、と思う。実際機の様子が一番わかる人というのは搭乗員であって、流石に機軸の角度ずれの把握をオペレーターに求めるのはパイロットとして如何なものかと疑いたくなる。

 ん…………………?

「ちょっと待って。」

 そう言って涼太は今まであまり気にしたことがなかった機体姿勢記録データと模擬弾の飛翔経路を表示させた。

 すると、模擬弾の発射角が機体の進行方向から三度ずれていたことが分かった。そして模擬弾の発射方向は機首と同じ方向で固定されている。

「つまり吉田三尉は機首方向を三度ずらしながら機体を斜めに滑らせることで八木三尉の機体が衛星による機銃からの遮断から無防備になる瞬間を狙った、ということか…。」

 頭の中で色々とパチパチとボタンを押すような音が木霊する。

「涼太先輩…?」

 涼太の頭の中はまるで雲一つないほどに清々しい気分となった。

「ありがとうひなたちゃん!おかげで一つ謎が解けたよ!」

「あっ、どうも…。」

 少々ひなたちゃんは引いていたが、涼太の役に立てて良かったと思う部分も大きかった。

 ところがまだ事件は終わらない…。

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