第5話 じつは新しい家族の先行きが不安でして…
その後、俺たちは料理を囲みながら差し障りのない程度の会話をしつつ、それでもなんとかこの場の雰囲気を盛り上げようと必死に言葉を繫いでいた。
俺は終始、親父と美由貴さんの話に加わってウンウンと相槌を打っていた。
というか、もはやそうするしかなかった。
この一時間弱、俺や親父が晶に話しかけて返ってきた言葉は、「うん。」「はあ?」「はい。」「いいえ。」「さあ?」「そうですね。」「どうでしょう?」だけ。
確かにスクランブル帰りにはキツい。
そんな無愛想でぶっきらぼうな晶に話しかけるのもほとほと疲れ、俺はただ大人二人の話を聞いて相槌を打つだけの首ふり人形に徹することにした。
たまに晶と目が合うが、合ったそばから不機嫌そうに視線を逸らされる。
せっかく兄弟になるのだから仲良くしたいのに、よくはわからないが俺は嫌われてしまったらしい。
そうして顔合わせも終盤に差しかかり、ようやく和やかな雰囲気(若干一名除く)になりつつあった。
だが、そこで親父がなにを血迷ったのか、「はい。」と晶にメニューを差し出したのである。
「そろそろデザートを頼もうと思うけど、なにがいいかな?」
ごく稀に見る親父の柔和な笑顔。多分ゆきかぜの部下が見たら気味悪がって逃げていきそうな顔だ。
だが紛れもなく、駆け引きも懐柔の意図もない、ただ純粋な思いやり、気遣いからの言葉は、
「今日はそういう気分じゃないんで。」
と粉々に打ち砕かれた。
「うぐっ……。」
親父は呻いたが、メニューを差し出したのが俺だったら吐いてるかもしれない。こういう系のメンタル打撃の対応訓練をカリキュラムに組み込まなかった士官学校よ、恨むぞ。
「ちょっと晶! ──あ、太一さん! 私このショートケーキがいいなぁ、なんて……。」
「お、俺も美由貴さんと同じものにしようかなぁ、あははは……。」
また大人たちがひたすら愛想笑いを始める。俺はだいぶ引いていた。
一方の晶は我関せずという感じで、ぶっきらぼうな態度をとったままソフトドリンクをちびちびやっている。
空気が読めないのかあえて読んでいないのかはわからないが、わかったことが一つだけある。
──最初から再婚には反対なんだな、こいつは。
心の底からため息が溢れ出そうなのを我慢して、俺はトイレに向かった。
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