第14話 百人殺しのウソ

 水面に写る月がキレイだ。そう思いはしても、ティベリスは口をきけない。イーリアが依然として、無言のままだったからだ。


 シワだらけの口が重たい。開きかけては閉じる事を繰り返す。そうまでして引き伸ばされて、ようやく飛び出した言葉は、思いのほか明るく響いた。



「ウソだなんて、ぶしつけだね。なぜそう思うんだい」


「経緯はセフィラから聞いてるけど、なんだか話がチグハグでさ」


「チッ。口の聞き方に気をつけな。アタシは血も涙もない人殺しなんだ。100人の躯(むくろ)を、今ここで101人に増やしたって良いんだよ?」


「じゃあ聞くけど、どうしてセフィラに呪いをかけたの?」


「そりゃアンタ、あの世でもアタシの世話をさせるためさ。料理に洗濯に掃除にと、仕事はいくらでもある。死んでからも散々コキつかってやるのさ」


「やっぱり不自然だよ」


「何が」


「首の魔印(まいん)だっけ? あれのせいで、セフィラは命を落とすんだよね。おばあさんが亡くなった時に」


「そうだよ。それがどうした」


「解決法を教えちゃってるじゃない。ソフィアの軟膏で、魔印を消せるんでしょ? 本気で死なせようと考えてたら、普通はそういうことを隠すよね」


「いや、それは、アレだ。未熟者には逆立ちしても作れない代物だからね。絶望のドン底に突き落としてやろうと思ったんだよ」


「セフィラが錬金術を学び始めたのが、12歳だから、もう7、8年くらい経ってるよね。絶望を与えるにしては、猶予が長すぎると思うんだ」



 ティベリスは視線を水面からイーリアに戻した。まっすぐだが、優しい目をしていた。



「事実はたぶん逆だよ。まるで、生きている間に成長して欲しいと、おばあさんが願ってるように感じるんだ」


「違うね。アタシはそんなお人好しじゃない。散々に人を殺して、のうのうと生き延びてしまった、卑怯で汚らしい死にぞこないさ」


「そこもなんだ。僕はね、おばあさんが大勢を殺した悪人には見えないよ」


「知ったような口を」


「知らない。知りようがない。だから教えて欲しいんだ。おばあさんの事を、そして、セフィラとの関係についても」



 イーリアは、体ごと湖の方に向いた。口は閉じたままで、顔もふせられた。その瞳は深く深く沈んでいて、夜の湖面よりもずっと暗い。


 どれだけ静かな時が流れただろう。やがて、イーリアは重たい口を開いた。そうして明かされたのは、彼女の懺悔(ざんげ)の記憶だった。



「今から20年くらい前になるか。当時のアタシは冒険者で、名のしれた錬金術師だった。何でも作れるし、適当にやっても仕上がりは高品質。人々からは天才だともてはやされたし、自分もそう思ってた。後にも先にも、アタシ以上の逸材なんて、いやしないってね」



 いかに才能があっても歳には勝てない。60歳を前にして、引退を意識するようになる。片田舎の町に新居を構えて、ゆっくり余生を過ごしながら跡継ぎでも育てよう、などと考えていた。


 しかし、そんなあわい人生設計は、とある事件により踏みにじられてしまう。



「ふらりと寄った村に、特に用もなく、何日か滞在した。なにか素材の入荷を待っていたんだと思う。そこへ突然、村に異変が起きたんだ」



 イーリアは、ハァと声に出して溜息をついた。



「迷宮薬さ。当時、幅を利かせてた盗賊共が、村を襲いやがったんだ。薬で周辺を迷宮化されたせいで、アタシらは村から出られなくなっちまった」


「その薬……。セフィラが森で使ったものと同じやつだね」


「盗賊共は、アタシらが他所の町に応援を呼ぶ事を恐れたんだ。だから閉じ込めた。アタシらは必死に抵抗したよ。むざむざ殺されたくはなかったからね。元気な村人は武器を手にとって戦い、アタシもできる限り、錬金術でサポートした。この甲斐あって、何日も何日も守り抜いた。明日には迷宮薬の効果がきれると信じてね。そして、村の外に助けを呼びに行くんだって……。今思えば、甘っちょろい見通しだったよ」



 イーリアは、そこまで言うと、またもや大きな溜息を吐いた。息継ぎをした後、さらに続けた。



「やつらは毒を使いやがった。空気感染する猛毒で、村人は次から次へと病に倒れていった。あそこはとんでもないド田舎で、治療できる司祭も僧侶もいなかった。アタシの錬金術だけが頼りだった。だがね……」


「うまくいかなかったの?」


「素材が無かった。正確に言えば、適切な素材が不足していた。村中の物をかたっぱしから掻き集めて、どうにか調合を開始できた。それでも素材は代用品レベルだったから、やたらと時間がかかる。本当なら半日で終わる事を、何日も何日もやらなきゃいけなかった」



 そこでイーリアが拳を強く握った。深いシワが、いっそう深くなるようだった。



「まもなくアタシも病に冒された。強烈だったよ。高熱が出て意識はもうろうとするし、咳き込むと止まらなくなる。まともに調合できる体調ではなかったよ」


「そんな状況、辛かったろうね。その時ですでに高齢だったわけだし」


「アタシなんてマシな方さ。防衛していた連中の方がよほど地獄だったよ。病気になって、意識がハッキリしなくても、剣を片手に戦ってたんだから。アタシだけ弱音を吐いていられないと、必死になって作業したよ」


「そんなの、なかなか出来ることじゃない。立派だよ」


「下準備を終えて、いよいよ大詰め。薬の完成の一歩手前というところで、アタシは失敗した。あろうことか、調合中に気絶しちまったんだ。気づいた時にはもう手遅れ。下準備は水の泡で、やり直しが必要だったが、その素材も残されちゃいなかった」


「それは、何と言うか……仕方ないと思う」


「それだけじゃない。アタシはね、あろうことか、村から逃げた。天才が聞いて呆れるね。薬の作り直しも、失敗の報告をして責任をとることもなく、ただ単にそこから逃げ出したんだ」



 イーリアの瞳が濡れ、大粒の涙があふれだす。



「運がよかった、いや悪運だろう。ちょうど迷宮役の効果が切れたこと。そして、激戦地を避けて逃げられたこと。病気と疲労でボロボロだったアタシは、自分の身だけは守り抜くことができた。村は、それから間もなく滅ぼされちまったよ」



 無事に逃げられたというが、容態は悪かった。誰も居ない僻地で、数日間は生死の境をさまよった。それから奇跡的にも回復すると、彼女は村へと戻った。


 その道すがら、恐ろしくはあった。村の生存者たちになんと言われるか、口汚く罵られるか、それとも恨まれるか。足を震わせはしたが、決して立ち止まる事はなかった。せめて一言謝りたい。その一心でむかったのだが。



「村はもう、見るも無惨ありさまだったよ。盗るもん盗った後は、村のあちこちに火をつけた。だから、みんな燃えちまったよ。あるのは焼け焦げた家ばかりで、遺品のひとつも残されちゃいなかった」


「容赦ないやつらだね……」


「だが、焼け野原に1人だけ生存者がいた。それがセフィラだ。まだロクに言葉もしゃべれない幼児だった。気づけば、2人で流れ者になった。アタシが連れてきたのか、アイツが勝手についてきたのかは、覚えてないよ」


 そうして2人は、大陸をさすらううち、この大森林ディープ・ロストへと流れ着いた。イチから小屋を建て、家具を造り、食料は森で集めた。当時の暮らしを語るイーリアは、そっと微笑んだ。珍しくマユ尻が下がっていた。



「悪くない毎日だったよ。セフィラは生意気でもスクスク育って、にぎやかで……。子育ては罪滅ぼしと割り切ってたけど、心が軽くなったもんだよ。忙しくて、うるさくって、クヨクヨ悩む暇もなかった」


「なんとなく、楽しそうな光景がみえるよ。この家には、2人の思い出がつまってるんだね」


「でもね、あれはセフィラが12歳を迎えたころさ。アタシは悪夢にうなされるようになった。血まみれの村人たちが手をのばしてくるんだ。『助けて。くるしい。どうして逃げた』ってね。アタシは毎晩のように飛び起きては、眠れぬ夜をすごしたよ」



 そしてイーリアは、自分の右脇腹に、そっと手をそえた。



「それからすぐに病気も見つかった。幻素線瘤(げんそせんりゅう)と言われるものだよ」


「幻素って、魔力の源みたいなヤツだっけ?」


「そうだよ。その魔力が通る管にコブができて、最後には内臓が弾けちまう病さ。職業病みたいなもんだから諦めもつくし、天罰だと思ったよ」


「天罰って、何が」


「逃げ出したアタシが、いっぱしの幸せを求めちゃいけない。苦しんで苦しんで、みじめに死ぬべきなんだよ」


「そんなことない。考えすぎだよ、だっておばあさんは、頑張るだけ頑張ったじゃないか」


「努力なんて関係ない、結果が全てだよ。薬を作ってみせる、アタシは天才だからと豪語したくせに、失敗したんだ。罪はいっそう重たいのさ」


「悪いのは盗賊たちじゃないか、おばあさんが苦しむべきじゃない!」


「はは……。そこはもう、どうだって良い。長くない命、アタシの勝手さ。問題はセフィ――ゲホッ!」


「大丈夫!?」



 ティベリスはかけよって、イーリアを抱きささえた。その身体は、不思議なまでに軽いように思えた。



「血で、血で汚れてるんだよ、この手は! 何度ぬぐっても消えやしないんだ!」


「気を確かに、何も汚れてなんかいないよ!」


「死んだ、みんな死んだ。大人も子供も老人も、男も女も関係なく、全員がだ! 『天才』のアタシに、すがっていたのに……!」


「おちついて。今、サーラを呼んでくる。身体の悪い所をみてもらおう」


「アタシのことはいい。どうせ助からないんだ。それよりセフィラだよ。アンタ、守ってやっておくれよ。あの子を1人前に育てたかったけど、どうやら命が尽きるほうが早そうだ」


「任せろと言いたいけど、呪いの魔印が解決してないよ」


「は、ははっ……。あんなもの、飼い犬につけたリードみたいなもんさ。居場所がわかるだけの代物で、命を奪うような効果なんてありゃしないよ。アタシが死んだって模様が身体に残るだけ。別に死んだりはしないさ……」



 それが真相だった。イーリアは、セフィラに危害を加えようとしたのではない。命がけで学べ、という意思の表れでしかなかった。


 しばらくして、イーリアは1人で立ち上がった。



「寝る。このまま本音をさらしつづけたら、ポックリ死んじまいそうだ」


「待って。サーラに身体をみてもらおうよ。もしかしたら魔法で治せるかもしれない」


「無理なもんは無理だよ。それよりもアンタ、さっきの事は誰にも話すんじゃないよ。いいね?」



 イーリアはそう言い残すと、家の方へと戻っていった。足取りはしっかりとしたものだった。


 そんなうしろ姿を眺めていたティベリスは、ただ、拳を握りしめるしかなかった。その手の内には、かすかな体温が残されている。



「おばあさん。辛いはずなのに、あんなにも気丈に……」


「なかなか重たい話でしたね、ティベリス様」


「サーラ! いたの!?」


「はい。割と早めの段階で」



 サーラは地面から頭だけをだして、返事した。やがて、全身がスウッと地上に現れた。



「サーラ、おばあさんの病気だけども」


「手遅れです。してやれる事は何もありません。咳などの自覚症状が現れた時点で、すでに末期です」


「いつも以上にバッサリ言うね……」


「実をいうと、イーリアの幻素線をこっそり観察しました。コブは相当に大きいものでした。あの様子では、いつ破裂してもおかしくありません」


「それってつまり……」


「天寿は、女神ルシアーナのみぞ知るところです」



 サーラはそう言い切ると、瞳をそっと伏せた。精霊として長い時を生きた彼女には、人類のはかなさに何か感じるものがあるようだった。ティベリスは、追求する心がなえていくのを感じた。



「やるせないよ。知り合って間もない人だけど、あんなに苦しんでる……」


「出来ることをやりましょう。それが唯一にして最善の手段です」


 

 サーラにうながされたティベリスも、やがて家の中へと戻っていった。その間サーラは、窓がかすかに開いているのを見た。内からは、かすかに明滅する光もあった。


 それから迎えた翌朝。皆が寝ぼけ眼を見せる中、セフィラだけはあわただしく動き回った。そして朝食をあわててかきこむと、大荷物を背負いながら言った。



「さぁさぁ、今日こそダンジョン攻略かましましょう! こちとら準備万端ッスよ!」


「う、うん。やる気なのはいいと思うけど。目がすごく充血してるよ?」


「あはは。ちょっとばかし夜ふかしを……。でも体力はありあまってるんで!」


「おぉ、いいねセフィラちゃん。ここはひとつ、オレっちも名誉挽回の大活躍を――」


「オーレインさんは留守番ッス。おばあちゃんの話し相手でもしてもろて」


「ええっ!? オレっちも連れて行ってくれよ! ダンジョン攻略なんて武勇伝あったら、酒場でモテモテに――」


「留守番ッス。さもないと、錬金釜で煮込んじまうッスよ?」



 どこかスンとした笑顔は威力抜群。オーレインもそれ以上すがる事もなく、素直に応じた。



「それじゃあおばあちゃん。行ってくるッス。なるべく早く帰るんで」



 セフィラの言葉に、イーリアは答えない。ただ静かで、長い寝息をたてるだけだった。


 セフィラは拳を握りしめて、気合を込めてから、家を出た。その後にはティベリスとサーラも続く。



「それにしても大荷物だね。持ってあげようか?」


「いやいや、見た目ほど重くはないんスよ。へーきへーき」


「それなら良いけど。何が入ってるの?」


「傷薬と発光石と、ダンジョン踏破の秘策、あとは釜と調合液ッスね」


「釜!? あんなバカでかいものを?」


「いやいや、さすがにアレじゃないッスよ。コンパクトなヤツなんで、お気になさらず」



 やがて墓地にまで来ると、セフィラは発光石を叩き割った。すると光の粒子が彼女に集まり、あたりを照らした。



「すごい。これなら松明はいらないね」


「ふっふっふ。驚くのはまだ早いっスよ。ほれ!」



 今度はビンの中の液体をばらまいた。すると、あたりの砂やホコリが浮き上がり、1枚の絵を宙空に描いた。



「これぞ今回の秘策、自動地図ッスよ。周辺をこうやって映してくれるんス。しかもアタシの合図ひとつで出したり消えたり。超優秀じゃないっスか?」


「うわぁ、便利だなぁ! こんなものあるなら、昨日のうちに出してくれれば良かったのに」


「いやね、昨日は準備してなくって。しかもこの薬、レア素材をしこたま使うんスよ。切羽詰まってなけりゃ温存したかった所でして」



 セフィラは照れ笑いを浮かべつつも、気持ちを切り替えた。ダンジョン攻略開始だ。


 その道中は、昨日と比べて遥かに順調だった。



「ティベリスさん。そこの壁にはさわらないで。大岩のワナが作動するんで」


「ありがとう、気をつけるよ」


「サーラさん。実体化をやめて、向こうの扉まで飛んでもらえます? そんでもって、扉のそばにある真ん丸ボタンを押してほしいんスよ」


「良いでしょう。任されました」



 だが、その快進撃も足を止めた。攻略後半になったところで、進むべき道を見失ったのだ。



「おかしいッス。ルートが地図にも出ないなんて」


「行き止まりってこと? だとしたら、途中まで引き返さなきゃならないね」


「いやいや、ここまでは合ってるんスよ。あそこを見てもらえます?」



 セフィラは石の階段を登ると、その最上段で足を止めた。その先は天井も床もない、大きな穴があるだけだった。



「この上の方に、行けるっぽいんスけど。そこにつながる道がないんスよ」


「なんだろう。なにか仕掛けでもあるのかな」


「この付近はワナが少ないッスね。毒ガス、針の山、あとは濁流……うん?」


「どうしたのセフィラ?」


「この階層は、『6』の字みたいになってんスね。ちなみにアタシらが居るのが、先っちょの部分ッスよ」


「うんうん。それで?」


「さっきの階段ッスけど、脇に排水機能があるっぽくて。それがおかしいなって」


「ここらへんが水浸しになるのを避けるためじゃない?」


「それにしちゃ、機能が弱すぎるんすよ。となると、つまりは……」



 セフィラがウンウンとうなり続けると、彼女は階下へ降りていった。そして足元の石畳を狙って踏みつける。


 すると、地響きとともに大量の水が押し寄せてきた。



「ええっ!? 何してんのセフィラ!」


「いや、これで大丈夫っスよ。たぶん」



 水かさはみるみるうちに増していく。急激に悪化する様を、ティベリスは階段の一番上で眺めていた。駆け戻ってきたセフィラも、その隣に並んだ。



「ヤバいな。もう階段の半分まで水没してるけど」


「もうちょいっスね」



 その時、ガコンという鈍い音を聞いた。すると、壁から石畳が長く伸び、ティベリスたちに道を与えた。その道の先に、長い長い階段も現れた。



「やっぱり、こういう仕掛けだったんスね。うんうん」


「あのさ、次からは相談してからやってよ? 心臓に悪いから」



 今となっては先に進むしかなく、階段を登った。ひたすら上を目指して登ってゆく。やがて、元いた場所が見えなくなった頃、終着点にたどりついた。


 最上段まで来ると、横穴があった。そちらへゆくと、大きな扉によって足止めされた。大きな龍のレリーフのついた、立派な扉だった。



「セフィラ、ここは?」


「目的地っスよ。旧時代の王が眠る墓っス」


「もしかしてだけど、素材はここにあるの? 墓荒らしはやりたくないな……」


「いやいやいや! べつに副葬品に手を出そうってんじゃないっスよ? 噂によると珍しい建材を使ってるそうで、それが欲しいんスよ。断じてお宝には手を出しませんから」


「そういう事なら、まぁ、良いのかな……」


「そんじゃ開けるっスよ」



 セフィラが扉を押し開けると、まばゆい光であふれた。たえがたい眩しさに目を細めてしまう。



「うはぁ……さすがは、かつての支配者っスねぇ。豪華絢爛(ごうかけんらん)じゃないスか」



 セフィラが溜息をもらすのも当然で、中は石造りではなく、あらゆるものが水晶でできていた。色使いも多様で、地面や小川、木々なども細かく表現している。奥できらびやかに輝くのは、王の眠る屋形で、黄金で出来ていた。



「さてと。金銀財宝は涙とともに見送って、素材をいただくっスよ」


「その素材ってどこにあるの?」


「床とか壁っスよ。これ全部が全部『魔幻石』と呼ばれる希少品でして、属性値オバケみたいな代物なんスよ。これ1個あれば大体解決しちゃうような、優れものっス」


「へぇ、そうなんだ。キレイなだけじゃないんだね」


「その代わり、お店で買うとバカ高いっスけどね。さてさて、サクッといただきますかね」



 セフィラは、バッグから工具を取り出すと、床材を品定めした。そして長い金属棒を隙間に差し込もうとした時、恫喝する声が鳴り響いた。



「お前たち、ここに何の用だ!」



 声はよく響いた。室内で反響し、それが圧迫感を強めるようだった。



「今の声は? もしかして、墓の番人みたいなヤツか?」


「ええっ!? そんなのが居るなんて聞いてないっスよ!」


「ともかく、危ないから下がって」



 ティベリスは聖剣を引き抜いて構えた。その隣には、そっとソーラも寄り添う。



「どんな奴だ。魔族か、それとも人智を超えたバケモノか……」



 身構えていると、視界の端に何かを見つけた。ひょっこりと顔を見せたのは、ヒゲ面の中年男だった。



「おうおうおうテメェら、オレ様をよくぞ探し当てたな。我こそは泣く子も黙る大悪党、賞金首のコリゴリー様よ!」



 仁王立ちで吠えた男は、ある意味危険だった。顔の半分は目出しマスクで覆っており、上半身は裸、下のズボンもフトモモがむき出しになるほど短い。



「ティベリス様の予測どおり、危険がひそんでおりました」


「僕は想定してなかったけどね、こんなもの」



 ティベリスはそう言いつつも、1つの予感にとらわれた。きっと面倒なことになると。決して、簡単には解決しないことを、この時すでに見抜いていた。



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