6.心のかたち、体のかたち
半ば夢遊病のようなボウッとした感覚のまま、アンナに促されて、九玲はその場で服を脱ぎ(不思議と恥ずかしさを感じなかった)、全裸になって再度、アンナが着ていたスーツを手に取る。
オレンジ色の長袖レオタードのような──いや、それ以上の範囲、首から下の全身を包むであろう、この衣装。
先程手にした時、内側がアンナの汗や体液で濡れているのがわかったし、思春期の少女らしい臭いも染み込んでいることだろう。
さらに、前胸部と下腹部には黄色い硬質なパッドのようなものがついていて、わずかに胸が膨らんでいるように見えるし、逆に股間の隆起は目立たなくなるはずだ。
もし、これを着たら──自分は、アンナの女の子らしい体臭を身体から漂わせながら、アンナそっくりの女の子のように見えるのでは?
そんな妄想とも欲求の爆発ともつかない想いが、九玲の脳裏を駆け巡っている。
「魔導制服はね、本来、定められた個人にしか着れないの」
再びアンナに耳元で囁かれて、少年の身体がビクリと震える。
「目の前のソレは“アンナ・クレー”専用のもの。でもね、九玲なら──ボクのソウルツインで、まったく同じ魂&魔力の波長を持つキミなら、きっと着ることができると思う。ね、着てみせてよ♪」
熱い吐息混じりで謳うように呟くのは、この異様なシチュエーションに、アンナも興奮しているからだろうか。
その熱が
喉元からおヘソのあたりまであるスーツの切れ目を広げ、中に両足を突っ込むと、そのままひと息に引き上げる。
軽くしなやかなで伸縮性の高いスーツの素材が、少年の身体をぴったりと包み込むようにして覆っていく。
切れ目のあるあたりまでの下半身が一気にスーツに包まれ、股間にスーツのクロッチ部分が食い込むように貼り付き、またヒップの方もミチッという音ともに締め付けられる。
「あぅッ!? こ、これは……」
スーツに包まれた部分の中で2ヵ所──具体的には、陰茎と肛門のあるべき部分に強烈な違和感、いや“異物感”を感じる。
「あ、そのスーツはね、全環境対応機能があって、24時間連続着用可能なんだ。そのために“大”と“小”の排泄孔にノズルが挿入される仕組みになってるの」
わざと黙っていたのだろう少女が、ニヤニヤしながら説明する。
「心配しなくても、すぐに身体に最適化するから、気にならなくなるはずだよ♪」
その言葉に嘘はなく、ほどなく異物感は消え失せ、「意識を向ければ何となく違和感がある」程度に納まった。
安堵の溜息を漏らしたのち、九玲はスーツの“着付け”を再開する。
ウェストまで着込んだ時点で、両腕部に両手を突っ込み、やや窮屈な姿勢で腕を通していく。
肩までスーツに包まれたのに合わせて、裂け目に付けられた小さなファスナーを引き上げると、背中、そして前胸部にもぴったりとスーツが密着する。
着用前に想像した通り、少年の胸に小さめながら乳房を想起させる膨らみらしきモノができていた。気になって下半身に目をやれば、股間部はほぼ完全にフラットな外観で、その下に男性にあるべきモノが納まっているようには見えなかった。
その事実と──何より、スーツに沁み込んだ匂いと汗が自分の身体に染み付いてくるような感覚に、九玲は興奮していた。
そのまま、ハイネックになった首の部分も、喉元までファスナーを上げてしまう。
全身を締め付けられるような窮屈感が僅かにあるが、逆にそれだけ締め付けられることで、着用者はスーツ本来の持ち主と同じ体型に“矯正/補整”されるのだ。
そのことにはまだ気付かず、それでも夢見心地のようにボウッとしている九玲の目の前に、アンナはポイポイと4つの白いものを放って寄越した。
「ほら、ロンググローブとブーツも。どうせならユニフォーム一式全部、着てみなよ」
その言葉の裏には、親切心だけではない独自の思惑もあったのだが、お人好しでやや鈍感な九玲に覚られることはなかった。
「う、うん……」
胸の鼓動をいっそう速めつつ、少年は床に座り、まずは履きづらそうな膝上丈のロングブーツに手を伸ばした。
一見エナメルのようにテカテカしているが、実際は地球で言うゴムのような伸縮性のある素材で出来ているようだ。
ファスナーや編み上げ紐などのない、ニーハイソックスのような構造だが、よく伸びるその素材のおかげで、最初は多少手間どったものの、それほど時間をかけずに右脚分を履くことができた。
片方履いて要領を掴んだので、左脚の方はさらに簡単に履ける。
ブーツらしく5センチほどヒールの部分が高くなっているが、これくらいなら何とか歩けそうだ。
続いてロンググローブだが、こちらはスーツとほぼ同様で色違いの素材(いくらか厚手だが)でできているようで、左右ともまったく苦労せずにはめることができた。
5本の指をしっかり先まで入れて、グーチョキパー、ニギニギと開閉し動かしてみる。スーツと手袋の二重に包まれている割に、手指の感触や動作に不自由さはまったく感じられなかった。
「さてどんな感じなんだろう」と立ち上がり、脱衣場の姿見鏡を覗き込んだ九玲は、一瞬言葉を失う。
そこには、先程までのアンナとそっくりな“少女”が、鏡の中から驚いたような表情で自分を見つめていたからだ。
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