No.16 一体何者?
「皆さん、静粛に。」
ルルス先生が教壇を叩くと、今しがたの喧騒が嘘のように教室内に静寂が戻った。
「たった今私が大切な話をしている間におしゃべりをしていた事を注意したと言うのに、全員で騒ぎ出してどうします?自分が今何をしにどこにいるのかの自覚が少しでもあるならば低俗な行動はやめなさい。それともう一つ、たとえどう思っていたとしても今のあなた達に彼の事を非難する資格はありませんよ。先程どんな話をしたのかもう忘れましたか?どんな人間だったとしても彼が学年首席だと言うのは事実です。文句があるなら彼を一度でも超えてから言いなさい。」
いささか遺憾そうではあるが、これにはもう誰も何も言う事が出来ない。正論による押しに弱いのはどこの世界でも一緒らしい。
なんとも言えない微妙な空気の中たった一人だけ口を開いた者がいた。エレオノーラだ。
「先生、一つ質問してもよろしいでしょうか?」
「はい。どうしましたか?」
質問の許可が下りると彼女は一息おいて話し出す。
「さっきから気になっていたのですが、実力主義という事はやはり何か自分が学年内で今どの程度のレベルにいるのか分かるようなものが存在する、と言う事なのでしょうか?」
この質問は……何かよく分からないけどとてつもなく嫌な予感がするな。
「ええ、もちろん存在します。生徒手帳の一番最後のページに魔力を流すと出て来るのが学年内でのランキングです。校内にもいくつか学年ごとのランキングが設置されているので、他学年のものが見たければそこから閲覧が出来ます。順位はテストだけではなく授業内での成績でも変動するので定期的に確認する事をおすすめします。あとそれに関する事でもう一つ、中庭や闘技場などでは同学年同士での決闘が許可されているのですが、もちろん行った場合にはその結果もランキングに大きく反映されます。それ自体に問題は無いのですが、相手が死亡した場合にはペナルティが発生するので十分注意してください。悪質だと判断された場合は重大な処罰が下りますので。」
決闘?その謎システム。聞いてないんだが?でもまあ、要するにあれだな。とりあえずめんどくさいって事だな。
先生が話し終えたところで再び鐘が鳴り、ルルス先生は一礼をすると教室を出て行った。最初の授業が始まるまでのしばしの休憩時間だ。
先生がいなくなった事で生徒達に喧騒が戻る。騒がしいのはさっきと一緒だが、心なしか僕に対する敵意みたいなのが少なくなったような気がする。
原因はやっぱり今の先生の話だろう。僕の事は気にくわないけどそれで何かをしでかして罰をくらうのは怖い、と言ったところか。
「はぁ~、やだやだ。僕が何したってんだよ全く……」
机に突っ伏して溜め息をつく。横目で見るとラーファルとメルトはさっそくクラスメイトと打ち解け始めて……ってよりあれは周りの剣幕に押されてるって感じだな。主にメルトが。
集まって来てるのはほとんど人族の女子……ああ、なるほど。大変だね貴族って。
そんな中こちらに近づいて来る者がまた一人。ただしメルトの方へ行くのではなく彼女は僕の目の前で立ち止まった。そしてやっぱり、何を言うでもなくこちらを見て来る。
「何?」
しばらくしてもエレオノーラは微動だにしないので、僕はとうとう痺れを切らして先に口を開く。すると彼女は初めて僕に向けて言葉を発した。
「セルマリエス……あなたは何者?」
「は?」
開口一番に何だそれは。こう言う時普通はもっと他に言う事があると思うんだけど……
「何者かって言われても……それってどう言う意味?質問の意図が分からない。」
そう聞き返すと彼女はやはり顔色ひとつ変えずに答える。
「そのままの意味。あなたを見てると血が騒ぐ。だから思ったの。あなたはもしかしたら私、いや、私達トルグイネ王族と同じ……」
「違う、断じて違う。」
「……随分と食い気味に否定するのね。まだ何も言って無いのに。」
「……」
本当に何なんだこいつは。でもこんな事言って来るって事はやっぱり何かに勘づいてるって考えるのが妥当か。
くそっ、最悪だ。このまま話し続けたらどうなるか分かったもんじゃない。
「まあ良いわ。あなたが何者だろうがどうせこれ以上話したところで教えてくれる訳無いだろうし、そもそも普通の人間じゃ無いってのはあれを見れば誰だって分かるしね。」
「あれって実技試験の時の事言ってる?」
「それ以外に何かあるの?筆記試験の事は知らないから何とも言えないけど……実技試験、的を壊すだけならまだしも原形が残らないほど粉々にするとか、あれは流石に訳が分からなかったわよ。」
「はぁ、だったら君だって人の事言えないじゃないか。あんな大勢の前で堂々と魔法を使うなんて。あんな見せ物みたいに、ありえないだろ。」
「なんっ、見せ物だなんて、そんな事考えてる訳無いじゃない。王血魔法はトルグイネ王家の誇りよ。何も知らないくせに軽々しく見せ物みたいだなんて言わないで。」
「……何をいけしゃあしゃあと。誇りだって?元々お前らのじゃないだろ。」
「はぁ?何言ってるのあなた?」
しばらく口論を続けていると、何とも幸運な事にこれ以上話してるとうっかりとんでもない事言いそうでやばい、ってなところで鐘が鳴った。
その場しのぎかもしれないけど、とりあえずこれで少しの間は今の話を気にしなくも良さそうだ。適当にはぐらかせば良いだけなのにまともに受けて歯止めが効かなくなるとかさ、もう本当……危ない危ない。
ところで鐘が鳴ったと言う事は授業が始まるって事だけど……おかしいな、教師が誰も来ない。……どうなってるんだ?これこのままで大丈夫なやつ?
「はっはっはっはっ。なるほど、今年の1-Aは面白いクラスですな。ルルス君があそこまで上機嫌なのも珍しい。いや皆実に個性豊かでやる気に満ち満ちている。感心感心。」
うわっ、びっくりした。誰も来ないと思ってたらまさか教室の後ろから声がするとは。ってかルルス先生あれでそんな機嫌良かったんだ……
振り返って後ろを見るとそこには一人の老紳士がいた。え?いつからいたの?
「はははは、こんなジジイがいつからいたのかと気になっている事でしょうな。」
彼は朗らかに笑いながら教壇へ向かう。
「実を言うと私は始めからこの教室内にいたのですよ。それこそ一人目がここに辿り着く前から。魔術を駆使すればこのように姿や気配を消す事も可能になるのです。しかしルルス君ですら私に気付く事が出来なかったとは、私もまだまだ現役と言う事ですな。」
ちょっと待って、最初からずっとここにいたの?マジか、全っっっっっ然気付かなかった
しかもずっといたって事は姿も気配も消した状態で軽く一時間以上あそこに立って……末恐ろしいな。
教壇に立つと彼はやはり穏やかな笑みを浮かべてゆっくりと教室を見渡した。
「ふむ、皆利発そうな子達だ。良い顔をしている。さて、皆私が何者なのか気になっている事でしょう。私はヨセフ=ウォルフォウィッツ。気軽にヨセフ先生と呼んでください。担当は魔術戦闘。どうぞよろしく。」
あぇ?あの死人が出るとか言うのが、初回授業?
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