No.15 勝手なおしゃべり禁止!
始業の鐘が鳴り響く。いよいよ新学期が本格的に始まる事を知らしめる為の合図だ。今までざわめき立っていた教室も、鐘がなるとともに静まり返っていった。
すると一人の教師が教室に入り教壇に立つ。扉は……勝手に閉まった。これについては……キリがないから今は考えないでおこう。
教壇に立つや否や彼女は一度教室を見渡し自己紹介を始めた。いや、まさかこの人が僕達のクラス担任になるとはね。
「皆さんはじめまして。とは言っても何人かは入試会場で会ってはいると思いますが。今年1-Aのクラス担任になったルルスです。担当科目は魔術理論、特に問題等無ければ一年間よろしくお願いします。」
ルルス先生は淡々と挨拶を済ませていく。
「入学式も無事に終わり今日から授業も始まりますが、学園生活においていくつか留意しておいてほしい事があります。まず一つ、入学前から何度も聞いている事でしょうが、この学園は完全実力主義です。もちろん弱者に人権が無いとかそう言う話ではありません。私達教員はクラス成績関係無く生徒の皆さんのサポートをします。つまりは身分家柄も関係無いと言う事です。学園内で身分や権力を振りかざすような行為が認められれば、たとえ貴族や王族であろうと処罰の対象となります。次に授業についてです。基本的にはクラス全員で授業を行いますが、選択式の科目もいくつかあります。後にアンケートが配られるので必ず来週までに提出するように。」
自己紹介を終えた後、ルルス先生は諸連絡に取り掛かった。
ところでここに来てから何度も聞いている『実力主義』、話に聞く限りでは状況によってクラスが殺伐とするとか、そうなるような類のものでは無いようだ。それはひとまず安心。
「そして最後に、これら以上に大切な話があります。」
安心したのも束の間、ルルス先生は今まで以上に真剣な面持ちで話し始める。
「ここで行われる実技の授業、特に剣術、魔術戦闘などは実際の戦闘とほぼ同じような形式で行われます。その為毎年必ず怪我人が出る上、過去には死亡者が出た例もあります。その上学園が管理する森やダンジョンで行う討伐演習、これに関しては本当に様々な要因で重軽傷者や死亡事故が多発しているので、自分は絶対に死なないと考えるのでは無く、常に最悪の場合を見据えて授業に臨んでください。くれぐれも油断せず自己防衛を怠らない事、もしそうなっても学園は責任を負いかねます。かと言ってこれにかこつけて故意に他人を傷付けようとか殺そうとでもしたら……分かりますね。」
え、コッッッッワ。何?授業で死人が出るの?ああアレ、あの紙の最後の方のアレってそう言う事?ただヘイトを集めるために書いてあるのかと思ってたけど意外とそう言う事?
死んでも責任は取れないって普通に大問題だと思うんだけど。王族が死のうものなら戦争になってもおかしくはないよね。ってか死ぬかもしれないってみんな知ってたの?あれ、でも意外と落ち着いて……でも動揺はしてるっぽい?
「授業で死ぬ可能性があるって……もし死んだとしても自己責任になるって、知ってた?ってか普通にみんなはそれで大丈夫なの?危険を冒してまでここにいる必要は無いと思うけど……」
先生に気付かれないように小声で二人に話しかける。
「情報としては一応知ってるよ。危ないって事は重々承知してる。でも改めて聞くとやっぱり言葉の重みが違うって言うか……でも戦う術を身につけようって思ってるならそれなりの危険はあって当然だろうし、何よりそう言うリスクがあったとしてもこの学校を出たってだけで将来得するだろうから。身分の高い人達は分からないけど、庶民とかだったら結構そう思ってる人は多いんじゃないかな?」
「貴族でも将来の為なら死ぬリスクがあったとしても……って思ってるやつはそれなりにいるだろうな。ここ出身ってだけで社会ではエリートって思われるから。まあ上級貴族とかになると嫌がるやつも多いけどな。」
うーん、なるほど、普通はそう感じると。
となるとこの場合思考が異質なのは僕と言う事になるのか?
まあ当然と言ったら当然だろう。前世、それもこことは別の世界にいた頃の記憶を持つ僕はこの世界にとっては異分子だ。そのせいで始めからこの世界の住人だったみんなとは思考回路に根本的な違いがある。
みんなにとっては命よりも己の未来での成功の方が客観的に見て大切なんだろうが、現代日本の平和に染まり切った僕にはそれが自分の命より大切だとは到底思えない。どうしても死んだらおしまいだと言う考えが前に出て……あれ、でも僕今生きてるしな。それだと何か矛盾してるような……あー、分からん。やめだ、やめ。
一度考え始めると止まらなくなる、僕の悪い癖だ。
ところで全然話は変わるんだけど、皆さん僕が一番最初に危惧していたあれをそろそろお忘れの頃ではないだろうか?何の話かだって?
……テンプレは忘れた頃にやって来る。
「ところで……私は今かなり重要な話をしていると思うのですが……真面目に聞かずにおしゃべりとは……随分と余裕そうですね、学年首席君。」
お決まり展開その一、先生の話途中のおしゃべりはどんなに離れていようがどんなに小声でしていようがなぜかバレる。
先生がこちらを見るので当然みんなもその視線を追って振り返る。この時点でもう逃げたい。
だがもちろんそれでは終わらない。なぜならさっき先生は僕の事を名指しするのでは無く、『学年首席』と言ってしまったから。
ここでその二、ざわめく教室。
みんな一斉に騒ぎ出すもんで、もはや何を言ってるかは聞き取れない。でも何を言っているのかは大体分かる。
『何だよこいつ、入学式でさんざんイラつかせやがった癖にまたかよ。』
『また余裕ぶちかましてんの?ムカつくわ、』
『本当は言っちゃいけないんだけどさ、こんなやつに負けたなんてエレオノーラ王女が可哀想だよね。』
あたりか?
ちょっと〜、二人とも助けて……って、知らんぷり?
おい、ちょっ、マジか。おーい、こっち向け〜。目逸らすな、この薄情者。
その三、なぜか助けてくれない友人達。
いらないよ、こんなザ・想像通り展開のオンパレード!
も〜、ああーもう!何でこうなった!?昨日はまだ良かったけど今度こそ逃げられないじゃん!
ちなみに王女はと言うと無表情でこっちを横目で眺めている。何を考えているのかはさっぱり分からない。ただただすっごい見て来る。……何とか言ってくれよ!怖いなぁ。
それもこれも全部含めて今僕が言える事はただ一つ。
昨日も、今日も、その前も総じて全部……
めんどくさいなぁ!本当に!
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