No.14 遅刻っ、じゃない

 窓の外から日の光が差し込む。今日も今日とてよく晴れ渡った良い天気だ。


 「……い、……ら、いつまで……る気だ?……い、おい、起きろ!」


 「……ん、父さん……だからそれは無理だって……ってあれ?メルト?」


 重い瞼を擦ると目の前には黄色いタンポポ……じゃなくてメルトがいた。


 「誰が父さんだ。おい、お前もだラーファル。いいかげん起きろ。」


 すると隣からモゾモゾと動く気配がして、ラーファルが起き上がり翼を大きく広げて伸びをした。


 「う〜ん、もう朝?……ってあれ?何でメルトいんの?」


 「お前らがいつまで経っても起きて来ないから様子を見に来たんだよ。ほら、あと十分で朝食だぞ。」


 メルトはそう言いながら時計を指差す。その針は今まさに六時五十分へと差し掛かろうとしていた。


 「うわ、やっべ。」


 僕達は慌てて着替え部屋を飛び出した。いやーメルトがいなかったら一体どうなっていた事やら。


 朝食にはギリギリのところで間に合った。パンを千切りながらメルトが口を開く。


 「本当にお前ら、俺が起こしに行かなかったらどうするつもりだったんだ。」


 「その節は本当にごめんって。お前がいなかったらもう遅刻確定だったよ。」


 「ありがとね。本当に。」


 まったくメルトには感謝しかないよ。ただでさえ面倒な状況なのにここで遅刻なんてしたらどうなる?


 『学年首席、初日から遅刻。』うわぁ、考えたくも無い。


 一通り礼をし倒した後、しばらく話をしているうちにメルトは何かを思い出したかのように僕達に尋ねた。


 「そう言えば、起こしに行った時に思ったんだが、どうしてお前ら二人ともうつ伏せで寝てたんだ?あれははっきり言ってちょっと怖かったぞ。」


 うつ伏せ?そうだっけ?ああ、でも思い返してみれば確かにそうかも知れない。


 「僕の場合はうつ伏せじゃないと羽が邪魔だからなんだけど……エスもうつ伏せで寝てたの?」


 「ああ、確かにお前はまだ分かる。だから問題はお前だ、セルマリエス。顔まで下に向けて直立不動って、普通に怖いわ!微動だにしないからマジで死んでんのかと思ったぞ。」


 えぇ、僕そこまでだったの?流石に自分でも引くわ……


 「そ、そうなの?なんか、ごめん。多分それも変な癖みたいなもんじゃない?理由なんて考えた事も無いや。あはははは……」


 はい、嘘でーす。本当は考えた事無いどころか心当たりしかありませーん。


 僕は元々翼どころか角と尾もあるから、人化した状態で寝るにはうつ伏せじゃないとラーファル以上にキツいんだよね。


 どうせ角やら何やらは全部しまえるんだから消して寝たら良い、って思うじゃん?


 確かに出来なくは無いし現に今もそうしてるんだから全然不可能では無い。だからこれってぶっちゃけ気持ちの問題なんだよね。


 例えるならベッドで寝るのと寝袋で寝るののどっちが良いか。それだったらほとんどの人はベッドって答えるはずだと思う。


 それと同じでなんとな〜く翼とかは出したまま寝たくなるんだよ。そんなこんなでずーっとうつ伏せで寝るようにしてたら変な癖がついちゃった。それだけの話。


 「癖って、いくらなんでもそれは無理があるだろ。大体あの状態でどうやって息してんだ。」


 「息?あー……確かに多少は苦しいけどもう慣れたし……」


 「多少って、やっぱり無理あるじゃねぇか。そんなの慣れて良いもんじゃ……」


 「ま、まぁ良いじゃない、本人はぴんぴんしてるんだしさ。そんな事よりほら、せっかく朝食に間に合わせたはずなのにもうほとんどみんないなくなっちゃったよ。そろそろ急がないと本当に遅刻するって。」


 ラーファルの言葉で正気に戻るともう残っているのは僕達と数名の生徒だけだった。本日朝から二度目の危機である。


 「ほら、君達いつまでモタモタ食べてるの。急がないと遅刻するよ!」


 他のテーブルの食器を片付けていた係の人にも急かされ、僕達は急いでパンをミルクで流し込みホールから飛び出した。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 持ち物などは特に知らされていなかったので、僕達は手ぶらで校舎に向かった。


 道中他の生徒達を見ても何かを持ち運んでいる様子は無かったし大丈夫だろう。入試の時を思い出した感じ、筆記用具も席ごとに備え付けの羽ペンがあったようだし。


 校舎に着いてみると、中に入ってすぐのところにクラス分けの紙が貼り出されていた。


 一クラス百人で十クラス、一年生は総勢千人いるらしい。人が多すぎて自分のクラスを見つけるだけで骨が折れそうだが、クラスごとに名前順を見ていけばそうでも無いようで、意外にもみんなあっさりと自分の名前を見つけては教室へ向かっている。


 またクラスは入試の成績で大体決まっているようだ。生徒のうち何人かには名前を見つけて落胆している様子も見られた。


 そして僕は当然のごとくAクラス。ラーファルとメルトも一緒だった。


 ひとまず三人共同じクラスだったのは本当に良かった。僕があれだから忘れてたけど、そう言えば二人共この世界の基準で見れば優秀なんだったね。


 さて、クラスも確認したところだし教室に向かおうか。幸いにも順路はしっかりと書いてあったから迷う事は無かった。迷いはしないんだが……ねぇ、ちょっと遠くない?


 と言うよりそもそもこの校舎自体が広すぎるんだよ。生徒数が多いからってのもあるけど、廊下だの扉だのってのも無駄にバカでかい。流石世界最大の学園と言う訳か?


 「あ、あった。」


 クラスには自教室に向かっているだけとは思えないような距離を歩かされた後、やっとの思いで辿り着く事が出来た。


 他の教室よりも大きくて装飾の凝った扉は開け放たれ、その内側には黒板を中心にアーチを描くように階段状の席が並んでいる。席の並びは筆記試験の時に使った教室とほぼ同じだった。


 当然席順などは無いので、僕達は教室の後方の席に三人で横に並んで座った。


 まだ少し時間がありそうだったので、クラスメイトにはどんな人がいるのかしばし教室を見渡してみた。


 人、エルフ、獣人、地球ではあり得ない様々な種族が一堂に会していて、見ているだけで面白い。


 そんな中でも一際目立つ気配を纏った少女がいた。


 美しい白髪をポニーテールにし、宝石を多くあしらった赤紫の蝶の形をした髪飾りをつけた人族の少女。


 それはトルグイネ王国第二王女、エレオノーラだった。

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