No.11 駆けつけたら全部終わってた件

 「……あの、アクト様、殺すのは流石に……」


 周囲のうちの一人が言うもアクトには届かない。アクトは剣を引き抜くと、それをメルトに向け構える。だがそれでもメルトはアクトを見つめたまま動かない。


 「どうした?お前は抜かないのか?」


 「……俺には、出来ません。」


 「っ、つくづく忌々しいやつだ。」


 そう言うとアクトは剣に手をかざし、幾重にも魔術を施していく。すると剣は灼熱の炎に覆われ、刀身は赤く輝きだした。


 そしてそれを再び構え直す。これには流石のメルトも危険を感じたのか、剣を引き抜き身構えた。


 二人の髪を風が揺らす。先に動いたのはアクトだった。


 いつの間に身体強化もしていたのだろう。一瞬消えたと見間違うような速さでメルトに切りかかる。


 間一髪メルトはそれを受け止めるも、その剣は赤い刃に触れた所から溶け切れた。


 急に剣の重量が半減した事でメルトの体勢が僅かに崩れる。


 その隙をアクトは見逃さなかった。


 踏み込んだまま剣を振り上げる。


 メルトは咄嗟に腕で庇った。だが強化も防具もつけていない腕でこれを防げるはずも無い。


 ただの剣ならばいくらかましだっただろうか。


 灼熱剣は肉を切り裂いたそばから生傷を炭化させていった。


 恐ろしいのは血こそ出ないが体を内から焼かれると言うところだ。そのため外から見た傷の割にダメージは大きくなる。


 そしてその痛みは齢十二歳の少年に耐えられるようなものではなかった。


 「うっぐ、ああああああ!」


 メルトは腕を押さえ肩で息をしながら呻く。苦痛に喘ぎ爪を立てるのでそこから血がしたたり落ち、それが一層彼を痛々しく見せた。


 たった一撃で戦意を失ったメルトをアクトは冷酷に見つめる。


 「無様だな、メルト。その程度で抵抗すら出来なくなるのか?俺の痛みはそんなものではなかったと言うのに。」


 そう言われメルトは涙ぐみながらも空中に小さくルーンを描く。小さな水球がアクトの持つ剣に向かうも、赤い刃に触れた瞬間シュンと音を立てて蒸発した。


 「何だ?それは。水鉄砲か?」


 二人の間に再び静寂が流れる。


 やがてアクトは深く溜め息をつき言い放った。


 「気が削がれた。お前にはほとほと呆れるよ。」


 そして踵を返し去って行く。アクトの気迫に呑まれていた者達も我に返り、慌てて彼の後を追った。


 彼らの姿が見えなくなった後もメルトは悔しそうに地平を見ていた。だがそれ以上に緊張が緩んだ事で痛みがより強く押し寄せて来たようだ。今はただ傷口を押さえながら呻く事しか出来ない。


 ラーファルも心配そうにオロオロしているが、それでメルトに何をしてやれる訳でも無い。大丈夫?と声をかけようにも大丈夫では無いのは明らかだ。仕方が無いと言ってしまえばそれでおしまいだが、こればかりはしょうがない。


 ラーファルが途方に暮れているどこからかふらりと一人の人影が現れた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ところでしばらく二人を見守って(魔力探知して)た訳だけど、どうやらちょっとまずい状況みたい何だよね。


 周りの有象無象はまあ良いとして、その中の一人、一体誰なのかは分からないけどこいつはちょっとやばい。


 ちなみにここで言っておくんだけど、魔力探知って別に他人の魔力量が見えるとかそう言うのじゃないからね。生物とかが発する微弱な魔力が感知できるってだけだから。まあ集中すればそれがどんな形をしているのかとかは分かるけど。


 そう、それでメルトの前のこいつ、一体何者なんだ?動き方とか魔力の流れとか、明らかに凡人じゃない。


 そんなのがメルトに剣を向けているんだ。それに……え?何してんのこの人?剣に何かの魔術?くそっ、直接見てる訳じゃないから何が起こってるのかいまいちよく分からない。だとしてもとにかくこれはまずい。僕ならともかくメルトはまずい。あんなの生身の人間が食らったらひとたまりも……まさか……


 「殺す気か?」


 いや、絶対そうだ。もういかにもって感じで殺意だだ洩れだもん。


 やばいな、ちょっと急ごう。中庭どこだ?頼むから死ぬなよ。出会いはどうであれ友達が殺されるところは見たくない。


 階段を下りて走りまわってようやく中庭に辿り着いた。改めて直接二人を見ると……


 あれ?メルトとラーファルしかいない。もしかしてもしかすると僕がいない間にもう全部終わっちゃった?


 え?マジで?さっき学園長室の前で見てから全然時間経ってないじゃん。なのに全部!?……って、違う違う、そうじゃなかった。こんな時に僕は一体何を考えているんだ。とにかくメルトだ。遠目でも無事じゃないのはよく分かった。落ち着け、まずは状況確認だ。まずは何があったのか二人に詳しく説明してもらおう。


 話を聞こうと二人に近づいてみると、血の臭いに交じって何やら肉の焦げたような臭いがした。まあ竜は鼻が利くから正確には臭いが強くなった、と言った方が正しいけど。


 「こんな短時間で君たちは何を面倒事に巻き込まれて……ってまあ僕が言えた事じゃないんだけど、本当に一体何があったの?」


 そう聞くとメルトの代わりにラーファルが事のあらましを説明してくれた。


 なるほどね。理由は分からないけど急に襲われたと。でも少し切られただけでここまで痛がるか?


 「メルト、ちょっと傷見せてくれない?」


 医学とかはよく分からないけど、傷を治す方法には一つだけ心当たりがある。


 ただその前に傷の様子を見ない分には何とも言えない。


 どれどれ?一体どうなって……ってグッッロ!火傷とかそう言う次元じゃないじゃん。


 なんで一瞬で切断面が炭になってるの?あと多分これ奥の方も多分骨までダメージ食らってるよね。こんなの放っておいたら腕が使い物にならなくなる事くらい医者じゃなくても分かるよ。


 え、これ大丈夫かなぁ。でも試してみる価値はあるか。確かこの辺にこの前採っておいたのが……お、あった。これを傷口にかければ……


 「ゑ?」


 「は?」


 「嘘でしょ……」


 ……え?

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