No.12 エリクサー……?
……治った?
前回のあらすじ、小瓶の中の液体を垂らすと重傷だったはずのメルトの傷が跡形も無く消え去った。
いやいやいやいや、まさかここまでの効能があるとは。完全に予想外だよ。
ほらぁ、また二人とも固まっちゃったよ。何で僕こんな何回も非常識な事やらかすんだろう。
「おい、お前、俺に一体何かけた?」
何、何かねぇ……全くどう説明したものか。
これが何かってのを説明する為には、まあまた僕が霊峰にいた頃に遡る必要がある。
そうだな、あれは『魔法薬の製法について』みたいな感じの本を読んでいた時だ。題名は覚えて無いけど確かそんな風なの。
この世界では本当にポーションを作れるんだ! ってな感じで、それはそれはウッキウキでページをめくってたらさ、出て来たんだよ。『エリクサーの製法』のページが。
そりゃもちろん大興奮だよ。あっちの世界では『死者をも甦らす霊薬』とかまで言われるような代物だよ。まあ空想上のものだしこっちの世界でもそこまでの効能は無いらしいんだけどね。
とは言え死んでさえいなければ不治の病だろうが心臓が抉れてようが治せるらしいし似たようなものか。
そこで、だ。僕は一体何を思ったか。そう、当然(よし、作ってみよう!)だ。
幸い時間だけは無駄にあったし、道具とかも魔術で何とかなりそうだったからあと必要なのは材料だけ。
正直ホワイトナフタグラス(ハーブの一種、家の近くの泉にたくさん生えてる)とか、メスのバジリスクの冠羽(普通はオスにしか無いらしいけど近所の高原にはなぜかたくさん走りまわってた)とかは集めるのにほとんど苦労しなかった。
じゃあ良いじゃないかって思うじゃん?でもそれがそう上手くはいかないもんなんだよね。
問題はエリクサーの主原料、『
ってかそもそもそれ以前に、僕はこれがどんな花なのかってのも知らなかったから本当にどうしようも無い訳。
『植物大全』とかを隅から隅まで読み込んでも一言も書いてありやしないから、せめてエリクサー作りを諦める前に父さんに聞いてみる事にしたんだ。
「幻竜草の一日花ってなに?」
他に言い方も分からなかったし、そうどストレートに聞いてみた。
いつもならすぐに答えてくれるから今回もそうじゃないかと思ってた。でもこの時の父さんはいつに無く動揺してるように見えたな。
「え……どこでそれを聞いて……ああ、アイツの本か、まだ残ってたのか。それで? 幻竜草の一日花だっけ? あれは……あまり良いものじゃないけれど、本当に知りたいのかい?」
父さんがそこまで言うなんて、とは思ったけれど、知的好奇心がまさって僕は悩んだ末に頷いた。
すると父さんはためらいがちにもその問いに答えてくれた。
「分かった。知ろうとする事自体は何も悪く無いからね。まず『幻竜草の一日花』とは特定の植物を指す言葉じゃない。竜が死んだ時、その肉体から漏れ出した魔力を糧にして周囲の植物が変異を起こすんだ。それが幻竜草。そこに他の竜が訪れて悼みの涙を流す。すると涙の滴り落ちた所から花が咲く。強毒を持った花が。この花はたった一日足らずで枯れてしまう事からこう名付けられたんだ。『幻竜草の一日花』と。私があまり良いものではないと言ったのは、この花が竜にとっての墓標に近しいものだからだ。いくら命を救う為とは言っても、それをわざわざ摘み取るのはとても良い趣味とは言えないからね。だからエリクサーを作りたいなら竜涙にしておきなさい。私達の涙には他の動物にとってかなりの治癒効果があるからね」
ああ、そこまでバレてたの。でもとにかく父さんの言いたい事は分かった。そんな事を聞いてしまえば、確かに探しに行こうと言う気にはなれない。最も探したところで見つからないだろうけど。
ところで父さんの言葉に時々含みがありそうなのは何でなのだろうか。今回の事も、聞いてみるだけではそこまで言う事をはばかられるような話では無いと思うけど。
そんな事が一瞬頭をよぎったが、この時の僕はエリクサー製作についてで頭がいっぱいだったから深く考えはしなかった。
そして話を聞いてすぐ、エリクサーのための涙を集める事にした。かと言って急に泣くことは出来ない。
少し考えて出た結論はとてつもなくシンプルなものだった。
精神的に泣けないんだったら物理で無理矢理出せば良い。
僕はさっそく森に行ってある木の実を採って来た。いつぞやに父さんが黒焦げにしたあれだ。
こいつ自体は何の変哲もないただの果実だが、潰した時に出て来る汁は目に入るととてつもなく痛い。分かりやすく言えばミカンの皮の汁が目に入った時と同じ感覚だ。
で、僕が何をしたかはもう言わなくても分かるよね。いや〜あれは痛かったな。
さて、これで代替品とは言え全ての材料が揃った訳だ。さあエリクサーを作ろう……の前にまずは竜涙の効能を確かめよう。
なんとタイミングの良い事にここに弱ったリスがいるじゃないか。
使い方なんて分からなかったし、とりあえずリスに涙をかけてみた。
するとあら不思議、たちまち元気になって走り去って行くじゃないか。
思えばここで気付くべきだったのか。
結論から言うとエリクサー作りは失敗した。何がいけないのかは分からないけど何度やっても反応が起こらないんだ。ずーっとそれぞれの材料がバラバラに混ざったまま。とても透明で綺麗な液体になる気配は無かった。
つまりメルトにかけたのはただの僕の涙。それがあの重傷を消し飛ばしたんだ。
本当びっくり、ってかもはや怖いよね。
それで僕は気付いたんだ。
今思えばあのリスは瀕死だった。
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