No.9 古代文字って……もう本当に……
さて一体どうしたものか。僕が何も考えないで紙を読み上げたせいで非難批判が雨あられ。でも自分が何て言ったか気付いたところでもう遅い。
慌てて元凶を今一度良く見てみると、端の方に何やら小さく書いてある。
『PS. ちゃんと読んでくれたかな? ちなみに最後のはおふざけだよ。後で学園長室においで。そこでゆっくり話そうか』
上のものと同じ見慣れない筆跡、追伸の内容と後ろから聞こえる押し殺した様な笑い声で犯人はすぐに分かった。何て事してくれたんだこの人は。
それはともかくこんな中ずっとここに突っ立っている訳にもいかない。僕は逃げる様にして壇上から降り、生徒達のほとぼりが冷めたところで隠れるように元いた席に戻った。
「どうしたのエス? あんなみんなを煽る様な事言うなんて」
ラーファルが小声で尋ねる。僕は答える代わりに例の紙を見せた。ラーファルはしばらくそれを見ると首を傾げて言った。
「これ、何て書いてあるの? こんなのよく読めたね。」
「これは……古代文字か? ある程度なら俺も分かるが……見ただけですぐ読める何てそうそう無いと思うんだが」
いつから居たのかそう後ろの席からメルトが身を乗り出して言った。いや本当にいつから居たんだコイツ。
「古代文字? うちにあった本は何冊かこれで書いてあったからまあそんなもんかって思ってたんだけど」
「? 教科書ならともかく古代文字で書いてある本なんて禁書くらいしか無いだろ」
「禁書? それって王族とか教皇様しか持ってないような物なんでしょ? 他には禁書庫なんてのもあるにはあるらしいけど。エスはそんなのを持ってたって事?」
二人はそう言うが正直一番よく分かって無いのは僕だ。
だって今まで村どころか人一人いないような所で生活してたんだよ。父さんがいつからあそこにいるのかは知らないけど辺境過ぎて情報のアップデートなんか絶対にされないような所だよ。こっちの常識なんて分かるはず無いじゃんよ〜……
「知らないよ〜、家にたまたま古い本があっただけだよ〜」
「古いってレベルじゃ無いだろそれ。」
ああああ誤魔化せないぃぃぃぃ!
「き、きっとずっと置いてあって存在忘れられてたんじゃないかな?」
「でも禁書って七百年くらい前に全部集められて処分されたんだよね?知り合いのハイエルフがお母さんに聞いたって言ってたけど」
君もかラーファルゥゥゥゥ!
「ってかハイエルフが知り合いってどう言う事だよ」
あ、話がそれた。ナイスメルト。
「ん? うちは昔から親交があるらしいけど」
「ハイエルフってエルフの古代種だろ。竜と同じくらい伝説にしか出て来ないような存在の」
竜ならここにいるよ。
「そうは言っても本当だからなぁ……」
「はあ……?」
僕が言えた事じゃ無いけどラーファルもなかなかにどっかずれてるよな。何があるのかは知らないけど。
こうして見るとメルトが意外と常識人だって事が分かる。いつの間にかお供もいなくなってるし、初めはよくある典型的なバカ貴族なのかと勝手に思い込んでたけど……こいつが変なだけか?
まあとにかく色々うやむやになって助かった。ただ最初からこんな感じだとこの先どうなるか心配になって来るな……
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
そうしているうちに気がついたら入学式が終わっていた……訳だが、どう言う事か僕は初日から学園長室に呼び出しを食らっているので二人とは講堂を出たところで別れた。
学園長室には特に苦労も無くたどり着いた。正直気は乗らないがたどり着いてしまったからには仕方が無い。意を決して扉を叩くと中からどうぞと返事があった。
ゆっくりと扉を開けると、そこには学園長と他に数人の教師らしき人達がいた。
「まさか本当に来るなんてね。あなたやっぱり古代文字が読めるのね。試験の時もそうだったけれど、あなたは常人のそれを逸脱している。まったく、王女と言い今年の一年は一体どうなっているんでしょうね」
彼女はやれやれと言ったふうに息をつき、内心の読めない微笑みを浮かべ僕に語りかけてきた。
「さて、改めて直接話をしましょうか。私はライネール、ライネール・イリア。見ての通りエルフよ。あなたはセルマリエスね。名字は……その顔からして無いと言うより言いたく無いと言った感じかしら。まあそれに関して詮索はしないわ。そんな事より本題は……色々あるけれど、まずは筆記試験のことかしら。全問正解だった事は百歩譲ったとして問題はあの炎熱魔術陣の事よ。あれは生徒の思考力を試す為に入れたはずなのに、長年未解明だった暴発の理由を突き止めただけで無く未知の術式を付け足すなんて……一体どうしてそんな事思いついたのかしら?」
うわ、初っ端から面倒くさい質問が来てしまった。あんなのどうしたもこうしたも無いんだけどな。
「いや、あんなの逆に欠点を見つけない方が難しいですよ。魔力の流れをイメージすれば分かります。あちこちで魔力が逆流したり線が細過ぎてショートしたり。それに無駄な部分も多いし……僕はそれを直しただけです。アレンジについては時間が余って暇過ぎて……」
するとそれを横で聞いていた教師の一人が身を乗り出して言った。
「そんな、ありえない。陣に流した魔力を知覚出来るなんて。それにルーン一つ一つを組み合わせて意味を作るのにそれを無視したアレンジなんて出来る訳が……」
ありえないって言ってもそれがあり得るんだよなぁ……
「僕は基本的に独学なんで専門的な事は分かりませんけど……ただこれだけは言えます。ルーンに意味なんてありませんよ。絵を描くのと同じです。意味の無い線を組み合わせる事で全体像が浮かび上がって来る。初めからあるパーツを組んだだけだとどうしても違和感が出る。それだけです」
その教師も学園長もこれには驚きを隠せ無いようだ。まあそれもしょうがない。詳しくは分からないけれど、消された歴史と言いラーファルが言っていた事と言い、やっぱり白竜が何かしたのか?ルーンに意味があるとか言う凝り固まった概念が生まれたのもそれが原因だろう。
白竜、人のいる所に降りてからどうもその存在がちらつく。
やはりこの事は避けては通れ無い道のようだ。
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