No.8 Think more for yourself
まだ夕食まで少し時間があるが、ホールには生徒達がちらほらと集まって来ていた。みんな早くも新しい友人を作っているようだ。
僕達も向かい合った席に座る。周りが何の話をしているのか耳を澄ますと、こんな事が聞こえて来た。
「なぁ、そう言えばさ、首席って誰だと思う?」
「エレオノーラ王女じゃねぇの? 見ただろ、あの実技試験での魔法。トルグイネの王族が魔法を使えるってのは本当だったんだな」
「王女殿下もすごかったけど、何か一人化物いなかった? ほら、あの、誰だっけ?」
「ああ、あの的破壊した人でしょ。おかしいよね、エルフでも魔人族でも無いのにあの威力って」
聞いていて申し訳ない。言われなくても自分の事だって分かるのがまた……
「みんな君の話してるけどさ、化物ってのは流石に酷いよね。あっ、もちろん僕はそんな事思って無いよ」
ラーファルはそう言ってくれるが、みんながそう思うのももっともだろう。
「いや、全然、そんな事無いよ。僕だってあれはやり過ぎたと思ってるし。ほんとこんなの……怖いよね」
「怖く無い、怖く無いって! みんな何も知らないからあんな事言えるんだよ。エスが良い人だってのは話せば分かるのに……」
「あはは、良い人ってのはちょっと違う気もするけど。ありがとう、そう言ってくれて」
ああ、ラーファルの優しさが身に染みる。いや、優しいってよりは信じられないくらい純粋なんだよな。僕みたいなのとは違って。
っと、話しているうちに良い感じに時間が経ったようだ。ここで働いてる人だろうか? が料理を運んで来てくれた。
「っこれが、この世界の料理……ああ、光り輝いて見える……」
震える手でまずはスープをすくい口に入れる。その瞬間、電流が流れる様な感覚が全身にほとばしった。
「はあああ、これが! ひっさびさのまともな食事! ああああ何だこれ? よく分からないけどうまっ、謎肉うまっ」
そして怒涛の勢いで食べ尽くしていく。気がつくと食器は全て空になっていた。
「ええと、美味しかった?」
遠慮がちにラーファルがたずねる。
「もちろん!」
これは本当に心の底から出た言葉だった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
その日の夜は良く眠れた。そりゃそうだ、十数年ぶりにあんな美味しい物食べたんだから。
ただこう言う気分は大抵長続きしないんだ。
寮に来て散々楽しんだのが昨日、なら今日は何があると思う? そう、入学式だ。忘れてはいけない。ここは学園なんだから。
どうせ何とかなるだろう、そう思ってた時もありました。予想はしてたけどこんなのこんなのあんまりじゃないか。まさかこんなとんでもない事になるなんて……
講堂には朝食の後すぐに集まる事になっていた。
道については人の波に流されていっただけだし、座り順もこれまた自由席だったからそれは良かった。
だから問題はそこじゃ無い。
「皆さん、この度は御入学、誠におめでとうございます。本日はお日柄もよく、晴天の中皆さんをお迎え出来た事を心より嬉しく……」
学園長と紹介されたエルフの女性が壇上に上がって挨拶を始める。全く、校長だの学園長だのの話が長いのはどこの世界でも一緒なんだな。
こう言った話に別段意味は無いからと適当に受け流していた時、事は起きた。
「……と、私の話はここまでにして、新入生の挨拶といきましょうか。それでは新入生代表、首席セルマリエス君、壇上にお願いします」
なんて?
え? 僕何も聞いてないよ。ってか今何て言った? 首席? うわぁ、やっぱりか、もしかしたら王女サマとかになってくれないかなぁとか思ってたのに。
違う、今言いたいのはそう言う事じゃない。首席だってのは薄々感じてたし、それについては百歩譲って良しとしよう。問題はそもそも僕が何をどうすれば良いのかを何一つ知らないと言う事だ。だって言うべき事も分からないのに挨拶なんてしようが無いじゃないか。
何とかして逃げられやしないかとも思ったが、どうやらそれは無理な様だ。学園長さっきからずっとこっち見てるし。……やっぱこれ見つかってるよね。
このまま黙ってたところでどうしようも無い。はっきり言って気は進まなかったが諦めて壇上に向かった。さて、これから何をすれば良いのか。
万が一の為にあれやこれや意味のない事を必死に考えてはいたが、いざとなってみればそれも杞憂に過ぎなかった。演壇の上には読んでくださいと言わんばかりの一枚の紙が置いてあったから。
まあそりゃ流石に事前通告も無しではい、どうぞ自由に話して下さい。なんて事は無いよな。せっかくなんだからこんなの利用しない手は無いだろう。とりあえず読み上げるか。
「えー、この度は当校に無事、入学する事が出来誠に喜ばしく思います。つきましては、僕の方からもいくつかお話したい事があります……」
お、良いんじゃないか? 読み上げてるだけとは言っても、今のところ何の問題も無い。生徒達もさっきはざわついていたが、今は静かに聞いてくれている。
「一つ、皆さんそれぞれ様々な事情を抱えていると思います。しかしここでは身分、国、種族の隔たり無く、共に切磋琢磨し合い、良き友人、ライバルに恵まれる事を切に願います。二つ、当然これから様々な事を学ぶにつれ、危険も……」
よしよし、紙の内容の終わりも近いぞ。次で最後か。
「最後にここで一つ皆さんに質問なんですが、入学時の試験は難しいと思いましたか? 筆記試験について今のところ僕が言える事は何もありませんが、少なくとも皆さんの実技試験を見ている限り、ここには弱々しい魔術しか扱う事の出来ない雑魚しかいないのか、と少し心配になりました」
うん?
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