筆記試験と炎のゴミ

 僕がこの世界に来てから早くも十二年が経ってしまった。時が経つのは早いものだが、前世で死んだのが十五歳だと考えると、いささかこのペースは早すぎる気もする。


 だが思うにそれも当然かもしれない。


 この二年間で新たに分かった事だが、竜は寿命が千年あるらしい。


 いや、正確には寿命ではなく、次の世代が生まれてから自らの能力を全て継承する。このサイクルにかかる期間が大体千年なのだそう。


 そして全てを託した時点で役目を終える。


 この話を聞いて、なぜ竜が絶滅寸前までに追い込まれたのかが分かった。


 他の生き物とは違い、世代を紡ぐ事は出来ても仲間を増やす事が出来ないのだ。


 もちろんそれを知っていたはずの白竜は、どうしてわざわざ同族を殺そうとしたのだろうか。


 考えたところで答えが出る訳じゃ無いんだからしょうがない。どっちみち本人に聞く事だって出来ないんだし。


 父さんの言った通り、こればっかりは分かんないんだ。だからこんな事考えるのはやめようじゃないか。


 そんな事より、十二年経ったと言う事は今年から第二の学生生活を送る事になるのだ。


 よって今、僕は人間達の街にいる。


 ここは学園都市アルカノスト。僕が通う学園、私立アルカノスト学園はこの都市の中心部にある。と言うのも、この都市全体が学園の所有物なのだ。どこの国の息もかかっていないため、政治のごたごたに巻き込まれにくいのもありがたいところ。


 ここに通うにあたり、そのままの見た目ではすぐに正体がバレるので、翼などを全て隠したうえ、魔法で黒髪は水色に、青くて猫の様な目は黄色で丸い瞳に変えてきた。


 これで今の僕はただの人族の少年にしか見えないはずだ。


 と言う訳で早速試験を受けに行こうか。


 学園は完全に実力重視。国や種族間のいさかいや貴族の子供などによる差別を無くすためだそうだ。


 それでも完全には無くならないだろうが。


 試験会場に着くと用紙を渡され、そこに名前や種族などを書き込んだ。


 正直に書くと色々まずいので、種族の欄は人にし、苗字は書かなかった。


 全て書いて受付に提出すると、番号の書かれた札が渡され、特定の教室の内の一つで待つよう指示された。


 扉を開けると中は大学の教室の様になっていてかなり広い。にも関わらず既に半分以上の席が埋まっていた。


 前の方で適当な席を探して座ると、隣にいた鳥獣人の少年に話しかけられた。


 「試験、緊張するね。合格出来たら良いけど……あっ、急に話しかけてごめん、僕はラーファル。見ての通り鳥獣人だよ。えっと、君は?」


 「僕はセルマリエス。人族。長いからエスで良いよ。こっちこそ、一緒に合格出来ると良いね。」


 異世界で初めて話した人間が良い人そうで良かった。


 ラーファルはその濃紺の翼の模様を見るにハヤブサ系の鳥獣人だろう。


 しばらく談笑していると教室に試験官らしき女性が入って来た。


 「皆さん、これから試験を始めます。私は試験官のルルスです。筆記試験の後に実技試験を行います。問題用紙を配るので指示をしたら解き始めてください。」


 試験開始の合図があり問題に目を落とすと、簡単な数学の問題と、魔術陣を描く問題があった。


 数学の方はレベルで言うと中学一、二年生で習う程度だろうか。


 十二歳に課す問題としては少し難し過ぎる気もしたが、これでも前世では高一だったんだ。数学は難無く解く事が出来た。


 さて、次は魔術陣の方だ。この炎熱魔術が描かれた陣の欠陥を正せとの事。


 ぱっと見おかしなところは見当たらないが、よく見ると酷いものだ。


 例えば魔力の供給線が細過ぎる。このまま発動されれば、流された魔力に耐え切れず術が暴発するだろう。それに余計な手順も多すぎる。何で炎を出すだけなのに一度火花を出して魔力供給で大きくしなきゃいけないんだ。初めから火属性に魔力を形質変化させた方が効率が良いだろ。


 他にも大量の欠陥が出るわ出るわ。全て直したついでに火力を上げるアレンジもしておいた。


 そこで丁度試験が終了し、解答が回収された後二十分間の休憩時間が与えられた。


 周りを見渡すと皆不安げな面持ちをしている。……そんなに難しかっただろうか?


 「ねぇ、エス、試験……どうだった?」


 こちらも青ざめた顔でラーファルが聞いて来た。


 「別に……そんなに難しくは無かったと思うけど。」


 そう答えると彼はとんでもないとでも言うかの様に目を丸くした。……ほんとにそんな難しく無かったよね?


 「まさか!あの数学の問題だって多分習うのは上級生だよ。それにあの魔術陣は長年原因不明の暴発を繰り返す事で有名じゃ無いか!」


 ひとまず数学は置いておくとしてあのゴミがそんなに有名な魔術陣なのか?


 「あぁ、アレね。あの有名ななんかすごい魔術陣……」


 「まさかエス、知らなかったの?」


 「ヴゥッ、」


 微妙な空気が流れる。これは……入学する前からもうやらかしてしまったかもしれない。


 そうだ。冷静に考えてみれば父さんが教えてくれた事が今の人間達にとって普通な訳ないじゃ無いか。竜だし。何年生きてるのか分かったもんじゃ無いし。


 あの解答用紙燃やしたい。手遅れだけど。


 どうしよう。嫌な予感がする。頼むから実技だけは、せめて実技だけではまともにぃっ。


 あっ、手加減の仕方教えて貰って無いや。


 終わった……

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