No.4 筆記試験と炎のゴミ
僕がこの世界に来てから早くも十二年が経ってしまった。時が経つのは早いものだが、前世で死んだのが十五歳である事を考えると、ちょっとこのペースは早すぎる気もする。
だが思うに、それも当然の事なのかもしれない。
この二年間で新たに分かった事なのだが、竜は寿命が千年あるらしい。
いや、正確には寿命ではなく、次の世代が生まれてから自らの能力を全て継承する。このサイクルにかかる期間が、だいたい千年なのだそう。
そして全てを託した時点で、先代は役目を終える。
この話を聞いて、なぜ竜が絶滅寸前までに追い込まれたのか、その理由の一端をなんとなくだが理解した。
竜は他の生き物とは違い繁殖を行わない。世代を紡ぐ事は出来ても仲間を増やす事が出来ないのだ。
ここで一つ疑問がある。もちろんその事を知っていたはずの白竜は、どうしてわざわざ同族を殺そうなどと考えたのだろうか。仲間の数が増える事などありえないのだから、同族殺しなんて行動は無意味極まり無い。
でも考えたところで答えが出る訳じゃ無いんだから、こんな事考えてたってしょうがない。どのみち本人に聞く事だって不可能な訳だし。
父さんの言った通り、こればっかりはいくら想像しようと、真相は『分からない』んだ。だからこんな無駄な事考えるのはもうやめにしようじゃないか。
そんな事より、十二年経ったと言う事は、僕は今年から第二の学生生活を送る事になるのだ。
よって今、僕は人間達の街にいる!
ここは学園都市アルカノスト。僕が通う学園、『私立アルカノスト総合学術研究学園』はこの都市の中心部にある。と言うのも、この都市全体が学園の所有物なのだ。どこの国の息もかかっていないため、政治のごたごたに巻き込まれにくいってのもありがたいところ。
ここに通うにあたり、そのままの見た目ではすぐに正体がバレるので、翼などを全て隠した上、魔法で黒髪は水色に、青くて猫の様な目は、黄色で丸い瞳に変えてきた。
これで今の僕はただの人族の少年にしか見えないはずだ。
と言う訳で早速試験を受けに行こうか。
学園は完全に実力重視。これは国や種族間のいさかいや、貴族の子供などによる生徒間の差別を無くす為だそうだ。
……それでも完全にはなくなる事は無いだろうが。
試験会場に着くと用紙を渡され、そこに名前や種族などを書き込んでいく。
正直に書くと色々まずいので、種族の欄は人にし、苗字は書かなかった。
全て記入して受付に提出すると、番号の書かれた札が渡され、指定の教室の内の一つで待つよう指示された。
扉を開けると中は大学の教室の様になっていてかなり広い。にも関わらず、すでに半分以上の席は埋まっていた。
前の方で適当な席を探して座ると、不意に隣にいた鳥獣人の少年に話しかけられた。
「試験、緊張するね。合格出来たら良いけど……あっ、急に話しかけてごめん、僕はラーファル。見ての通り鳥獣人だよ。えっと、君は?」
「僕はセルマリエス。人族。長いからエスで良いよ。こっちこそ、一緒に合格出来ると良いね」
異世界で初めて話した人間が良い人そうで良かった。
ラーファルはその濃紺の翼の模様を見るに、ハヤブサ系の鳥獣人だろう。
しばらく談笑していると、教室に試験官らしき女性が入って来た。
「皆さん、これから試験を始めます。私は試験官のルルスです。筆記試験の後に実技試験を行います。問題用紙を配るので、指示をしたら解答を始めてください」
試験開始の合図があり問題に目を落とす。筆記試験には簡単な数学の問題と、魔術陣を描く問題があった。
数学の方はレベルで言うと中学一、二年生で習う程度だろうか。
十二歳に課す問題としては少し難し過ぎるような気もしたが、これでも僕は前世では高一だったんだ。数学は難無く解く事が出来た。
さて、次は魔術陣の方だ。これまた数学同様、すらすらと解き進めていく。お、次が最終問題か。この炎熱魔術が描かれた陣の欠陥を正せ、との事。
ぱっと見おかしなところは見当たらないが、よくよく見るとまあ酷いものだ。
例えば魔力の供給線が細過ぎる。このまま発動されれば、流された魔力に耐え切れずに術が暴発するだろう。それに余計な手順も多い。何で炎を出すだけなのに、一度火花を出してから魔力供給で大きくする、なんて面倒な事しなきゃいけないんだ。初めから火属性に魔力を形質変化させた方が、そんな事するより圧倒的に効率が良いだろ。
他にも大量の欠陥が出るわ出るわ。全て直したついでに火力を上げるアレンジもしておいた。こんな酷い術式、もはや何が欠陥だか分からないレベルなんだから、これくらいやったって大丈夫だろう。
そこでちょうど試験は終了し、解答用紙が回収された後、二十分間の休憩時間が与えられた。
周りを見渡すと、他の受験生達はみんな、不安げな面持ちで座っていた。……そんなになるほど難しかっただろうか?
「ねぇ、エス、試験……どうだった?」
こちらも青ざめた顔でラーファルが聞いて来た。
「別に……そんなに難しくは無かったと思うけど」
そう答えると、彼は『とんでもない』とでも言うかのように目を丸くした。……ほんとにそんな難しく無かったよね?
「まさか! あの数学の問題だって、多分ちゃんと習うのは上級生になってからだよ。それにあの最後の魔術陣は、長年原因不明の暴発を繰り返す事で有名なやつじゃないか!」
ひとまず数学は置いておくとして、あのゴミがそんなに有名な魔術陣なのか?
「あぁ、アレね。あの有名ななんかすごい魔術陣……」
「まさかエス、知らなかったの?」
「ヴゥッ、」
微妙な空気が流れる。これは……入学する前からもうやらかしてしまったかもしれない。
そうだ。冷静に考えてみれば、父さんが教えてくれた事が今の人間達にとって普通な訳無いじゃないか。だって竜だし。何年生きてるのか分かったもんじゃないし。
ああ、あの解答用紙燃やしたい。もう手遅れだけど。
どうしよう。嫌な予感がする。頼むから実技だけは、せめて実技だけではまともにぃっ。
あっ、手加減の仕方教えて貰って無いや。
終わった……
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