実技試験って楽しいねぇ〜

 どうしよう。このままでは確定悪目立ち最強ルートに入ってしまう。


 ああ……どんどん僕の理想の異世界学園生活が遠ざかって行く……


 馬鹿みたいだ……最強ムーブは程々にとか自分で考えてたのに。まさか入学前どころか筆記試験でやらかすなんて。


 これで薄々感じてきた事がある。僕は転生してから警戒心というものが薄過ぎるのだ。


 あまりにも希薄すぎてもはや無いと言っても良い。何でだ?最強種ってこんなもんなのか?


 きっとこれから筆記試験のせいで変な注目浴びて、実技試験でもやらかして、竜だって事もすぐにバレるんだ……


 悲観的な想像が押し寄せてくる。机に突っ伏して唸っていると、心配そうにラーファルが慰めてくれている。ラーファル、君は本当に優しくて良い子だ……


 するとまたルルスさんが教室に入ってきた。どうせ実技試験が始まるんだろ。


 「休憩時間終了です。次は実技試験を行います。会場を移動するので私について来てください。」


 ほらやっぱり。


 続々と受験生達が教室を出て行く。実技試験が近づいて来る。憂鬱だ。


 「エス、大丈夫?」


 「ううん。」


 「でもしょうがないよ。ほら、実技試験の会場行こう。みんな行っちゃうよ。」


 見るともう既にほとんどが教室を出ている。遅れたら面倒だ。やっぱり行くしか無いのか。


 渋々教室を出て案内に従って歩くと、巨大な闘技場の様なところに着いた。他の教室に居た受験生達も全員集まっているのか、席は殆ど埋め尽くされている。


 僕達は何とか隣り合って空いてる席を見つけ出して座る事が出来た。が、ここで面倒なイベントが発生してしまった様だ。


 明らかに上質そうな服にお供が二人。典型的な異世界のお貴族様じゃないか。


 お供その一がこちらを指差して喚く。


 「おい!お前ら!そこはメルト様が座ろうとしていた席だぞ!!」


 何だこの圧倒的な小物臭のする連中は。ってか何だよメルトって。頭の中でも溶けてんのか?


 「誰?」


 「ちょっ、エス、この人は……」


 「貴様!この方を知らないのか!!」


 今度はお供そのニか。


 「なら教えてやろう!この方はトルグイネ王国キングスランド公爵家嫡男、メルト=キングスランド様だぞ!!お前達みたいな平民は会えただけでも運が良かったと思え!分かったらならさっさとそこをどけ!!」


 何でお前らが偉そうにしてんだ?真ん中のやつ困ってるぞ。


 「だから何?」


 「だからだと!?おま……」


 「全員さっさと席に着け。実技試験を始めるぞ。」


 うるさいやつらもいるが、実技試験はもう始まる様だ。真ん中にいたやつは僕の隣に座り、お供二人は散々悪態をつきながらも他の席を探しに行った。


 「じゃあ試験の内容を説明する。あそこにある的を十メートル離れた位置から攻撃しろ。ただし攻撃をして良いのは三回までだ。時間がかかり過ぎる時も強制終了とする。何か質問があるやつはいるか?」


 試験についての説明が淡々と終わり、これでようやく始まるのかと思った時、一つだけ質問が上がった。


 「的を攻撃すると言いましたが、魔術では無く魔法を使っても良いのでしょうか?」


 「別に禁止されてはいない。使えるなら良いが、魔法を使えるやつは殆どいない前提だからな。」


 そこでやっと実技試験が始まった。


 僕の受験番号はかなり後ろの方なのでまだしばらく時間がある。他の人達の試験の様子を見てみると、それはもう散々なものだった。


 大半は魔術の発動すら出来ず、出来たとしても的まで届いていない。


 仮に届いたとしても当たっただけですぐ消える様なものだった。何人かは少し傷付ける事が出来た様だが、それだけで歓声が上がるとは。マジか。


 お?次はあのメルトとか言うやつの番か?実力が確かならお供達が付け上がる理由も少しは分かるんだが……


  あれは……水の斬撃か。もう少し薄くして圧縮した方が威力は上がると思うんだけど。


 発動された斬撃は綺麗にスパッととは言わないが、的を真っ二つにした。それでどうなったと思う?予想に違わず周りは拍手喝采の嵐だ。


 「まさか軽くとはいえ強化魔術のかかった的をへし折るとは。あの子は他の受験生とはレベルが違うな。」


 あの程度でか?


 まあ良い。これ以上は考えても無駄だ。何もしてないのに疲れる……


 次は……あの質問してたやつか。


 どうせまた同じ様なもんだろうと思ったが、彼女が出て来た途端周囲が水を打ったかの様に静まり返った。何だ?


 彼女は腕を前に出して構える。そこまでは問題無かったが、彼女は魔術陣を描かなかった。


 そこで微かに聞き取れた言葉。


 『……我ノ……イテ……顕現セヨ灼熱……』


 そして放たれたもの。それは間違い無く魔法だった。


 どうして魔法を使えるのか、それは別に良い。誰彼少なからずは事情というものがあるだろう。


 だから問題はそこでは無いのだ。


 「ラーファル。」


 「え?」


 「アレは誰だ?」


 「あの方は我がトルグイネ王国第二王女、エレオノーラ=トルグイネ様だ。」


 答えたのはラーファルでは無くメルトだった。


 魔法は素質がものを言う。王女、つまりは王族。この世界でそれは忌むべき力じゃ無いのか?


 ならなぜ使える?


 そうか、お前達が英雄の血筋か。


 一体王族は何をどこまで知っているんだ?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る