えっ!?やっぱ人間っていんの!?

 さて、この世界にきてから十年はたっただろうか。


 今日まで特に変わった事は無い。霊峰で安心安全なスローライフを満喫している。


 いや、ただ一つ変わった事があるとすれば、つい最近朝起きたら人型になっていた事だろうか。


 最初は理解不能すぎてまた死んだのかと思った。


 ただ父さんによると、竜と言うものは大体十歳前後で人型になれるとの事。また戻ろうと思えばいつでも竜の姿に戻れる。しばらく練習すれば、ツノや翼を消して完全に人間の様にもなる事ができるらしい。


 父さんは始めから人型だったが、後から聞いてみるとそっちの方が場所をとらないし、僕の世話をしやすくて楽だったからだそうだ。


 僕の場合は前世が人間だった事もあり、なんだかんだ言って人型の方が過ごしやすかった。それに今元の姿に戻ったら大きすぎるし……


 ところでこの世界の生活といったらはっきり言って暇なのだ。


 始めのうちは見た事のない動植物を探し回るか本を読み漁るかして気を紛らわせていたが、最近はそれにももう飽きてしまった。


 そこで何か無いかと考えた末に、この世界について父さんに教えて貰う事にした。早速聞いてみるか。


 「ねぇ、父さん。」


 「うん?どうした?」


 「この前読んだ本に書いてあったんだけど、この世界に人間って本当にいるの?今まで見たこと無いけど……」


 「ああ、人間ね。もちろんいるよ。私たちなんかよりずっと数も多いしね。見た事が無いのはここまで人間達が来ることができないからだよ。」


 なるほど、この世界にも人間はいるのか。だが来ることが出来ないとはどう言う事だろうか?


 「何でここまで来られないの?」


 「人間にとってここは魔力が濃すぎるんだ。どうしても来たかったら特殊な装備を整えなければならない。ここは山頂に近いからよっぽどね。まぁだからここに住んでいるんだけど……そうだ、エス、この世界の歴史についてどれくらい知ってるのかい?」


 今まで人間を見たことがない理由は分かったが、急に話を振られたので一瞬返しに戸惑った。本で読んだ記憶を頼りに答える。


 「えっと……確か神が世界を創った時に、自らの子として人、エルフ、獣人、ドワーフ、魔人の五種類の人間を創った。そしてそれらを見守り、何かあった時に助けるために作り出したのが竜って……」


 「そう、それが創世神話だ。」


 父さんは意味ありげに言った。


 「本来ってどう言うこと?」


 「今から大体三千年くらい前に人間の勢力が人、エルフ、獣人とドワーフ、魔族の二つに分かれた戦争があったんだ。始めは大したことの無い小競り合いが、段々種族同士を巻き込んでいったんだと聞いているよ。もちろん竜だってそれを止めようとした。何とか200年くらいで戦争は収まったらしいけど、人間たちは自分達が傷付いた原因を誰かのせいにしないと気が済まなかったんだ。」


 酷い話だ。それからの事は容易に想像出来る。どこの世界だろうと人間のやる事は変わらないものだ。


 「それで結果的に誰のせいにしたか、それが私たち竜だった。竜は完全に巻き込まれただけだけど、神に定められた役目を守って人間を攻撃する事は無かった。でもそれだけならまだ良かったんだ。」


 父さんの顔が曇る。


 「今この世界にいる竜は、黄竜『エドバルテ』、緑竜『リンドバルテ』、赤龍『ハルバルテ』、そして私たち青龍『リズバルテ』の四種類だけ。かつてはもっと多かったらしいがみんな殺されてしまった。全てはある一匹の竜が巻き起こしたことだ。彼女、白竜『テクノバルテ』が何を考えていたのかは分からない。ただ一つ分かっている事は、どう言う訳か彼女は同族を殲滅した後人族の英雄に血を混ぜ、人間達に神話を改変させた。ある日竜は創造主たる神を裏切り、人間達に牙を剥いた。だが白竜だけは人間に味方し、全身全霊をもって彼らの脅威を退けたと。」


 そこまで話して言葉を切ると、今度はいつもの柔らかな表情で続ける。


 「悪いのは白竜だが、だからと言って人間達まで心の無い悪辣な生物だと思ってはいけないよ。この先こんな辺境に閉じこもっているだけでは今までと同じ、何も変われない。だからエス、君が十二歳になったら人間の国にある学園に行ってもらおうと思ってるんだ。それまでは色々教えてあげるから。」


 何と、この話の流れで僕は学校に行くことになるのか。突然すぎてすぐには対応できなかった。


 ってこの世界にも学校だの学園だのはあるのか。ここでテンプレだと魔法やら魔術やら習う事になるのだが……一応聞いてみるか。


 「学校?何を習うの?」


 「基本的な計算、歴史と魔術とかかな。他にも学ぶ事はあるけど。」


 やっぱり習うのか、魔術。存在する事は知っていたが……待てよ、一つ腑に落ちない事がある。


 「魔術?本には魔法についても載ってたけど、魔法は習わないの?」


 「魔法と魔術は似て非なるものだからね。魔術は極論空中に陣を描ければ誰でも使えるけど、魔法は個人の適性によるし発動法も特殊だから。ちなみにエスは竜だから使えるよ。竜言語魔法って言って私達にしか扱えないやつがあるから。知りたい?」


 「うん!知りたい!」


 何やら聞いたことのある単語が出てきたけど、こうなったらテンプレなんぞ知ったものか!魔法に魔術なんて面白そうだ。


 前世ではファンタジーの世界のものだったが、こっちには現実に存在するんだ。こうなっては楽しまない方が損と言ったものだろう。


 せっかく生まれ変わったんだ。学園に行ったら悪目立ちしない程度に二度目の青春を送ろうではないか。


 まぁ、最強ムーブは程々にね……

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