No.2 ここに来て結局人間かい!!

 さて、この世界に来てからそろそろ十年が経つ頃だろうか。


 転生したあの日から今日までに、特に変わった事は何も無い。相変わらず霊峰で安心安全なスローライフを謳歌しているところだよ!


 ……あ、でも変わった事と言ったら一つだけ。


 つい最近の事だ。朝起きたら体に違和感を感じて、何かおかしいと思って立ち上がってみたら……


 ——いつもより視点が高かったんだよ。


 あれ!? この懐かしい感覚……僕、二足歩行してる!? って思って自分の事よく見てみたら……


 ——人型になってたんだよ。


 いや〜、最初は訳分かんな過ぎてまた死んだかと思ったよ。人外に転生して十年生きて、まさかまた二足歩行出来る日が来るとは。こんなの一切想像して無かったから。


 それであの時はま〜ぁ大混乱でさぁ、あわてて父さんに聞きに行ったら、何て言われたと思う?


『ああエス(あ、エスは僕の愛称ね。セルマリエスだと長いから)、人化出来るようにになったのか。私達竜は、大体十歳前後で人の形をとれるようになるからね。あれ? 言ってなかったっけ?』


 だと。


 いやいや、そんなの聞いてないっての! 父さんが人型だから、いずれ僕にも出来るような気はしてたけど、こんな朝起きたら突然とかさぁ……


 さらに続ける事には、


『戻ろうと思えば、いつでも元の姿に戻れるよ。しばらく練習すればツノとか翼とかを消す事も出来るようになるしね』


 っての。


 いやそれも知らんって。


 ……でも今となっちゃあ、元の姿に戻ったら戻ったで大きすぎて小屋に入れないし、前世が人間だったからはっきり言ってこっち(人型)の方が楽……


 違うよ、戻るのが面倒くさいとか、そう言う事じゃないよ。ほんとにこっちのが楽なだけだよ。


 ……っと、一旦話を変えようか。こんな話したかった訳じゃないんだ。


 ところでなんだけど、この世界の生活と言ったら、はっきり言って暇なんだよね。


 始めのうちは見た事の無い動植物を探し回るか、小屋の本棚の本を読み漁るかして気を紛らわせてたんだけど……最近はそれにももう飽きちゃってさ。


 それで思いついたんだ。そうだ! どうせならこの世界について父さんに教えてもらえば良いじゃないか! 暇も潰せて一石二鳥だ! って。


 いや〜、我ながら良い案だ。ってな訳でさっそく、行ってみよー!


「ねぇねぇ、父さん」


「うん? どうした?」


「部屋に置いてある本、あれ読んでからずっと気になってたんだけどさ、この世界に人間って本当にいるの? 今まで見た事無いけど……」


「人間? もちろんいるよ。いるし私たちなんかよりずっと数も多い。人間達はここまで来ることが出来ないから、ここで彼らを目にする事はまず無いけどね。」


 なるほど? とりあえずこの世界にも人間はいるのか。でも、来ることが出来ないとはどう言う事か?


「人間はここまで来られない? どうして?」


「人間にとって、ここは魔力濃度が濃すぎるんだ。どうしても来たいのなら、相当特殊な装備を整えなければならない。ここは山頂に近いからよっぽどね。まぁ、だからこそここに住んでいるのだけど……そうだ、エス、この世界の歴史、成り立ちについてはどれくらい知ってる?」


 ほうほう。今まで人間を見た事が無い理由については理解。それで……えっと、何? 世界の成り立ち? あー、確か本に書いてあった事には……


「えっと……確か神が世界を創った時に、自らの子として人、エルフ、獣人、ドワーフ、魔人の五種類の人間を創った。そしてそれらを見守り、何かあった時に助けるために創り出されたのが竜って……」


「そう、それが創世神話だ」


 僕が本の内容を暗唱すると、父さんはそう意味ありげに言った。


「本来ってどう言うこと?」


「今から大体三千年くらい前に、人間の勢力が人、エルフ、獣人の三種族とドワーフ、魔人の二種族の二つに分かれた戦争があったんだ。始めはたいした事の無い小競り合いが、段々種族同士を巻き込んでいったのだと聞いているよ。もちろん竜だってそれを止めようとした。何とか二百年くらいで戦争は収まったらしいけど、……人間達は、自分達が傷付いた原因を誰かのせいにしないと気が済まなかったんだろうね」


 ふむ、酷い話だ。それからの事は、言われなくても容易に想像出来る。どこの世界だろうと人間のやる事は変わらないものだ。


「それで結果的に誰のせいにしたか、それが私たち竜だった。竜は完全に巻き込まれただけだけど、神に定められた役目を守り、決して人間を攻撃する事は無かった。それだけならまだ良かったのだが……」


 ふいに父さんの顔が曇った。


「今この世界にいる竜は、黄竜『エドバルテ』、緑竜『リンドバルテ』、赤龍『ハルバルテ』、そして私たち青龍『リズバルテ』の四種だけ。かつてはもっと多かったらしいが、みんな殺されてしまった。全てはある一匹の竜が巻き起こした事だ。彼女、白竜『テクノバルテ』が何を考えていたのかは、今となっては誰も分からない。ただ一つ分かっている事は、どう言う訳か彼女は同族を殲滅した後、人族の英雄に血を混ぜ、人間達に神話を改変させたと言う事だけ。『ある日竜は創造主たる神を裏切り、人間達に牙を剥いた。だが白竜だけは人間に味方し、全身全霊をもって彼らの脅威を退けた』と」


 そこまで話して言葉を切ると、父さんはいつもの柔らかな表情で続ける。


「とは言え悪いのは白竜だが、だからと言って人間達まで心の無い悪辣な生物だと思ってはいけないよ。この先こんな辺境に閉じこもっているだけでは今までと同じ、私達は何も変われない。だからこそエス、私は君が十二歳になったら、人間の国にある学園に行ってもらおうと思ってるんだ。大丈夫、それまでは色々教えてあげるから」


 何と、この話の流れで僕は学校に行くことになるのか。こりゃ完全に予想外……


 って、この世界にも学校だの学園だのは存在するのか。ここでテンプレだと魔法やら魔術やらを習う事になるのだけど、僕の場合は……一応聞いてみるか。


「学校? 何を習うの?」


「基本的な計算、それに歴史とか魔術とかかな。他にも学ぶ事はたくさんあるよ。選択制の授業もあるらしいからね。」


 ふぅん。やっぱり習うのか、魔術。存在する事は知っていたけど、改めて聞くとなんかこう……うん? 待てよ、一つだけ腑に落ちない事がある。


「魔術? 本には魔法についても載ってたけど、魔法は習わないの?」


「魔法と魔術は似て非なるものだからね。魔術は極論、空中に陣を描ければ誰でも使えるけど、魔法は個人の適性によるし、発動法もかなり特殊だから。ちなみにエスは竜だから魔法も使えるよ。竜言語魔法って言って、私達にしか扱えないようなやつがあるから。知りたい?」


「うん! 知りたい!」


 魔法だの魔術だの、何やら聞いたことのある単語は色々出てきたけど、こうなったらテンプレなんぞ知ったものか!


 魔法に魔術なんて前世ではファンタジーの世界のものだったけど、こっちには現実に存在するんだ。こうなったら楽しまない方が損と言ったものだろう。


 せっかく生まれ変わったんだ。学園に行ったら悪目立ちしない程度に二度目の青春を送ろうではないか。


 まぁ、最強ムーブは程々にね……

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