第27話「ミカエルの槍」

 第二十七話「ミカエルの槍」


 ミカエルの槍と言う神器がある。

 どんな天使も悪魔も殺せる槍で、持ち主は大天使ミカエルであった。

 しかし異世界のミカエルは封印されたその時にその槍を手放していた。

 そして天使達を封印したなにかがミカエルとその槍を引き離した。

 ミカエルは自身の相棒を取り戻す為、そしてルシファーはミカエルを殺せる強力な武器を手に入れる為に奔走していた。


 ―天使封印の遺跡


 そこは天使が封印されていた遺跡。

 今では空の遺跡だが、中年で小太りのベージュのコートの男、メタトロンと長い銀髪の革鎧の男ミカエルはそこを根城にしていた。

 部下は残った少人数の天使と野良の魔物や魔女、人間の傭兵である。

 天使は碑文の力で洗脳できてるし、それ以外の彼ら彼女らは十分な報酬を与えれば働いてくれるのだ。


「で、ミカエル、いつになったら槍は見つかるんだ?」


「そう急かすな。今共鳴先を感じ取っている所だ」


 ミカエルと槍は繋がっており、共鳴により存在を感じ取る事が出来る。

 ミカエルが槍の存在を見つけるのも時間の問題だった。


 一方でルシファーはというと魔王である立場を利用し魔物達の情報網とルシファーズハンマーと言う強大な人間達のネットワークを駆使して槍の行方を探していた。

 そしてついにルシファーはミカエルよりも先に槍の行方を見つけたのである。

 それはハンナという名の独身貴族の女性の持ち物だった。


「じゃあさっそく会いにいくとするか」


 ルシファーは交渉用の金貨を袋に詰めて単身ハンナの元へと向かった。


 ―ハンナの家


「お会いできて光栄だよ、ハンナ」


 ルシファーは赤いドレスのブロンドの長髪の美女に挨拶をする。


「あら、あらあら、まさかこんな所で出会えるなんて!ルシファー様!」


「あれ、どこかであったっけ?君みたいな美女、出会ったら忘れないんだけどな」


「私です!アバドンですわ!」


 アバドンとはヨハネの黙示録に登場する奈落の王で、ヘブライ語で「破壊の場」「滅ぼす者」「奈落の底」を意味する。

 堕天使の一員であり、ルシファーに最も近い存在とも言われている。

 また奈落の主とも言われ、奈落の鍵を管理していて、千年の間ルシファーを閉じ込めていた。

 部下でもあり敵でもあった、いわば因縁の相手である。


「持っているのが君でよかったよ。ミカエルの槍は無事なんだろうね」


「はい、こちらにございますわ」


 アバドンは自身の宝物庫の元へルシファーを案内した。

 そこには槍がある、はずだった。


 グサリ


 ルシファーの体を長く鋭い何かが貫く。

 ルシファーの体が燃える様に熱い。

 ルシファーの体に刺さっているソレこそミカエルの槍だった。


「さあ、ルシファー様、ミカエルの槍にさされた気分はいかがです?」


 高笑いしたい気持ちを抑えてアバドンが言う。


「裏切ったのか、アバドン……」


「元よりあなたを幽閉していた身、なんの不思議がございましょう。この槍がある限りミカエルもルシファーも敵ではありませんわ!」


「それはどうかな?」


「!?」


 ルシファーがミカエルの槍を自身の体から引き抜くとアバドン目掛けて投げた。

 投げた槍は見事アバドンを貫き瀕死に追い込んだ。


「な、なぜ……この槍はどんな悪魔も天使も殺せるはず……」


「この身体には異世界のルシファーがいてね。彼に死を肩代わりして貰ったのさ」


 ルシファーはもう一人の自分へのたむけとしてモヒートをグラスに注ぎ飲み干した。

 そして息を引き取ったアバドンから槍を引き抜いた。

 最強の大天使一体分の力を失ったことは今後を考えると好ましくはないが仕方が無い。

 もう一人の自分を失ったと考えると寂しい物もあった。

 しかし今は槍がある事に満足しようと考えたルシファーであった。



「さあミカエルよ、お前を殺すまでもう少しだ!」


 その宣言は現代と異世界、両方のミカエルに向けた物だった。

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