第26話「ガブリエルの箱」
第二十六話「ガブリエルの箱」
―???
「うーん、頭が痛い……。モヒートを飲みすぎたかな」
ドラゴン軍を倒した事とこの世界でも魔王になった事を祝って、昨晩は飲めや食えや歌えやのどんちゃん騒ぎだった。
元魔王スカーレットが歌と言う意外な特技を披露したり、リィンが頭上の林檎を弓で射抜くなどの大道芸を見せてくれたりで大盛り上がりだった。
ルシファーもそのモヒートを出す能力で皆にモヒートやラム酒を振舞っていた。
そして酔いつぶれて寝た後は、気付けば何も無い白い空間、箱の様な部屋に閉じ込められていた。
「ここはどこなの?」
第一声を発したのは元魔王のスカーレットだった。
周囲を見渡すとリィンとルシファーとスカーレットしかいない。
昨夜はもっと大勢いたはずである。
「おいオーナー、これはどんな悪戯だ。もう宴は終わったんだぞ」
ルシファーに詰め寄るリィン。
しかしルシファーは首を振るだけで何も言わない。
ルシファーが少し思案していると天からひらひらと紙が落ちてきた。
その紙には
「リィンかスカーレットのどちらかが死ねば出られる」
と書かれていた。
ルシファーは鼻を鳴らすと天高く手を掲げ眩く輝き出した。
凄まじい衝撃が部屋全体を襲う、が部屋はびくともしなかった。
ルシファーが唖然としていると天から声がした。
「その部屋には大天使用の天使よけと強力な悪魔封じの刻印が施してある。加えて天界の特別な物質で出来ているからヘラクレスの怪力でも開けられないよ」
ルシファーにはそのお調子者の声に聞き覚えがあった。
現代で殺したガブリエルの声だ。
確かこの世界のガブリエルはメタトロンに封印を解かれた後は姿を消していた筈だが……。
「ガブリエル、これはメタトロンの差し金か?」
ルシファーが天に向かって尋ねる。
「あんな三流の物書きに僕の芸術的なイタズラが真似できる訳ないだろう。これは僕のオリジナルさ」
天からガブリエルの声が降って来る。
どうやら彼はメタトロンの呪縛から逃れたらしく、独断でこんな事をやっているらしい。
「こんな事とは失敬な。まあいい、それよりもその紙を見ただろう。君はどう決断する?」
「うーん、そうだなぁ。二人とも美しい女性だし魅力的だ。これは悩みどころだぞ?」
リィンとスカーレットを品定めするように見渡すルシファー。
不思議とリィンとスカーレットはその視線に対し恐怖を感じてはいなかった。
だが男にジロジロ品定めされる事に不快感は感じていた。
ルシファーの様なプレイボーイ相手でもある。
一方で何故か互いに対抗心を燃やしていた。
女としてのサガであろう。
「おいオーナー、まさかこんな女を選ぶ気じゃないだろうな」
「こんなとは失礼ね、こんな小娘に私が負けるはずないでしょ」
リィンには長年ルシファーに付き添って来た意地が、スカーレットには元魔王のプライドがあった。
ルシファーは二人の言い分を聞くと意を決したように手を叩いた。
パン!
「よし決めた!先に死んだほうを諦めよう!」
リィンとスカーレットはキョトンとしている、天の声のガブリエルもだ。
ルシファーは皆が何も分かっていない事を悟ると自分の作戦を説明しだした。
「いいかい?老衰でも病気でもいい、とにかく二人のうちどちらかが自然に死ぬのを待つ。誰の良心も痛まない素晴らしい作戦だろう?あ、ちなみに僕は不老不死だから、幾らでも待つよ」
ルシファーの提案に唖然とするリィンとスカーレットの二人。
リィンもスカーレットも長寿の種族な為かなりの年数を待たなくてはならない。
ルシファーの提案を聞いた二人は再び睨み合っていた。
「おい、こんな奴と死ぬまで暮らすなんてごめんだぞ」
リィンがスカーレットに悪態をつく。
「こっちだってエルフの小娘と死ぬまで同棲なんてごめんだわ」
スカーレットも負けじと言い返す。
ルシファーはそんな二人を無視して天の声、ガブリエルに声を掛けた。
「ああそうそう、僕らがいない間メタトロンはお前を探し出すだろう。そしたらどんな目に遭うと思う?あのサディストなミカエルの拷問が待ってるぞ」
「・・・・・・」
ガブリエルは沈黙している。
しばらく経つと立方体の部屋は壁と天井が展開し開いた。
部屋の外は巨大な撮影スタジオだった。
スタジオの奥から茶色い革のジャケットを着たポマードたっぷりの茶髪のオールバックの青年が歩いて来る。
彼らしい異世界にとっては異世界の現代かぶれのファッションだ。
「説明ご苦労、語り部君。しかし残念だな、相棒の死の選択に悩むルシファーか、残虐に即答するルシファーが見られると思ったのに」
「ここでもお前にイタズラを仕込んだのは僕だぞガブリエル。僕の中のこの世界でのルシファーもそう言ってる」
ガブリエル、ミカエルとルシファーとラファエルの弟で末子の大天使だ。
この世界ではメタトロンの手を離れ世界を天使の羽で逃亡生活もとい放浪している。
そんなガブリエルだったが逃亡生活に嫌気がさしルシファー達に協力する事に決めたのだ。
無論ルシファーは現代でも信用できない存在だと悟った彼は今回の実験でルシファーの人格を試したわけだ。
「で、テストはどうだった?ガブリエル」
「合格さ、兄弟」
二人は握手を交わし同盟を結んだ。
現代ではガブリエルを殺しているルシファーだが、それは自分を殺しに来たからである。
本当なら兄弟は殺したくない、そう思っている……筈だ。
「「おい、大天使」」
「なんだい?」
バチン!
リィンとスカーレットがガブリエルの両頬に平手打ちをかます。
「痛いじゃないか!何するんだ!」
「因果応報だ。幾らオーナーの兄弟でも許さんからな」
「同じくよ。女を舐めない事ね」
何故か息の合っているような二人。
この後二人は仲良くバーカウンターで飲んでいた、ルシファーの悪口を酒の肴に。
今回の一番の報酬はガブリエルよりも二人が仲良くなった事かもしれない、そう思ったルシファーであった。
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