第28話「逃亡者」

 第二十八話「逃亡者」


 ―ルシファーズハンマー


 カランコロン


 扉を開けて肩ほどまでの黒髪のウェーブの掛かった女性が入って来た。

 女は息つく暇もなくバーカウンターに駆け寄った。


「お願い助けて!追われてるの!」


「美女の誘いじゃ断れないな」


 プレイボーイのルシファーは快諾した。

 しかしルシファー以外は後悔する事になる。

 まさかこんな事態になるなんて。

 この後ルシファーズハンマーは無数の吸血鬼の軍隊に取り囲まれていた。


 ―助けを乞われてから数分後


 バタンと大きな音を立て数人のブラックコートの男が数人入って来る。

 彼らの口からは吸血鬼特有の血の匂いがした。


「その女を渡して貰おうか」


「悪いがお客様は神様でね。あ、君達は入ってないから」


「舐めるのもいい加減にしろよ、人間!」


 吸血鬼達がルシファー目掛けて殴りかかって来る。

 ルシファーはそれをひらりと避けると銀の短剣で刺した。

 瞬間、吸血鬼は目から光を放ち黒焦げになった。

 助けを乞いに来た女性はルシファーの強さに驚愕し尋ねた。


「あなた何者なの?」


「新人魔王のルシファーさ」


 ―それから数分後


 吸血鬼の暴徒達が襲って来てから幾ばくかが経った。

 ルシファーは吸血鬼の女性にこの状況を尋ねた。


「私は人間の血を吸わずに獣の血を吸って生きて来たの。彼らは人間の血を吸ってる純潔派で、私に仲間に加われって……」


「で、それを拒否したからこうなった訳か。どうなってるんだ、先代魔王」


 ルシファーが舞台で歌い終わったスカーレットに声を掛ける。

 スカーレットはその長い赤髪を引きずりながらカウンターに来て座った。


「奴等は元々管轄外でな。トップのカレンという男に全て任せていた。純潔の吸血鬼を自称していたな」


「そうか、なら新しい魔王として挨拶しないとな。それとゴブ子、頼みたい事がある」


「私に用って事は魔術関連ね。報酬は?」


「ゴブリン200体」


「乗ったわ」


 ルシファーはゴブ子に頼み事の詳細を伝えると、身だしなみを整えてカレンの住む邸宅に向かった。


 ―カレン邸


 月夜の綺麗な夜、そこは貴族の屋敷の様で豪華絢爛な白い建物だった。

 一見すればとても吸血鬼の親玉が住んでる様には思えないだろう。

 ルシファーは特に緊張する様子もなく、隣人に挨拶するように気軽に門を叩いた。


「新しい魔王様のお通りだ、開けてくれ」


 しばらくするとその巨大な門は音を立てて開いた。

 そして門の先にはカレンと名乗る坊主頭の男性がタキシード姿で立っていた。


「ようこそ、新しい魔王様。お待ちしておりました」


「おお、主人自ら出迎えとは準備がいいじゃないか」


 ルシファーは少しだけ感嘆するとその豪華な屋敷の中に案内された。

 そして応接間らしき大きな部屋に通される。

 そこには大きなテーブルがあり、その上には豪華なステーキと赤ワイン?が用意されていた。


「さあ、まずは一杯」


 吸血鬼が赤ワインらしき物をなみなみと注ぐ。


「これは……血が混ざってるのか?」


「はい。血のみではないので吸血鬼でない方にも飲みやすいかと。ちなみに人間の血純度100%ですよ」


 ルシファーはパワー増強の為に悪魔の血を飲む事はあったが、

 こうして人間の血を飲むのは初めてだった。

 ワインも混ざってる事もあって飲みやすく、中々イケると思ってしまった。

 ステーキも血のしたたるレアで丁度いい。


「いい味だ。それよりも僕が会いに来た理由は分かるよね」


「ええ、エリーの件ですね」


 エリーと言うのはルシファーズハンマーに助けを乞いに来た女吸血鬼の事である。


「わかってるなら話は早い、彼女を追うのをやめろ」


「どうして魔王様が口を出すのですか?我々は仲間を増やしたいだけですよ?」


「君からは謀反の匂いがするんだよ。経験者なんでね」


「ふふふ、魔王様の時代は終わりました。これからは我々吸血鬼の時代なのですよ」


 カレンが指を鳴らすと屈強なタキシードの吸血鬼達が何人も入ってきてルシファーを取り囲んだ。

 そしてカレンはニヤリと笑った。


「おおっと、下手に動かない方がいいですよ。今頃あなたの酒場は既に我々の部隊が取り囲んでいる。あなた無しで無事にいられるかな?」


「ふーん、で?」


 ステーキを食べながら空返事をするルシファー。

 その顔からは余裕と退屈さしか感じられなかった。


「なんだと?仲間が惜しくはないのか!?」


「どうやら血が頭に回ってないようだな。吸血鬼の癖に」


「私を馬鹿にしているのか!」


「そうだよ、ルシファーズ・ジョークさ」


 ルシファーはそう言い終わると席から立ち上がり警備の男の一人の顔を鷲掴みにした。

 男の顔は光を放つと黒焦げになった。


「そうか、ならあなたもお仲間も死んで貰う!」


 こうして吸血鬼との壮絶な戦いが始まる……


 ―ルシファーズハンマー


 事はなかった。


「なんだこれは!体が動かない!」


 カレンの送った吸血鬼達が身動き取れないであたふたしている。

 それは店の周囲に描かれた巨大な魔方陣のせいだった。

 これこそがルシファーがゴブ子に頼んだ秘密の頼み事である。


「あなた達にはこのままじっとしていて貰うわよ。そして朝日で日光浴して貰うの」


 吸血鬼は太陽の日を浴びると灰になって死んでしまう。

 それは異世界も現代も同じだった。


「待て!待ってくれ!」


「悪いわね、ゴブリン(自分)に慈悲は無いの」


 ―ルシファーズハンマー、朝


「ただいまー。おいおい店の周囲が灰と服だらけじゃないか。ちゃんと掃除しておいてくれよ、クラウス」


 ルシファーが帰宅すると店の周囲には灰色の灰と大量の黒服や黒のコートが散乱していた。


「人狼と吸血鬼の扱いが違くねぇか?」


「じゃあお前も灰にしてやろうか?」


「は、はいー!!!やらせて頂きますー!」


 そそくさと店から出て行くクラウスと人狼部隊であった。

 ちなみにカレン達はというとルシファーの手で全員八つ裂きにされたという……

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