第23話「真の闇」
第二十三話「真の闇」
―???
「ここは、ここはどこだ?」
ルシファーは朽ちかけた体で虚無の空間にいた。
その漆黒のエネルギー体は器である肉体を離れようとしている。
「ここは天使や悪魔の墓場だよ、ルシファー」
「お前……いや、あなたは!」
ルシファーの前にいたその髭の生えた痩せ男は神々しいオーラを纏っている。
TシャツにGパン姿なのにである。
それはまぎれもない「神」だった。
「昔から君に謝りたいと思っていた。君達を愛する事を忘れていたとね」
「そうだ!あんな人間なんかにかまかけて!息子の僕達を愛すべきだった!」
ルシファーの言葉をあえて無視し神は言葉を続ける。
「この世界での僕の力は制限されている。だからメタトロンの凶行を止める事は出来ない。だが友人の力を借りて君を生き返らす事はできる」
「友人だって?」
そこには杖をついた今にも死にそうな老人が現れた。
「彼はヨハネの黙示禄の四騎士の内の一人、死の騎士だ」
四騎士はそれぞれ神と同等かそれより昔から存在する。
疫病、飢餓、戦争、死の名を持ち、皆が超越した力を持っている。
この死の騎士は死神のボスでもある。
「で、僕に何を求める?善人になれとか?だったらお断りだぞ」
「私の条件はただ一つ、五年以上生き残る事。死の運命に勝つところを見てみたくてね」
「丁度やる事リストに入っていた所だ。いいだろう、やってやる」
「では契約成立だな」
死の騎士は指輪をかざすとルシファーの肉体が死ぬ前の姿に戻っていく。
そして闇の中で光り輝くと虚無の空間から消えた。
―天使の眠る古代遺跡
そこには大天使の軍勢と大天使達相手に苦戦している魔王軍の姿があった。
天使の軍勢は魔王に従うと見せかけて実はメタトロンの僕だったのだ。
「さあて魔王様、もう終わりだ。この世界は再び天使が支配するのさ」
「くっ!この羽根つきどもめ……!」
メタトロンが攻撃の号令を出す瞬間眩い光の塊が現れた。
周囲にいた天使たちは塵となり消え去った。
「お、お前は!死んだはずじゃ!」
驚愕するメタトロン。
そしてその光の中から一人の男が現れた、ルシファーである。
「これ以上勝手はさせないぞ、メタトロン!」
「おいおい、いつものニヒルなルシファーはどこへいった?」
大天使を四人味方に付けているメタトロンはルシファーを前にしても余裕の表情だった。
しかしそれはルシファーも同じだった。
「大天使を子分にして随分気が大きくなっている様だが、まだ一人大天使の化石を忘れてないか?」
「何!?」
ルシファーが黒い石板を取り出す。
それはメタトロンの石板と対になる物だった。
「君がそれを持ってるとは驚きだ。しかしそれを読めるのは神と私だけだ」
「その神から教わって来たんだよ!」
ルシファーが黒い石板の碑文を唱える。
次の瞬間丁度その化石の上にいた大天使ウリエルが苦しみだし輝き出した。
光り輝いた大天使は消え、黒い翼を持った大天使が現れた。
異世界のルシファーである。
「状況を説明している暇は無い。早速融合して貰うぞ」
「わかった」
異世界のルシファーと現代のルシファーが手を組むと一面に漆黒の闇が広がり一つの塊が産まれた。
真ルシファーの誕生である。
「何をしている、お前ら!やれ、やるんだ!」
天使軍に攻撃を命じるメタトロン。
しかしルシファーが手をかざすと天使の軍勢は一斉にして塵と化した。
残ったのは大天使ラファエルとガブリエルとミカエルである。
ラファエルはその強大な光の力をルシファーに放つが闇に飲み込まれてしまう。
ラファエルは強大な力を持っていたが、最強の大天使であったルシファー二体分の力には遠く及ばなかった。
そして地面に広がる闇に飲み込まれると、底なし沼にはまったかのように消えていった。
一方でガブリエルはと言うと逃げ出していた。
元よりルシファーに裏切りの手ほどきを受けていた身である。
支配下にありながらも残った理性と本能で抗いメタトロンに見切りを付けたのであろう。
残るはミカエルのみ、現状を理解したメタトロンは天使の翼でミカエル共々その場から姿を消した。
ルシファーは千里眼で探すが見つけられない。
どうやら身を隠す術を身につけている様である。
「貴様は味方なのか?敵なのか?ルシファー」
魔王スカーレットが尋ねる。
しかしルシファーは無言のまま指を鳴らした。
その視線の先には死んだはずのフォルスがいた。
「君に謝りたい、フォルス」
「一発殴らせろ。それで勘弁してやる」
遺跡内に一人の悪魔を殴る音が一度だけ響いた。
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