第24話「決戦」

 第二十四話「決戦」


 ―ルシファーズハンマー、昼間


 今は客もいない時間帯、静かなナイトクラブに悪魔と天使が帰って来た。

 フォルスと、そしてパワーアップして帰って来たルシファーである。

 リィン、カース、クラウス、ゴブ子、アレックス、ケルベロスにボスハーピーまで二人の帰りを心待ちにしていたのか一斉に詰め寄った。

 その中で第一声を発したのはリィンであった。


「魔王の誘いに乗るなんてどうかしてるぞ!……まあ無事でよかった」


 安堵しているのはリィンだけではない、他の部下達もだ。

 しかし感傷に浸っている暇は無い、すぐにでもドラゴン達が攻め込んでくるのだ。

 やがてこの街は戦場となるだろう。

 その雰囲気を察してかルシファーが一声上げた。


「これから僕らはドラゴン軍に決戦を挑む。嫌なら逃げて良いぞ」


 ルシファーの一声に皆が震えたが撤退を選ぶ者は一人もいなかった。

 それがルシファーへの恐怖からかそれとも信頼からだったのかは謎だ。

 とにかく大多数の人外や狂信者が味方に付くのなら頼もしい。


「誰かが天使の軍勢を皆殺しにしなければこうはならなかったんだがな」


 フォルスが嫌味を言う。

 しかし彼らはメタトロンに操られているのだ。

 ルシファーは天使達が自分の言う事を聞くとは思えなかった。


「過ぎた事はしょうがない、とにかく作戦を練ろう」


 ―数時間後


 大雑把に担当だけ決めて後は自由に戦うという路線になった。

 スーパーオークのアレックスは地上戦力担当だ。

 魔王軍から寝返ったリザードマンや陸戦タイプのドラゴンの相手をして貰う。

 悪魔のカースや狂信者や人狼達も陸の担当だ。

 ゴブ子は魔術で空中のドラゴン達を足止めして貰う。

 それを大量のハーピーで倒すという戦法だ。

 そしてドラゴン退治の要のリィンはボスハーピーに乗り竜殺しの剣を使ってドラゴン達を掃討してもらう。

 エルフの少女達は弓で空中のドラゴンをけん制して貰う。

 最後にルシファーと移動補佐のフォルスは竜の女王レンにチームで単身乗り込む作戦だ。

 まさに適材適所と言った配置だった。


「そうそうクラウス、お前の部隊は満月でなくても変身できるように改造しておくからな」


「本当か旦那!?そりゃありがてぇ!」


 皆の準備はもう少しで整う。

 元々魔王軍に攻め込む予定で準備は以前からしていたのだ。

 ドラゴン族との大戦が今始まる。


 ―魔王城


 魔王城は今ドラゴン軍からの襲撃を受けていた。

 一部の魔物、ドラゴン族の魔物が総出で離反したことと、天使との敗戦が響き、今にもやられそうな状況だ。

 それを一人で何とかしているのが魔王スカーレットの魔力である。

 彼女は目に入った屈強なドラゴン達を次々と叩き落としていった。

 しかし幾ら魔王とはいっても限界はある。

 既に魔王の息は上がっていた。


「はぁはぁ……」


「魔王様、少しお休みください!」


 ゴブリン博士が心配そうに魔王に進言する。

 しかし魔王は聞く耳もたないといった感じでそれを無視した。


「竜の女王さえ倒せば形勢は逆転する。それまで持ちこたえるのだ……」


 頭さえいなくなれば下は瓦解する、兵法の定石である。

 しかしその希望は打ち砕かれた。

 目の前には三体ものドラゴンがいた。

 もう駄目かと思ったその時である。

 ドラゴン達の胸が赤く輝くと何か潰れるような音がしてぐったりと倒れた。

 その光景の正体は竜の心臓を潰したルシファーと瞬間移動してきたフォルスであった。


「貴様等、なぜここに?」


「たまたまさ。竜退治がしたくなってね」


 ルシファーが飄々と答える。


「貴様の行動にはいつも意図がある。そうだろう?」


「察しがいいな。逃げる魔王軍と攻める僕達、丁度挟み撃ちの形にならないか?」


「そういう事か……。いいだろう、その誘い乗ってやる」


「その後魔王軍をどうするかはまだ決めてないからね。変な期待はするなよ?」


「分かっておる」


 こうして臨時ではあるがルシファーと魔王軍との同盟が結ばれた。


 ―貿易街前の荒野


 ルシファーズハンマーのある貿易街の目前には既にドラゴンやリザードマンの大群が迫っていた。

 ルシファー軍団は既に入口に待機していて号令の合図を待っていた。


「いくぞ!突撃!」


 合図を出したのはリィンだった。

 ボスハーピーに上空に運ばれたアレックスが薬を飲みスーパーオークになる。


「ガアアアアア!!!スマアアアッシュ!!!!」


 その巨体は上空から落下し、地上のリザードマン達を大きく吹き飛ばした。

 そして満身創痍のリザードマン達を悪魔崇拝の狂信者達や人狼部隊が次々と駆逐していく。


「我が魔術を見よ!」


 ゴブ子事ゴブリーナの魔術によりドラゴン達の身動きが封じられる。


「るしふぁーノテキ!タオセ!」


 ボスハーピーからハーピー軍団に命令が下される。

 その隙にハーピーの大群が取り囲み八つ裂きにしていった。

 強固なドラゴンの鱗も数の暴力には敵わなかった。


「リィン姉を援護するんだ!」


 エルフの少女達が弓矢でドラゴン達をけん制する。

 倒す事は無理でも気を逸らす事はできた。


「いくぞ!」


 そしてボスハーピーの背中にはリィンが乗っていた。

 その緑色に輝く竜殺しの短剣を手に、上空からドラゴンの背中にリィンは飛び移った。

 ドラゴンの心臓に短剣を一刺しするとドラゴンは力を失い落下する。

 リィンはすかさずボスハーピーに飛び乗り次の獲物に飛び移った。


 こうしてルシファー軍の奮戦によりドラゴン達は撤退を余儀なくされた。

 そして弱ったドラゴン達を相手にするのは魔王率いる魔王軍である。

 炎もはけない、翼もよれよれで飛べない、爪はボロボロのドラゴン達に戦う気力は残っていなかった。

 そして……


 ―聖者の塔


 ここはかつてフォルスと出会った聖者の塔である。

 高い所を好むドラゴンの住処にはうってつけの場所だろう。

 ルシファー達が頂上につくとそこには灰色のポニーテールの少女、竜の女王レンとその傍らには生贄であろう処女の修道女の死体の山が積み上げられていた。


「よく来たな、天使ルシファーよ」


「僕は今は悪魔だ」


 ルシファーが怪訝そうな顔で答える。


「そうかでは悪魔ルシファーよ、妾と組む気はないか?」


「なんだって?」


「世界の半分をお前にやろう」


 ルシファーにとってこの竜の女王の力は未知数だ。

 加えて魔王軍は弱っていてルシファー達が手をひるがえせば殲滅も可能だ。

 後はルシファーが魔王となり半分の領土を貰い統治すればいい。

 しかしルシファーには悪い予感があった。

 この世の世界の半分は海である。

 すなわち無いも同然の領地を渡されると。


「だが断る。人に使われるのは嫌いでね」


「そうか……残念じゃ。なら死ぬがよい!」


 こうして最強の悪魔と最強の竜の戦いが幕を上げた。

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