第22話「復活」

 第二十二話「復活」


 竜の女王レンの復活の報は魔王サイドにも届いていた。

 ゴブリン博士は恐れおののき壁の隅に隠れていた。


「厄介な先代が復活なされたか……」


「ゴブリーナ様も厄介な存在ですが、フルパワーではない。一方で先代様は完全復活されております」


「そんな事は分かっておる!」


 普段冷静な魔王スカーレットはその長い赤髪を揺らし声を荒げた。

 先代と言うのは竜の女王レンの事だ。

 レンはかつてドラゴンを支配しドラゴン達は人外の魔物共を監視し支配していた。

 いわゆる魔王である。

 それを玉座から蹴り落とし今の魔王となったのがスカーレットだ。

 卑劣な手段を駆使し火山の火口に放り込み特殊な封印を施したらしい。

 それが破られた今、復讐されるのは時間の問題だ。

 魔王に頼れるツテはひとつしかなかった。


 ―ルシファーズハンマー


「今日も元気だ、モヒートが美味い」


 ルシファーはモヒートを飲みながらこれまでの事を考えていた。

 陸海空の全ての戦力を手に入れ魔王軍を倒す準備もできた。

 さあいざいかんと思案していた時に一人のサングラスの女性がカウンターに座った。

 その女性は床に付くほどの長い赤い髪の美しい少女だった。


「その長い赤髪、魔王スカーレットだな」


「あら、知っているなんて光栄ね。天使の付き人さん」


「天使だと?フォルスの事を言っているのか?」


「単刀直入にいうわ。天使を渡して頂戴。これでドラゴン相手にケリが付くわ」


「ドラゴンだって?連中なら前回殺したはず……」


「ドラゴンの生き残りがあれだけだと思った?処女を生贄に奴等の女王が生き返ったのよ」


「ちなみにドラゴンの女王っていうのはどれくらい強い?」


「私より強い。歴代最強の先代の魔王だもの」


「君より強いと言われてもねぇ……僕にこれだけの戦力を奪われておいて、君の実力が疑わしいんだが」


「そう、じゃあ見せてやろう」


 スカーレットはその赤い瞳を光らせルシファーを見つめる。

 ルシファーも同じ様に目を赤く光らせ見つめる。

 その力はルシファーが上回った様でスカーレットは膝を付いた。


「どうやら僕の方が強いみたいだね」


「くっ……貴様何者?」


「さあね。天使の付き人かな?」


 今迄ルシファーをフォルスを利用しているだけの人間だと侮っていたスカーレットにとっては驚愕の事実だった。

 そして力比べはルシファーの圧勝だった。

 しかしスカーレットの力は本物で、それはルシファーも認める物だった。


「とにかくこれだけのドラゴン相手にハーピーじゃまるで役に立たないわよ。あの羽根付き共の力が必要なのよ」


「羽根付き、天使の事か?」


「そう、その天使よ。天使のフォルスがいれば化石から元に戻すことができる」


「で、君は天使の大軍勢を手に入れる訳か」


「そういう事になるな」


「僕が損する事ばかりじゃないか。誰が承諾するものか」


「だが貴様の力を持ってもドラゴンの軍隊も竜の女王も倒せないだろう」


「ふむ、一理あるな。分かった、フォルスを貸し出そう。しかし終わったら天使は元の化石に戻すんだぞ」


「むぅ、苦しい条件だが飲もう」


 スカーレットは快諾した、無論大嘘であるが。

 それはルシファーも同じだった。

 彼女は大天使の存在に気付いていない、つまり隙を見て奪い取ればいいのだ。

 烏合の衆である天使の軍隊などくれてやればいい。

 心理戦はルシファーの方が一枚上手であった。


「私抜きで話を進めないで欲しいんだが」


 そこにいたのは天使のフォルスだった。


 ―天使の眠る古代遺跡


 フォルスの天使の翼で早速古代遺跡に来たルシファー達。

 そこには既にメタトロンがいた。


「メタトロン、お前何故ここにいるんだ?」


 ルシファーが尋ねるがその問いに答えたのはスカーレットであった。


「彼は私の友人でね。今回の天使の事を教えてくれたのも彼なんだよ」


「へぇそうかい(なんだかきな臭い匂いがするな)」


「所で私はどうすればいい」


 フォルスが棒立ちで唖然として尋ねる。

 何もかも急展開でついていけない様子だ。


「その化石のど真ん中にいればいい。後は私がやる」


 メタトロンは白い石板を取り出すとその文字を読んだ。

 それは神の残した碑文であり、神か神の書記であったメタトロンにしか読めない文章であった。

 遺跡内が激しく揺れ天使の化石が眩く光り出す。


「お、おい、これはどうなって―」


 とまどうフォルスだがメタトロンは答えない。

 瞬間フォルスは光り輝くと輝いて消えた。

 それから数秒遅れて石化状態にあった天使達は元の肉体を取り戻した。


「さあ、これで天使達は蘇ったぞ。呪文を追加しておいたから魔王様のいいなりだ」


「ご苦労、それじゃあさっそくドラゴン達を討伐しに行くとするか」


「天使が必要だったのならお前でもよかったんじゃないか?メタトロン」


「なに!?お前も天使だったのか!」


「どうやら僕達二人とも書記さんにたぶらかされた様だね」


「ふふふ、今頃気付いても遅いさ。そして大天使を手に入れるのは私さ」


 メタトロンは今度は別の石板を取り出すと碑文を読み始めた。


「でもその儀式には天使の生贄が必要なんだろ?自分が生贄になるのか?」


「私がそんな間抜けに見えるか?ここに絶好の生贄が、元大天使様がいるじゃないか」


 その生贄とはルシファーの事だった。


「まさか、そんな……!」


 ルシファーの体が光り輝くと眩く輝いて消えた。

 そして石の柱から光る人影が四体現れた。

 ウリエル、ラファエル、ガブリエル、ミカエル、いずれも絶大な力を持つ大天使だった。

 それを神の言葉で操るメタトロンはこの異世界において史上最強の存在と言ってもいい。

 ドラゴンも魔王も相手にならないだろう。

 こうしてルシファーの物語は幕を閉じた。

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