第21話「竜殺しの剣」
第二十一話「竜殺しの剣」
「きゃあああああああ!!!」
少女の悲鳴が路地裏に響く。
その少女は修道女姿で夜道を歩いていた。
大きな羽のはばたく音が夜空に響く。
その風を切る音と同時に再び少女の悲鳴が響いた。
―街の診療所
街の診療所には体に大きな爪痕を残した少女がいた。
その少女の怯えた瞳には一人の男が映っていた。
その男とはルシファーである。
ルシファーは連続修道女失踪事件を追っていた。
そこに魔物の影を感じたからである。
ルシファーが瞳を赤くし事情聴取している。
この目を見た者は真実しか口に出来ないのだ。
そしてルシファーは相手が大きな羽を持っている事、大きな爪を持つ事、そして炎を吐く事を知った。
「で、君は本当に修道女なのかな?なんかこう化粧がけばけばしいが」
「余計なお世話よ!…修道女の服を着てアレしてたの。修道女じゃないわよ」
「ああ、コスプレエッチしてただけか」
「コス?なんですって?」
この世界のこの時代の人間にコスプレと言っても通じないだろう。
しかしこの魔物の正体が修道女フェチの変態だとするとこの少女だけ見逃したのはどうにも解せない。
そこには修道女ならでは共通点があるはずだ。
「……修道女、すなわち処女か」
神に仕える身であれば当然純潔を守っている筈である。
まあこの世界の神の酒飲みの女神にそんな拘りがあるとは思えないが。
「ふぅん、よし計画を思いついたぞ。その前にっと」
ルシファーはこの怪物が何か見当が付いていた。
巨大な羽に爪、そして炎を吐くと言えばドラゴンである。
ドラゴンが処女厨であるのは初耳だが、この世界のドラゴンはそうなのだろう。
ならばドラゴンを倒す武器を作らなくてはならない。
ルシファーは準備の為に自分の店に急いだ。
―ルシファーズハンマー、馬小屋
「おーよしよし、いい子だ」
「精が出るなリィン」
そこではリィンが普段見せない笑顔でユニコーンの世話をしていた。
ユニコーンはルシファーに気付くと警戒されているのか近寄りがたい雰囲気を放った。
リィンも滅多にここにこないルシファーに対し不信感を感じている。
「リィン、お前に頼みがある。ユニコーンの角を切って欲しい」
「な、なんだって!?」
「今起こってる連続修道女失踪事件を知ってるだろう?あれの犯人を倒すのに必要なのさ」
「でも、そんなの……こいつが可哀想だ」
僅かの間だが世話してきた事もあり情が移ったらしい。
ただの処女厨の獣相手によくもまあとルシファーは呆れていた。
「別に殺す訳じゃない。すぐに生えてくるさ。それよりも修道女達を救うのが急務だと思わないか?」
「お前が善意で人助けするとは思えないが、まあ仕方が無いか」
無論善意な訳が無く、魔王軍の主力戦力であるドラゴン族の力を削ぐためだ。
一部のドラゴン族は魔王軍に敵対している第三勢力でもある。
リィンは諦めたかのようにユニコーンに近付くと麻酔代わりに眠りの呪文を掛けた。
そして手に持ってる短剣で角を切り落とした。
「ごめんな、ユニ……」
深い眠りについたユニコーンに対し謝罪の言葉を掛けるリィンだった。
そして切り落としたユニコーンの角はルシファーの手に渡った。
ここからが本番である。
―街の鍛冶屋
街の鍛冶屋には万物を癒すユニコーンの角、隕石から採掘した隕鉄、ハンスの店にあった竜の血数滴の入った小瓶、そしてルシファーの血が揃えられていた。
悪魔の血は物事を反転させる力があり、ユニコーンの癒す力を破壊の力に変えるのだ。
しかも相手は処女狙いの処女厨だから同族嫌悪の特攻も乗っている。
竜の血はかなり貴重な品だったが、ルシファーの得意な交渉術()で格安で仕入れる事が出来た。
どの素材も欠けてはならない貴重な素材であった。
「こ、こんな凄い素材滅多におめにかかれませんぜ!でもこの角の量だと短剣しか作れませんよ?」
「別に構わんさ。ドラゴンを殺せればいい」
「ドラゴン……?あの化物を殺せる武器をあっしが作るんですか!?」
「失敗したら命はないからな、鍛冶屋君」
それは冗談でも何でもない本気である事はルシファーの赤い瞳が物語っていた。
そして……
―ルシファーズハンマー、夜中のリィンの私室
「よし、準備完了!」
「ん?なんだこれは!?」
リィンが驚愕するのも無理もない。
目が覚めたら修道服姿でしかも簀巻きにされてルシファーに抱きかかえられているのだ。
「念の為聞くがまだ処女だよな?」
「おい!これはどういうことだ!早く解放しろ!」
「重要な事なんだ。早く答えろ」
「しょ、処女だ……。それよりこの状況を―」
リィンが言葉を言い切る前にルシファーは窓から飛び降りた。
ちなみにここは3階である。
ルシファー達が向かったのは修道女もどきが襲われた路地裏だった。
―路地裏
ルシファーは路地裏の地面に簀巻きにしたリィンを置くと、その巻いてあったロープを解き近くの物陰に隠れた。
ちなみにリィンには麻痺薬が塗ってあり動くことは出来ない。
「さあて、ドラゴンよ、来るかな」
夜空の静寂に巨大な羽の音が響き渡る。
そしてソレはリィンを抱きかかえると夜空に消えていった。
ソレは人に羽の生えた様な魔物だった。
「成程、普段は人の姿に化けてる訳か。どうりで僕の千里眼で探せない訳だ。だが顔を覚えた今なら探せる」
まるで現代の顔認識システムの様に世界中の人間をサーチするルシファー。
そして一つの廃墟の中にリィンを連れ去ったドラゴンの男がいた。
―ドラゴンの廃墟
ルシファーがドラゴンの廃墟に忍び込む。
そこには地下牢があり、リィン含む多数の処女達がいた。
「おい、聞こえるか。助けに来たぞ」
「助かったわ!早くここから出して!」
修道女の一人がルシファーに助けを求めた、大声で。
そして運悪く見回りに来ていたドラゴンの男がいた。
「お前、何者だ!」
「こういう者さ」
ルシファーはドラゴンの男に手をかざすとその首はありえない方向に曲がりへし折られた。
しかし男は余裕の笑みを浮かべると首を直し、ルシファーに襲い掛かった。
しかし次の瞬間男の動きが止まる。
腹には出来立ての竜殺しの剣(短剣)が突き刺さっていたのだ。
刺された男は生気を失い今にも倒れそうな顔をしている。
「どこでこれを……」
「欲しい物リストに入れておいたらファンが送ってくれてね」
現代人にしか分からないジョークをかますとルシファーは短剣を引き抜いた。
ドラゴンの男はその巨体を床に倒した。
「来るのが遅いぞ!」
これまでの事もありカンカンなリィンだった。
麻痺毒も抜けリィンが自由に動けるようになったその時である。
二人目のドラゴンの男が現れた。
その男は一人目の仲間の死体を見ると逆上し、ついに真の姿を現した。
長い尾に強固な鱗、巨大な翼にトカゲの様な顔、そして鋭い爪と牙、伝承通りの恐ろしい姿だった。
ルシファーはそんな姿に恐れもせず尋ねた。
「さて、ドラゴン君。君に聞きたい事がある。何故処女ばかり集めるんだ?」
「キサマニハナスコトハナイ」
「そうかい」
ルシファーが竜殺しの短剣を握りしめたその時である。
横からリィンがそれをかすめ取った。
「何をするんだ!」
「傍観者はもう飽きた。このイライラを発散させて貰う」
リィンはドラゴンに突撃する。
ドラゴンはすかさず炎を吐くがリィンはそれを横に避ける。
次に竜の心臓と言われる複数の赤い核を短剣で次々に潰していく。
その度にドラゴンは大きく悲鳴を上げた。
最後に胸の大核、つまり真の心臓が輝いたその時である、リィンは短剣を突き刺し止めを刺した。
そのあっという間の出来事にルシファーも修道女達も感嘆していた。
「短剣の扱いなら私の方が上だからな」
普段自分が一番だと思っているルシファーの上をいくのはこんなに気持ちが良い物なのかと悦びを知ったリィンであった。
―とある火山口
「竜姫様、生贄の処女達です」
いやああああああああああ!!!
少女達の悲鳴が火山に響く。
そしてなんの抵抗もできぬまま火山口に落ちていった。
ルシファー達が助けた処女達とは別に襲われた処女がいたのだ。
そしてドラゴンの男が何か呪文を唱えると火山が大きく揺れた。
「これで現れるぞ、我々の女王が」
「ああ、これからは竜の時代だ。魔王や人間など餌に過ぎない」
多数の処女を生贄に火山の溶岩の中から灰色のポニーテールの少女が現れる。
彼女の名はレン、誇り高き古の竜の女王だ。
「首を洗って待っておれ魔王。数千年も封印してくれた妾の恨み、今こそ晴らそうぞ」
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