非力な夢

天川裕司

非力な夢

タイトル:(仮)非力な夢



▼登場人物

●孤理匹 直人(こりひき なおと):男性。34歳。ゲーム好き。ゲームのキャラに恋をする。

●カレン:女性。20代の設定。ゲームの中に登場する美人キャラ。

●ユリ:20代。リルが紹介する浮気性の女。一般的なギャルのイメージでもOKです。

●中戸亜(なかとあ)リル:女性。30代。直人の理想と欲望から生まれた生霊。


▼場所設定

●直人の自宅:都内にある一般的なアパートのイメージでOKです。本編では「自宅」とも記載。

●Door to Survival:お洒落なカクテルバー。リルの行きつけ。


▼アイテム

●液体薬:リルが直人に勧める特別な液体薬。カレンとの夢のような生活を酔わせて見せる効果を秘める。

●Resident of Survival:リルが直人に勧める特製のカクテル。これを飲むとゲームの世界に生身の体を持ったまま入ってしまう。


NAは孤理匹 直人でよろしくお願い致します。



イントロ〜


あなたは、ゲームの中の美女に憧れた事はありますか?

まぁゲームじゃなくても漫画やドラマや映画、

特にこれまで自分が心を奪われたキャラクターについて考えてみて下さい。

きっとそういう事は誰にでもあったんじゃないでしょうか。

今回はその中でもゲームの美女に憧れてしまった

ある男性にまつわる不思議なお話。



メインシナリオ〜


ト書き〈自宅〉


直人「ヨッシャぁ〜!美女獲得!いやぁ〜ここまで来るのに長かったよホント♪カレンちゃん、やっと君は僕のものになったんだよ。これからはず〜っと一緒に居ようね!」


俺の名前は孤理匹 直人(こりひき なおと)。

今年34歳になる独身サラリーマン。


まぁサラリーマンと言っても俺の仕事は在宅ワークだから

家から出ることはなく、ずっとこのひと部屋での生活を繰り返している。


まぁこんな感じでずっと自分の世界に浸っていれば

妄想も膨らむのか夢が膨らんで、

自分なりの牙城というものが出来てくるもの。


その牙城の中で俺は1人の女に恋をしてしまった。

それはこのゲームに登場するカレンちゃん。


これまでレベルを上げるだけ上げて、やっと手に入れたこの美女。

俺が今やってるこのゲームはサバイバルゲームで

次々現れるゾンビや野の獣をなぎ倒し撃ち倒し、

その褒美にいろんな報酬が得られる。


その報酬の内の1つにこの美女・カレンが居たのだ。


元々は普通にこのサバイバルゲームを楽しんでいた俺だが、

いつしか要所で登場するようになった

このカレンに俺は一目惚れしてしまい、

その時から彼女を獲得する為だけにゲームをするようになっていた。


(ゲームの中で)


カレン「直人、これからよろしくね♪いろんな敵から私をずっと守ってね」


(部屋の中で)


直人「ぐふふ、ああ決まってるじゃないか♪カレンちゃ〜ん、ほんと、見れば見るほど可愛いなぁ君は♪」


ト書き〈ちょっとした落胆からカクテルバーへ〉


でもそんな日々を送っている内、俺は段々虚しさを覚えた。


カレン「ゴー!ゴー!ゴー!さあ次のミッションへ行きましょう♪」


直人「ああ、わかってるよ…!」


ずっと憧れてた美女と言っても、それは所詮ゲームのキャラ。

今更ながらその現実が俺の心に大きくのしかかり、

俺はそれまでのように楽しめなくなってしまった。


でもこの現実で、俺の周りに女は居ない。

器量も良くないし奥手な性格で、稼ぎだってホントに少ないし

女はおろか友達との接点すら無い俺だ。


直人「はぁ。…こんなゲームなんかに夢中になっててもしょうがないんだなぁホントは…」


わかっててもこの現実から逃れられない。


それでもこのゲーム内でキャラメイクされたそのカレンの容姿は、

はっきり言って俺のもろタイプ。

「こんなのがほんとに現実に居たらなぁ…」

なんて事も何度か思ってきたのだ。


直人「しょうがない、ちょっと飲みにでも行くか」


その日はいつになく落胆してしまい、

寂しさから俺は部屋を出て、

唯一行きつけにしていた飲み屋街へ来ていた。


俺の発散材料は酒。

そうして歩いていた時…


直人「ん、あれ?新装かな?」


全く知らないバーがある。

名前は『Door to Survival』。


変わった名前だなぁなんて思いつつ興味を惹かれ、

俺は思わず入り、そこのカウンターで1人飲んでいた。


するとそこへ…


リル「ウフフ、こんにちは♪お1人ですか?もしよければご一緒しません?」


と1人の女性が声をかけてきた。


見るとまぁまぁな美人で、

俺はそんな時でもあり少し落ち込んでいたので

話し相手が欲しいと思い、隣の席をあけて彼女を迎えた。


彼女の名前は中戸亜(なかとあ)リルさんと言い、

都内でメンタルコーチをしながら副業で

ゲームを取り扱う仕事もしていたと言う。


直人「へぇ、ゲーム関連の仕事もされてるんですか?」


リル「フフ、ええ、まぁ」


暫く話していて気づいたが、彼女には少し不思議な魅力があった。

どこか身内のような感覚があり、

「昔にいちど会った事のある人?」

のような印象を携えながら、そのせいか心が和み、

恋愛感情は一切わかない代わりに…


「自分の事をもっとよく知って貰いたい」

「今の自分の悩みを解決してほしい」


不思議だったがそんな気持ちにさせられるのだ。

そして気づくと俺はその通りに行動していた。


リル「ゲームの中のキャラクター?」


直人「え、ええwまぁお恥ずかしい話ですが、僕、今までまともに女性と付き合った事が1度もないんです。全部短期間で終わってしまって、気がつくと世の中の女性はみんな自分に合わない…そんなふうに思い込んじゃって、何となく恋愛から遠ざかって…今ではそんな恋愛とか、世の中の女性に対する思いとか、なんか全部絶望しちゃってるんですよね」


この歳で、これまでまともに付き合ったのはたったの2回。

それも1週間ぐらいで両方とも終わっており、

2人とも浮気という置き土産を残して俺の元から去ってしまった。


俺はどうも、現実の女には飽きられ易い存在らしい。


でも付き合った事があるってだけまだマシなほうで、

それで満足してとりあえず良しとして、

今後はもう独身生活を貫いて生涯を終えても構わない…

そこまでを覚悟していた。


そんな事を彼女に打ち明けていると、

彼女は思ってもみない事を言ってきたのだ。


リル「なるほど。世の中の女性に絶望して恋愛も結婚も諦め、あなたはその生涯を自分の牙城のみで過ごしていくと、そこまでを決意されているという事ですか。でも直人さん、そんな方は男性だけじゃなく、女性にも結構多いんですよ?」


直人「え?」


リル「女性の場合は腕力…つまり男性から受ける暴力によってそうなる事が多いようですね。あなたと同じように生涯を独身で終える事を決め、あわよくば子供は持ってみたいけど、それが叶わなければ仕方がないと諦める。…そんな状況に、男性だけじゃなく女性も立たされているようです」


直人「はぁ…」(何となく聞いてる)


リル「でも良いでしょう。あなたのそのお悩みを、少し軽くして差し上げます」


直人「え…?」


そう言って彼女は持っていたバッグから

1本の液体薬を取り出し、それを俺に勧めて飲ませ、

そのあと…


リル「…そのゲームの中に登場するカレンさん…でしたか?その方と会わせて差し上げましょうか?」


等と信じられない、馬鹿げた事を言ってきたのだ。


直人「会わせるって…ハハwリルさん、あのですね、僕が言ってるカレンというのはゲームの中に登場するキャラの事ですよ?現実には存在しませんw」


そんな事を言って少し馬鹿にするように笑ったのだが彼女は…


リル「いえ、その人は現実に存在しますよ?あなたが知らないだけです。明日この場所にもう1度来て下さい。その時に全てが分かるでしょう」


そう言って逆に俺を笑ってきたのだ。


直人「はぁ…?」


ト書き〈翌日の夜〉


そして翌日の夜。

俺は言われた通り、又このバーへ来ていた。


直人「えぇ!?き、君は…」


カレン「直人♪これからもどうぞよろしくね」


直人「な、なんでこんな所に…君はゲームの中の…」


リル「これでお分かり頂けたでしょうか?彼女は本当にこの現実に存在し、普通に生活されています。どうぞこれから2人で手に手を取って、仲睦まじい生活を送ってみてはいかがでしょう?」


俺はもう嬉しさの余り感激していた。

これが現実でも非現実でもどちらでも良い。

ただずっと夢に描いていた彼女に会えたと言う事が嬉しかったのだ。


直人「(そうか…きっと彼女は、あのゲームのカレンのモデルになった人だったんだな…?そう思えば辻褄も合うよ…)」


俺は心の中で勝手にそう思い込み、

相思相愛だった彼女とそれから暫く一緒に過ごす事になった。


(デート)


カレン「ウフフ♪あなたと出会えてほんとに幸せ」


直人「ハハw僕もさ♪まさか君が本当に現実の世界に出てきてくれて、こうしてデートまで出来るなんて…ほんとに夢のようだよ」


文字通り、俺は夢のような生活を味わっていた。


でもそれから3ヶ月して…


(直人の自宅)


直人「ど、どうして!?」


カレン「私があなたと会える期間は3ヶ月だけだったの。リルさん、そのこと言わなかったんだ」


直人「そんなこと聞いてないよ!あっ…!」


カレンはどうやら3ヶ月だけの約束で俺の元に来ていたようで、

それからスッとまたゲームの世界へ帰ってしまった。


(カクテルバー)


俺はそれからすぐに部屋を飛び出し、又あのカクテルバーへ走り込んだ。

するとこの店はリルさんの行きつけだったのか、

また彼女が1人で飲んでいた。


直人「リルさん!」


リル「あら、直人さん」


直人「彼女またゲームの世界に戻っちゃいましたよ!ひ、ひどいじゃないですか…!なんでその事ずっと黙ってたんですか!?」


リル「ああ、あなたが余りに喜んでおられたので、つい言いそびれちゃいました」


直人「言いそびれたではすみませんよ!」


リル「まぁまぁ。…でも直人さん。ゲームの世界と現実とを混同してはいけません。あなたは現実にしっかり足をつけ、現実の女性と出会い、その女性と幸せを掴み取る努力をするべきなんです。でないと、あなたは本当にゲームの世界でしか生きられない人になってしまいますよ」


直人「こ、ここへきて説教ですか!?あんな人を僕に紹介しておいて、今更それはないですよ…!グス…ほんとに僕は彼女の事を、愛してたんです。現実の女を全て捨ててでも彼女と一緒に居られるならそれで良いと、そこまで思ってました…」


でも俺はリルさんに改めて嗜められ、

もう1度現実の生活で幸せを掴み取る努力をしてみた。


ト書き〈トラブルから又カクテルバーへ〉


でも駄目だった。

リルさんにとりあえず紹介して貰った

1人の女性と付き合ってみたのだが…


ユリ「ごめんね〜♪アタシやっぱりこっちの彼のほうが良いから、彼と付き合う事にするわ♪アンタってなんか冴えないし、一緒に居てもつまんなかったからね♪これまで沢山貢いでくれてホントにありがとう〜」


やっぱり浮気してどこかへ立ち去った。

本当に早かった。


精一杯、自分なりに付き合ったつもりだった。

彼女の為に沢山時間もお金も使った。

でも駄目だった。

カレンの時とは本当に何もかもが違う。


(カクテルバー)


リル「そうでしたか。…私も彼女の事をもう少しよく調べて、あなたにご紹介するべきでした。まさかあんなに尻軽で、浮気症だったとはね…」


直人「リルさん…今度の事でもうはっきり解りました。やっぱり僕には無理です。この現実の女は…。…カレン…また会いたい…。リルさん、僕またあの彼女…カレンに会いたいですよ…」


リル「…今回の事は私にも責任があります。分かりました。あなたのその夢を叶えて差し上げましょう」


直人「…え?じ、じゃあ…」


リル「ただ、カレンさんじゃなきゃダメですか?他のゲームのキャラクターでは?」


直人「え?…な、なに言ってるんですか…?僕はカレンが好きなんですよ。だからこんな気持ちに…」


リル「でもあのゲームは…」


直人「え?ゲームの世界なんて関係ないでしょう?現にあなたはこの現実で、僕をカレンに会わせてくれたじゃないですか!?…それにたとえゲームの世界にしたって、僕はカレンに会いに行けますよ。あのゲームの世界で、僕のキャラクターレベルは高いんです。敵をたった2人倒しただけで、カレンを手に入れる事が出来るんですから」


はたから聞けば、もう狂ったような会話に見えただろう。

でも俺は真剣だった。


直人「ね、ねえリルさん、お願いです!僕をもう1度カレンに会わせて下さい!お願いします!!あなたなら、それが出来ますよね…?あなたは不思議な人だ。初めて会った時からそう思ってました。そういう力があなたには備わってるんでしょう…?」


リル「…分かりました。ではその通りにしましょう」


彼女は目線を1つもそらさずそう言ってきた。


リル「でも良いですね?あなたは今からあのゲームの世界で彼女に会おうとしています。それはこの現実とは切り離されて、彼女と2人だけの世界に入り込むと言う事。その後どうなっても私は責任を負いませんよ?それでも良いのでしたら、そこまでの覚悟がおありなら、あなたのその夢を叶えて差し上げます」


「カレンにまた会う事ができる」

その心1択で「会わせて欲しい」と俺は改めて訴えていた。


リル「それではこちらをどうぞ、お飲み下さい」


リルはそれから指をパチンと鳴らし、

そこのマスターにカクテルを一杯オーダーして

それを俺に勧めてこう言ったきた。


リル「それは『Resident of Survival』と言う特製のカクテルで、それを飲めばあなたはカレンさんにもう1度会う事が出来るでしょう。あなたがさっき言われたように、カレンさんを勝ち取る事が出来ればですが」


俺はそのカクテルを一気に飲み干した。

そこで俺の意識は一旦飛んだようだ。


ト書き〈ゲームの世界〉


次に気づくと俺は、暗闇の部屋の中に居た。

でもそれはどこかで見たような光景。


直人「も、もしかしてここは…」


思い出した。

サバイバルゲームの最初の場面。

非力なキャラクターがこれから冒険を始める為に、

ここから出て行って、様々なミッションをクリアしながら

成長して行く為のその原点の場所。


直人「こ、ここからなのかよ…」


そしてその部屋のドアを開けた瞬間…


ゾンビ「があぁあぁぁあ!!」


直人「う!うわあぁあぁあぁ!!」


ゾンビが1匹部屋に入ってきて、

俺は瞬く間の内にやられてしまった。


ト書き〈直人の自宅〉


リル「私は直人の理想と欲望から生まれた生霊。彼の夢を叶える為だけに現れた。私があげたあの液体薬は、カレンとの夢のような生活を、酔わせて見せる効果を秘めていた。そして次に勧めたあの『Resident of Survival』は、ゲームの世界に生身の体を持ったまま、人を吸い込む力を備えていたの」


(つけっぱなしになってるゲームを見ながら)


リル「これが直人の言ってたサバイバルゲームなのね。ゾンビが沢山出てくるなんて、悪趣味なゲーム。キャラクターならどうにでも成長して飛躍できるけど、生身の人間はそうもいかないようね。ゲームと現実を混同するなと言ったのは、そう言う事も含めてだったのよ」


リル「生身の人間の体を持つ直人がこのゲームの中で、カレンに会えるのはいつの事かしらね…。あ、またやられちゃってる…」


動画はこちら(^^♪

https://www.youtube.com/watch?v=3Z0hyzWwIhY

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非力な夢 天川裕司 @tenkawayuji

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