Finale
Finale ベイビーアイラブユーだぜ
《前書き》
最終話です。最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました!
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とある日の朝。都内某所のタワーマンションの一室。
自動カーテン開閉装置を取り付けているため、起きる時間の一時間前には日が入ってきて、目覚まし時計無しで自然に起きることが出来る。
非常に日当たりの良い部屋でとても心地良い。寝室にはベッドがダブルベッドがひとつ。先に目を覚ました洸は、隣で小さく「すぅー」と吐息を弾ませ幸せそうに眠っている瑠璃葉の方を見て微笑むと、起こさないようにそっと優しく彼女の頬を撫でた。
「ふわぁ~。おはよぉ洸く~ん」
「お、おはよう。瑠璃葉ちゃん……起こしちゃった?」
「うんうん。自分で起きただけだから。それよりも……」
肩にかかるくらいのショートヘアーの明るい茶髪。色白の綺麗な肌。琥珀色の瞳に、綺麗な鼻筋。ぷるっとした桃色の唇。身長は女性の平均150㎝ちょい。
整った顔立ちであることはもちろん、スタイルも抜群な美少女であることは、薄手の七分袖の水玉模様のパジャマを着たノーメイク状態でもしっかりとわかる。
そんな絵に描いたような可愛い美少女との二人で暮らし。先日、改めて正式なプロポーズをして無事にオーケーを頂くことが出来た。
正式なカップルになってからは、一緒の部屋で同じベッドに寝ることになったのだが……。
(い、未だに慣れない……。てか、ずっとドキドキ過ぎてちゃんと寝れてない気がするし)
おまけに――、
「早くおはようのチューしよ♡」
「ふぇっ……」
瑠璃葉の水玉模様のパジャマは、寝相が悪くてクチャクチャになってしまっている。他にもズボンからシャツが飛び出ており、お腹部分の色白の肌が見えてしまっていたりと、寝起きの彼女は男子と同棲する女子として色々と危ういのだが、それ以上に――、
――ぎゅっ♡
(!?)
未だ寝ぼけたままの瑠璃葉が、突然、洸に抱き着いてきたこの状況の方がもっと危険だと言って良いだろう。
しかも、自分の平らな胸元に、彼女のふっくらとした胸が押し付けられている。
(こんなの理性保てるわけないだろぉぉぉぉ!!!!)
と心の中で洸は叫びつつも、なんとか平然を装う。
瑠璃葉のパジャマの隙間からは谷間がしっかり見えてしまっている。もちろんブラは付けてい……
(って、見ちゃだめだ俺っ!)
洸は俯いていた顔を上げて、瑠璃葉と目を合わせる。彼女の目は半開きの状態であっても可愛い。
そんな彼女のお眠顔を眺めていると――、
「チュッ♡」
「……」
不意打ちされて頬にキスされてしまった。
(……これマウストゥマウスだったら、昇天してたところだよ)
●○●
お昼過ぎ、Discord越しから聞き慣れた声が二つ。
『ヤッホー』『こんにちは』
イラストレーターのぴかっそ改め、
「それにしても、無事に復帰出来て良かったね」
この前の配信によって二人の同棲事実は多くのリスナーたちに受け入れられた。また全ての真実をきちんとした証拠を見せ、本人たちの口から語ったことも大きく評価されている。
配信内容もなかなかだったため、アーカイブの再生回数は既に二百万回を超え、未だにYouTubeの急上昇ランクのタグがついていた。
まさか、色々とリスナーに弁明するための配信で、お互いに告白までし合うとは誰も、この年上組を除いて思いもしなかったわけだし……。
(そりゃ、前代未聞の伝説配信とか言われて話題にもなるよな)
『いやぁ~でも、本当に付き合ったら付き合ったで、また色々といじりたくなっちゃうなぁ~』
「もう勘弁してくださいよ」
「まったく、全世界に告白の瞬間垂れ流したVtuber、後にも先にも絶対私たちだけだよ」
『でもその後、ちゃんと水嶋君の方から正式にプロポーズし直したんですよね。とても偉いと思いますよ!!』
「話逸らさないでください」
『うんうん。らくっちは意気地なしでちょびっとめんどくさい奴なんだけど、ここぞという時は
「貶すか褒めるかどっちかにしろぉ!」
色々と自由でハチャメチャな二人といつも通り、そんなやり取りをしていると「ふふっ」と急に瑠璃葉が何かツボに刺さったかのように笑い出した。
「何か面白かった?」
「ごめん。これぞ布武坂楽市のツッコミって感じがしてww」
瑠璃葉は笑い過ぎて涙目になったのをこすりながらそう言った。
「……こうしてまた本当にあなたのツッコミが布武坂楽市のツッコミとして配信で観れるなんて、あの時は確信はしてなかったから」
「瑠璃葉ちゃん……」
天使のように優しく微笑みかけてくれる瑠璃葉を見つめながら、洸も再会した四か月前の頃から現在までをスライドショーのように頭の中で思い返し――。
『そろそろウチらは
「「あっ」」
ふと我に返った時にはもう遅かった。
『バイバイ、二人だけの世界になるのも程々に~』『SMプレイも程々に~』
梨々香と優芽はDiscordから退出していった。
「わ、私、まだ洸くんとのプレイでいきなりSMはぁ~」
「いや、あの人の妄言は真に受けなくていいから!!」
優芽の余計な一言を真に受けてしまった瑠璃葉が一人悶えているのをよそに、洸は自室に戻って
●○●
時刻は午後三時。洸と瑠璃葉は秋葉原へ来ていた。向かった先は関係者以外立ち入り禁止のマークが着いているカフェと思われるお店。二人はその中は入っていった。
店内は説明してくれたスタッフさんと数名の準備している店員さん以外は誰もいない。まさに貸切状態だ。
そう。ここは――、
「布武坂楽市復活記念
「まさか、こんなに早く下見させてもらえるとはね」
「それにしても、梨々香たそとふわなたんは本当に来なくて良かったのかな」
「多分、絶対に俺らに気を遣ってくれてるんだと思う。ちょっと余計なお世話ではあるけど。まぁどうせ来月から一般客も入れるようになるし」
「それもそっか。けどその気遣いのおかげで、今日はこうしてあなたと二人きりでお外でデート出来てるわけだし……」
「そうだね……」
今日はリムジンではなく電車で来た。当然、運転手さんやボディーガードの付き添いもないため、完全に二人きりのデートだ。
「……」
(き、気まずい……)
正式に付き合い出してからは初めてのデート[お家デートは除く]。お互い、いつも以上に異性として想い人として意識しているところはあると思う。
(なんか、緊張で言葉が出てこなくなってる……)
「そ、それにしても、今日の私も相変わらず可愛いでしょ?」
そんな中、瑠璃葉が咄嗟に口を開いて沈黙を破ってくれた。
「う、うん。めっちゃ可愛いよ」
実際に瑠璃葉のコーディネートは今日も完璧だ。とても可愛い。朝、寝ぐせだらけだったショートヘアーの茶髪は、ねじってアメピンで留めるだけの簡単なハーフアップにされている。メイクや桃色の落ち着いたリップも彼女に合っており、百点満点。
そして服装も、ブラックの布武坂楽市の文字が書かれただけのラフな半袖Tシャツを着ているが、甘い感じのチュールティアードスカートに、ベージュピンクのパンプス、指先のネイルもそれと同じ色に合わせているため、カジュアルになり過ぎず、ほどよくフェミニンにまとまっていると言った感じで、まさに――、
「見た目だけは超超清楚系美少女」
「ん?洸くん、今なんて言った?」
「いやぁ~今日も瑠璃葉ちゃんは清楚な性格が見た目にまで溢れ出てて素晴らしいなぁ~ハハハハハ」
「あっ、そうだ!今度のリアイベの告知もしとかなくちゃね」
「シカトしないで~」
今のやり取りで、お互いに少し緊張がほぐれたのか、いつも通りのテンション感になんとか戻ることが出来た。
(そう言えば、俺もまだリアイベの告知はしてなかったな)
リアイベとはそのままリアルイベントの略称のこと。そして、そのリアイベというのが――、
「布武坂楽市・姫川こと・白雪ふわな合同ファーストライブ『stand up hero
「一応、会場の確保とかあるから、一年以上先にはなるけどね」
「そうだけど、すっごい楽しみだよ」
そう。布武坂楽市復活記念として洸たちが画策したものはこれだけではない。その第二弾として用意したのが、リアルイベントである。
「ちゃんと全国五都市回れるらしいし、旅行も出来ちゃうね」
「うん。でも、個人勢に戻った俺の分と藤宮さんの分まで瑠璃葉ちゃんのお父さんが費用出してくれるなんて思ってもみなかったよ」
「そんなの気にしなくていいよ。逆にお父さんはそれくらいしなきゃ、冤罪で洸くんを解雇してしまった自分を許せないだろうからね」
「……」
「それに、あの人も私と同じでお母さんのことを簡単に忘れられない人だから……」
「それって――」
瑠璃葉は少しはかなげそうな顔を俯かせながら声のトーンを落とし始めた。そして――、
「お待たせしました。こちらが特別コラボメニューです」
シリアスになりかけた二人の間をメニューを持ってきた店員さんの声が通過した。
「わっ、ありがとうございます!」
「ありがとうございます……」
テーブルに置かれたのは、現在試作中のメロンソーダ。しゅわしゅわと音を立てたままのそれを置いて店員さんが去っていくと、洸と瑠璃葉は顔を見合わせて笑い出した。
「ふふっ」「ははっ」
「やっぱり、私たちはこうして元気なテンションでいる方がお互いに気楽に話せていいよね」
「うん、それもそうだね。……でも、やっぱり、お母さんのことは……」
「大丈夫、大丈夫。あの人も何処かで元気に暮らしてると思うから」
「本当に……」
「うん。お母さんって、私より元気でオタクで、私が小さい頃は夢に向かってひたむきだったお父さんのことを必死で応援してた人なの」
瑠璃葉の話によると、その後社長に世襲制で就任した清隆はその地位のプレッシャーで、どんどん保守的な性格になっていき、彼女の母親とのそりも合わなくなっていったそうだ。そしてその後は前に彼女が話してくれた通り、離婚し、その後すぐに行方不明になってしまったとのこと……。
でも――、
「お父さんも社長の座を降りてからは、また昔みたいな性格に戻ってきてるって、秘書の人が話してくれた」
「……」
瑠璃葉はとても力強い眼差しで、しっかりと前を見つめているようだった。
「まだ、あの時のトラウマも消えたわけじゃないけど大丈夫。だって、あの冤罪事件のトラウマと向き合って、また復活を遂げた奇跡のヒーローの姿を、私が隣で一番見てたから!!」
「瑠璃葉ちゃん……」
「私に勇気をくれてありがとね、洸くん」
噓偽りのない満面の笑みでそんな言葉をくれた瑠璃葉。
(まったく、勇気をもらってるのはこっちの方だよ)
そんな瑠璃葉の表情を見て洸も微笑んだ。そして、またしばらくお互いを見つめ合った後、彼女は何かを見つけたかのようにこちらを指差してきた。
「あっ、洸くん。顔にゴミついてるよ?」
洸は手で顔をペタペタと触るが、それらしきものは取れない。
「えっ、何処?」
「取ってあげるから、目つぶって」
洸は瑠璃葉の指示に従い、目を閉じた。ガタッと椅子の動く音がする。
――ぴとっ
瑠璃葉の少し冷たい指先が左頬に当たっている。
(それにしてもゴミを取るだけにしては長いな)
「まだ、取れな――」
そう言いかけた瞬間――、
「んっ」
「……」
洸の唇に柔らかなものが重なっていた。
洸はゆっくりと目を開けてみる。彼の瞳に移っているのは、目を閉じている拡大された美少女の顔だけ。
(キスしてる……瑠璃葉ちゃんと……)
瑠璃葉の柔らかな桃色のぷるっとした唇。マウストゥマウスでのキスはこれが初めて。
「ぷはっ」
「……」
初めてのキスの味は微かに甘いメロンソーダがした。
「……とっても美味しいね」
「……そうだね」
こうして二人は、仲間やリスナーと創り上げた新世界で幸せな時間を過ごしていくのだった。
〈完〉
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《後書き》
タイトル『Final ベイビーアイラブユーだぜ」
引用元:新世界/BUMP OF CHICKEN(2018年発表、2019年aurora arcよりリリース)
よろしければ、この作品の余韻が残っているうちにエンディングソング代わりにBUMP OF CHICKENさんの『新世界』を是非聴いてみてください!
改めて最終話まで洸たちに、そして物語に寄り添っていただきありがとうございました。
僕の
これからも拙作、並びにハッピーサンタを宜しくお願い致します。
それでは新作でまたお会いしましょう!!
【本編完結済み】冤罪をかけられ大炎上し、個人情報まで特定された絶望寸前の人気Vtuber。自分のガチオタだったVtuber志望の金持ち美少女に匿われる!!【現在、同棲中】 ハッピーサンタ @1557Takatora
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