第12話 答えは、自分の中にあるんだよ
涙が止まるまでずいぶんと時間を要した。今までみたいな悔しさに歯噛みしながら、こらえきれずぽつぽつと落とす涙とは違い、子供みたいにしゃくり上げて、涙だけじゃなく鼻水も滝のように流れた。こんな風に脇目も振らず泣いたのはいつぶりだろうか。傍から見ればいい歳した大人が泣きじゃくるなんて、ひどくみっともなかったかもしれない。それでもナツは僕が泣き止むのを黙って待ってくれていた。
「落ち着いたかな?」
「ああ……。ごめんね。急に取り乱して」
「気にしなくていいよ。ボク相手に取り繕う必要なんてないんだから」
取り繕う。その言葉が頭の中に強く残る。今までを思い返し、思わず口から「そうか……」と言葉が漏れた。ひとりごちる僕に、ナツは首をかしげる。
「どうかしたかい?」
「ああ、いや……。改めて、僕ってずっと皮を被っていたんだろうなって思ってさ……」
「それは、君がさっき言っていた、成長できていなかったっていう話のことかい?」
「それだけじゃなくて、ずっと誰かの望む自分でいたというか……。誰かの期待に応えなきゃって、そればっかりになってた気がする」
怒られてばかりだったから怒られないようにと気を遣い、呆れられてばかりだったから認められたいと強く思っていた。失敗を恐れるあまりに他人の顔色を窺い、正解だけを追い求める日々。自分の中に答えがなかったから、誰かの望む正解にすがり、自分の価値を得ようとしていたのだ。
ただ、それも上手くはいかなかったけれど……。
どうすれば良かったのだろう。ボーッと考え込んでいるとナツが口を開いた。
「じゃあ今度は自分らしく生きるのがいいよ」
「自分らしく生きる……」
僕は舌の上で転がすようにその言葉を復唱した。
口にするのは簡単だが、実行に移すのはとても難しいように思う。そもそも自分らしさってなんだろう。雲をつかむような話でなかなか飲み込むことができない。
僕のそんな様子を察したのか、ナツが再び口を開いた。
「自分を活かす生き方とでも言うのかな。まぁなんにせよ、まずは自分を識るところからだね。いいかい?」
ナツはそこで一度区切ると、僕の目をジッと見つめた。そして、静かだがはっきりとした口調で言った。
「答えは、自分の中にあるんだよ」
ナツの言葉が今度は不思議なくらいにすうぅっと自分の中に入り込んできた。どこか懐かしい気分になり、すんなりと受け入れられた理由が分かった。
そうだ。ナツが前からずっと言っていたじゃないか。自分を認める。自分に『ある』ものに目を向ける。自分を識るって、そういうことだ。
どうすればいいか。……いや、どうしたいのか。
答えはいつだって自分の中にある。
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