04
明日、追加公演の当落がわかるので気が気ではない。発表は十三時。学校は休んでミチと会うことにしている。絶対当たっているというきもちと外れていたらどうしようというきもちが交互に襲ってくる。ミチからDMが届きまくる。ふたりとも不安定になっていた。今日は眠れそうもない。病院で出してもらっている薬を飲んだけれど、眠くならなかった。
午前一時を過ぎるとミチからのDMが途絶えた。私は三時くらいまでは記憶があるけれどそれから眠っていたらしい。六時に起きてお母さんと話し、学校に連絡を入れてもらってから二度寝した。
トーストにヴィーガンのスプレッドを塗り、野菜ジュースと一緒に食べて家を出る。私の家の方がミチの家より山側だ。坂道を下っていって、ひとつ交差点を曲がり緩い坂道を進んでミチの家のインターホンを押した。
スマホを持って出てきたミチと海まで歩く。私たちはほとんど話さなかった。
「あのカフェで見たかったな」
「仕方ないし」
砂浜のベンチ代わりの丸太に腰を下ろして十三時になるのを待つ。
「せーの」
————。
「やったあ!!」
「千五百人くらいしか入れないんでしょ」
「すごくない??」
ふたりのスマホに「当選」の文字。三日以内にチケット代を払うことと書いてある。私たちは立ち上がって来た道を上り、途中のコンビニでチケット代を支払った。入場できる順番がわかるのは二か月後、追加公演の一週間前。また新たなどきどきが襲ってくる。
今月を乗り越えたら来月からは夏休み。六月の小遣いでファンクラブのサブスク代を払い、鎌倉のかわいい雑貨屋でレターセットを買う。残りは取っておいて七月、八月の小遣いと合わせてツアーグッズのTシャツとリストバンドを買う予定だ。ほかにも欲しいグッズはたくさんあるけれど、今後もライブに行きたいし、そんなに使うわけにはいかない。
ライブ会場にはプレゼントボックスが置いてあるらしい。少し透ける紙のレターセットで
四人でまたあのカフェに行った日に、結局 NOL の分のステッカーも買った。使ってくれるかな。もしもタブレットとかに貼ってくれたら幸せで気絶する。私のステッカーはスマホケースに挟んであった。NOL はこだわってガラケーを使っている。SNS はいつも持ち歩いているタブレットを使っているらしい。
本当に NOL があのカフェに来てくれたり、あそこでばったり会ったりしたらどうしよう。ありそうもないことを考えながら授業を過ごす。夏休み前は休んだ分の補習も受けないといけないから、一応多めに授業に出るようにしていた。体育のプールなんかは絶対無理で、夏休み中に出てきて校庭を走る方がまだまし。
この町は郊外で山が多く、家から海も近いわりには都内からそれほど離れていなくて、羽田まで車で一時間もかからないらしい。それでもガソリン代や高速代がかかるから、当日の食事代もうちが出したいとお母さんは思っていて、ミチのお母さんは割り勘にしようと言って私たちを待つ間のカフェ代しか払わせてくれないらしかった。羽田のライブハウスのすぐ目の前に足湯があるらしい。
「タオル持って行くけど、ミチくんたちも足湯するかな」
「私はしたいよ。ミチのお母さんにDMしてみて」
食品の買い出しの前にバスでカフェに向かう。それぞれアイスコーヒーとアイスラテを持ち帰って海の方へ歩いていた。梅雨の晴れ間。気温は二十五度くらい。日傘が壊れそうなくらい風が強くて、暑くも寒くもなく気持ちがいい。お母さんにラテを預けて道沿いの紫陽花を撮る。SNS はだいたい花や海の写真、NOL 個人と
砂浜についてラテを飲み干すと、海の写真を撮ったり石やシーグラスを拾ったりした。
「お母さんは変だと思う? ミチと私が一緒にライブに行くの」
「べつに変じゃないと思うよ。ふたりとも EMPTY GLASS が大好きで小学校からの仲だから普通なんじゃない?」
「普通かなあ。NOL には言えない気がする」
「言わなかったらいいよ。もう手紙書いてるの?」
「うん。何回も書き直してる。ライブまでに書き終わるかわかんない」
書けるって、とお母さんは水平線に目を向けたまま笑った。ガスっていて富士山は見えないけれど、水平線の右端に江の島が見える。
お母さんが紙袋を持っていたのでふたりの空のカップを袋に入れて歩き始める。買い出しのスーパーマーケットまで三十分くらい、そこから家までは五分。カーゴパンツのポケットの中にはいくつかの惑星みたいな小さな石とシーグラス、丸く波に削られた陶器のかけらと貝殻。
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