第一章 ギタリスト 9

黙々とパソコン作業をしていると、昨日見た夢の内容が思い起こされた。自分がギタリストとして、かつてのバンドメンバーと共に大きな会場で演奏をした、あの夢。普段見る夢はすぐに忘れてしまうのに、昨日の夢はいまでも鮮明に思い出せる。


頬が緩んでいることに気づき、きゅっと唇を引き締めた。周りを見渡すと、社内に残っている人は事務処理や電話対応に集中している。自分を含め会議に参加した人は昼休憩を取らずにそのまま仕事を続けている。


ふと、キーボードを打つ手が止まった。椅子の背もたれに体重を預け、息を吐く。

これからもずっとこんな生活なのだろうか。特に興味もない、やりたくない仕事を続けるのだろうか。時々、そんな疑問が頭をよぎる。じゃあ自分のやりたいことってなんだろうと考えた時、普段はパッと思いつかない。だけどいまは、目を閉じると瞼の裏にあの光景が浮かんでくる。バンドメンバーと観客の笑顔。気持ち良さそうにギターをかき鳴らす自分の姿。


それは過去に文字通り夢見ていた光景だった。

昨日、あの場所に行かなければ、きっと思い出すこともなかった。

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