第21話 あとでいいです
日も暮れてしまったが、ホールで必要な情報の交換を行う。
まず、リーメにトロルとエルフとの関係を説明してもらっておいた。リーメに頼んで正解だった。俺だったら相手の顔色を窺ったり、立場とか考えたりして情報を正しく伝えられなかったかもしれないが、リーメなら相手が脅そうが罵ろうが馬鹿にしようが構わず淡々と説明してくれるので助かった。一方的に喋らせるだけならコミュ力は必要ないしな。リーメもそのくらいならできるようになっていた。
途中、騎士団長があからさまに侮ってきたのを、狼を召喚して睨みを利かせたらしい。おかげでいま俺は三人に詰め寄られている。
「祝福、しちゃいましたね?」
にっこにこのルシャ。
「やっぱり
こうなると思った――と言わんばかりのキリカ。
「髪が赤いからなんか変だと思った。ずっと一緒だったのよね?」
いや、恋人の代用なんてさせてませんから……。
「かわいい……っていわれた」
「「「「はい?」」」」
うっかり俺も言ってしまった。
踏ん反り返っているリーメを他所に、三人の視線が俺に集まる。
「いやだって、ほら……猫召喚してみ?」
リーメが召喚を行うと、猫耳としっぽが生えてきて、体が妙に
「「「かわいい!」」」
「ほらな」
三人に撫でまわされているリーメ。アリアなんて頬ずりしていてかわいかった。
「いや君たち、イチャつきたいのはわかるけど、対策考えようよ」
「まったくその通りだったわ」
委員長に注意された気分だ……いや、川瀬そういや委員長やってたな。副は妹だったし。
◇◇◇◇◇
現在、残る戦力はほぼ騎士団の者で数は団長入れて13名。聖堂騎士と騎士のタレント持ちが多く、最後まで粘っていたらしい。精鋭と呼ばれるだけあり、ルシャやアリアの存在もあって全員が無事で負傷も回復している。他、兵士が5名。これに俺たちが加わる。
対して敵の戦力はトロル――魔王軍から変更してもらった――がおそらく五体。俺もまだ、ちゃんと目にしてないが、巨体を活かして強引に薙ぎ払ったり押し潰したりしてくるらしく、そのうえ魔法まで使うそうだ。土の中に隠れているのではなく、土そのものが巨人になるらしい。リーメの召喚術に近いのか?
そして既に試した戦法。騎士たちは守りが固く、巨体相手でもなんとか持ちこたえられる代わり、火力に乏しいのだそうだ。そのため本来であれば騎士が素早くトロルに接敵する『機動壁』の役割を担い、歩兵団の戦士や弓士、或いは魔術師に火力を担当して貰うところを、この先で通常よりも巨大なトロルの群れに遭遇し、土塊や魔法で歩兵団を直接先制されて敗走したらしい。
騎士たちも泥濘で疲労した馬をやられて、徒歩で身を寄せ合うようにしてこの巨石の砦に逃げ込んだのだそうだ。
◇◇◇◇◇
火力と言えばキリカとルシャのはずだが、ルシャが弓を持っていない。どうしたのとルシャに聞くと――
「どうもこうもありません! あの人が! 私を射手に回してくれないのです!」
そう言って騎士団長を指さすルシャ。
「自分の傍に居て安全な位置から味方を癒すのが聖女の役目だとか言うんです!」
そう言って頬を膨らませてぷんすか怒るルシャ。
いや、間違ってはないけどね。ルシャの場合は宝の持ち腐れというだけで。
「そんなルシャにいいものをあげます。ジャジャーン『複~合~弓~』」
『
「わぁ、さすがユーキ様! わかっておられます!」
ルシャは使い慣れた複合弓と矢筒を受け取ると、愛しそうに抱きしめる。
本当に弓を使うのか――などと騎士の一人がため息をついていた。たぶんルシャもずっと主張していたんだろう。
「みんなの装備も持ってきたから。今の装備、もう泥だらけだろ」
「あら、気が利くじゃない。気持ち悪くて困ってたのよね」
必要なものがあれば使っていいから上で着替えてこい――とキリカにバッグごと手渡す。手渡しながら――
「それで? キリカはどうだったんだ?」
「斬れるには斬れるんだけど、どこを狙っていいのかわからないのよね。手応えもないし」
「もういっそのこと、丸ごと全部ぶった斬るつもりで挑んだ方がいいんじゃないか?」
「そうね、そうしてみるわ。ありがと」
キリカとルシャが見張り台に上がっていく。
「ユーキはいいの?」
一緒に行こうとしたアリアに問われる。
「後でリーメに魔法で綺麗にしてもらうから」
「わかった。ありがと、今の鎧、ちょっと合わなかったんだ」
そう言い残して微笑むと、アリアも梯子を昇って行った。
「アリアさんの聖騎士の力には助けられたよ。あれで大勢救われた」
ハルがそう言うと、騎士や兵士にも頷く者が居る。
「アリアは剣士でもあるから、本当だったら俊足を生かせるんだけどな。防戦に回ると、キリカやルシャと上手く連携しないと攻勢に回ることができないから、俺が賢者の力で鑑定しながら指示を出してたんだ」
「そうか。どうりでアリアさんもキリカさんも動きが悪かったわけだ」
◇◇◇◇◇
「勇者のタレントって何でもこなせて、その上で得意分野は人に依るんだって。おれの場合はパーティメンバーの
「ハルにしては意外だな、それ」
「アオとお互い意識し始めたら他のメンバーを増やしても上手く行かなくてさ。アオは女の子に嫉妬するし、おれは男が居ると気が気じゃないし……おかげでパーティは二人のまま。騎士団のお世話になってる……」
たぶん二人とも、異性に慣れてる分、傍から見てると余計に心配なんだろう。
「じゃあパーティはそのままで行こう」
「いいのか?」
「ああ。代わりにリーメもパーティに入れてやってくれ。その方がいい」
大きな火力が三枚あるから、これに勇者の『
七年頑張ってたんじゃないのかよ! 尊敬して損したわ!――って思ってたら、七年もみっちり国のために戦えるわけないとハルは言っていた。そりゃそうか。蒼さんと一緒に居られるからここに居るんだ。俺やアリアたちと同じってわけだ。
話していると、見張り台で着替えていた三人も戻ってきた。
「ルシャとリーメには一階のテラスから弓と魔法で攻撃、アリアにはルシャとリーメを守ってもらう。足も速いから緊急時は弱いところをサポートでどうかな?」
「ユーキのパーティが要なんだから任せた方がいいと思うよ」
「私も勇者様のお考えに従います」
「ああ」
「私も」
ハルの言葉に騎士たちも頷く。さらに――
「ユーキ殿、あなたには詫びなければなりません。申し訳ない。あの酒場でのあなたの言葉に私は恥じ入りました。騎士としてあるまじき行いでした」
「同じく……申し訳ない」
「謝罪いたします」
「い、いや、騎士団の問題は国の問題だから、俺に謝られてもなっ」
目の前で
よく知らない相手に下手に出られるのにはまだ慣れない。だが、酒場での俺の負け惜しみみたいな言葉を汲み取ってくれた騎士も居たようだ。お陰で彼らも強力的だった。そして騎士団長のやり方に反発もあったのだろう。やつはハブられ気味だった。ざまぁないな。
「――ル、ルシャは
皆が頷いたので自信が持てた。ひと息吐き――
「――キリカは前衛で一体ずつ集中して倒してくれ。今回は俺の鑑定は当てにならないから、俺も前でキリカのサポートをする。ドラゴン退治と同じ要領で」
「わかった。足の速い盾がついてきてくれるとやりやすいわ」
「リーメはこの間のオルトロスでルシャと一緒に遠距離でどう?」
「動かなくていいならケルベロスでいく」
「なにそれこわい」
「こわい?」
「強そうでこわい」
「ならよし」
何がヨシなのか。
「ルシャもいいね?」
「……」
「ルシャ?」
「あの……」
「矢はたくさん入ってるよ?」
「――あとでいいです……」
◇◇◇◇◇
端的に言うと、ルシャの要求は『祝福が切れたのでください』だった。強弓とも言えるほど重くした彼女の複合弓も、力が足りないのか弦を張れないでいたし、察しの悪い俺にちょっとだけ口を尖らせたりもしていた。
ハルに『魔女の祝福』がどういうものかを――密室で儀式を行わないとダメなんだ――的な言葉でごまかして、見張り台への立ち入りを禁止してもらった。もちろんハルにはアリアに祝福を授ける
緊急時ということで、複数の祝福をまとめて掛けるためにアリア
アリア本人への祝福は――こんな雰囲気のない所は絶対に嫌!――ということで、見ててもらうだけとなった。見てるのもどうなのって思うけど。
最初、祝福を受けていたのはルシャだけだったのが、
ルシャは何か間違って覚えてるように思うけど……。
結局、事情が事情だからと四人で取り決めをして、三人に祝福を授けることとなった…………んだけど、俺の意見は?? あと、ただでさえルシャの身代わりになって『魔女の祝福』を受ける
◇◇◇◇◇
正直、三人と同時に
中座したルシャと続きをしていたら、ファーストキスだとか言って半裸のキリカにキスを奪われるし、――今はルシャとしてるんだから――と言ったら今度はルシャが――ユーキ様を通じてキリカさんの愛情が伝わってまいります――とかとんでもないことを言い始めるし、背中にふわりとこそばゆい感触があったと思ったら、リーメが猫のまま背中に覆い被さってきていたし。
ルシャとが終わり、激しい疲労感に柔らかい彼女の上に突っ伏すも、その当人は『癒しの祈り』を唱え、アリアに『輝きの手』を促す。仮にも聖女様がこんなのでいいのかと思ったけど…………よく考えたらあの豊穣の女神の聖女様だったわ……。
そこへ私の番ね――と
リーメは必要な祝福だけ受け取ると早々に離脱し、寝息を立て始める。厄介なのが『疲労耐性』を持つキリカで、その求め方も激しかった。が、やがて――そこまでです――と目覚めたルシャに体を張って制止され、漸く終わりを迎えた。ただし、寝ぼけたルシャに覆い被さってこられたままで……。
既に何度も致してしまっているはずなのに、アリアの『輝きの手』の力で中途半端に高揚してしまった俺は、ルシャに挟まれたままでモヤモヤした気分を、傍に座っていたアリアに思わず求めてしまった。
「明日に備えて早く寝なさい」
僅かに怒気を含む言葉と共に、キスを
ただそれでも、アリアは俺の隣で添い寝してくれたんだ。
◇◇◇◇◇
翌朝、――こんな状況だったとはハルにはとても言えないな――なんて思ってたら、地階の入り口で警戒に当たっていたハルに――ごめんちょっと聞こえていて立哨の相方と居るのが気まずかった――って言われたときは白目になった。
すまんハル。そして皆たぶん魔女の祝福が何か知ってる……。
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今更、恥も外聞もない!
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