第11話 赤い髪の少女

『……ユーキ、祝福をちょうだい』


 息苦しい暗闇の中、懐かしい声が俺の名を呼んだ。


「アリア!?」


 俺はその声が消えないようにと、慌てて名を呼び返した。

 ぼんやりと薄明かりが灯ると、シーツに素肌をくるんだ赤い髪の少女が居た。


『……鍵を開けてあたしに祝福をちょうだい』


「アリア? 帰ってきてくれたんだね。よかった……」


 俺は祝福の祝詞を唱え、愛しい赤髪の少女を抱いた――――。





 ◇◇◇◇◇



 俺は多少の息苦しさを覚えて目が覚めた。朦朧としているが目の前にはお胸がふたつ。頭を抱え込むようにして彼女は横になっていた。


「アリア……」


 俺はずっと泣いていたのかもしれない。抱き着くと彼女は頭を撫でてくれた。


 ――白いシーツが眩しいな。


 もう日も高いようだが俺はもう少し眠ることにした。



 ◇◇◇◇◇



 再び目が覚めるとアリアは居なかった。ゆっくり眠れたのは何日ぶりだろう。

 リビングで音がした。俺はシーツだけまとってリビングへ顔を出す。


「アリア!」


 戸を開けるとアリアは居らず、なぜか家の中なのに三角帽子のリーメが飯の準備をしていた。

 アリアはどこ?――と問う。


「アリアが居るわけないだろ」


 訳が分からなかった。

 今朝は確かにアリアが居て、抱いてくれていた。夢にしては柔らかくて良い匂いもした。


「――ちょっとこれやってくれ」


 卵焼きらしき料理の続きを俺に任せてリーメは部屋へと戻って行った。


 部屋から戻ってきたリーメは冒険用の装備に身を包んでいた。やはり三角帽子を深く被っていてまともに顔も見せない。


「――さっさと食って行くぞ」


 依頼も受けていないのにどこへ行くんだとも思ったが、俺は生返事をして食事をとる。


「リーメの分は?」

「あたしはもう先に食べた」


 ――その時は特に気にもしなかったが、後々よく考えてみればリーメが料理をできるなんて初耳だった。乾してあった皿の数の意味にこの時の俺は気付けなかった。甘めの卵焼きにほんのり香った懐かしい味に安らいでいたから――。



 ひと通りの装備を整えるとギルドへと向かった。朝というには遅い時間だったためだろう、ギルド員の冒険者は居らず、依頼の持ち込みをしている外部の者ばかりだった。受付で俺宛ての手紙が届いていないか確認したが何もなかった。


 最近入った新しい受付の子は小声で――パーティを解散されたんですか?――と聞いてきた。俺は慌てて目を瞑って『鑑定』をするもパーティ名は出てこない。ギルドカードを引っ張り出してみるが、そちらにも無い。


「どうして……」

「わからないが行こう」


 横でリーメも自分のギルドカードを確認していたが、促されてギルドをあとにする。



 ◇◇◇◇◇



 孤児院に着くと大人たちが食事の準備をしていた。もう昼前だったか。

 そんな時間だったこともあってか、ミシカとヨウカは装備を整えておらず、普段着でホールに居た。大人の数が多いので手伝う必要もなさそうだ。


「おはようございます。顔色が良くなりましたね。よかったです」


 ミシカが俺を見てそう言った。するとリーメが――


「ちょっと二人で出てくる。馬を連れてく」

「えー、いーなー。あたしも行くー。馬乗りたいー」


 ヨウカがリーメにじゃれついてくる。


「……ヨウカはダメ」

「えー、ケチー。あー、わかった。ユーキとデートして略奪婚するんでしょー」


 ヨウカはミシカと比べてアホの子だな。ていうか、黙ってないでリーメも否定しとけ――なんて思ってると、リーメが俺の袖を引いてうまやへ向かう。



 ◇◇◇◇◇



 黙々と二人で馬を準備し、出発の準備が整う。


「で、どこへ行くんだ?」

「アホかお前は」


「いきなり何だよそれ」

「アリアたちに会いたいんだろ。とっとと行くぞ」



 ――ちょっとそこまでみたいな口ぶりだったろ……本当に何だよそれ……お前が人の心配するなんて、どんだけ俺は心配させてたんだよ――。


「ああ……」


 嗚咽を堪えた返事をすると、リーメは顔を合わせないように先に駆け出した。不意の向かい風に舞った三角帽子が、紐に引き留められて彼女の背中に回ると、鮮やかな赤い髪が風になびいた。







--

 ちょっと短いですがキリがいいのでここまでです。


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