第6話 勇者凱旋
「人を呼びつけておいて! いったい何なの、あの大臣は!」
「護衛が多かったのって、あたしたちの格好を見て警戒してたんだと思う」
「私たちにばかりにいい顔をして、許せません」
俺はめっちゃ機嫌の悪い三人と大通りを帰路についていた。
三人で愚痴を言い合っている後ろを、とぼとぼと歩いてついていっていた。
「でも、ルシャの
「ね!」
「ユーキ様への暴言共々、腹に据えかねて私、言ってやりました!」
「強い!」
「えらい!」
「ユーキ様ももっと怒るべきです!」
「えぇ……」
相手は大臣様に公爵様だし、俺たち冒険者相手じゃあんなものだろうとは思うんだが。
「――俺は別に気にしないかな。竜のことは確かに酷い言いがかりだけど、他は大したことじゃないでしょ。アリアたちには丁寧だったし」
「もお! 怒ってるこっちが馬鹿みたい!」
「腹が立ったなら、おいしいものでも作って皆で食べよう? 市場にでも寄ってさ」
「……わかった」
アリアが折れてくれたので、キリカとルシャも続いてくれた。
おいしいものを食べれば気分も晴れるだろう。俺たちは市場で食材を買って下宿へ帰った。
もちろん、勇者パーティへの参加は当然のように断っていた。
◇◇◇◇◇
何日かのち、大通りが騒がしいと思ったら、大通り沿いの邪魔なガラクタが撤去されていた。
大通りは馬車が何台も行き交えるくらいに広いし歩道に当たる部分も十分に余裕があるんだが、その余裕のある場所に商品を並べる店があったり、木箱が積んであったり、要らない物を放り出してあったりするので避けながら歩くことも多い。
そういった物が片付けられ、掃除されていた。どうやら近くの町まで勇者一行が戻ってきたので、凱旋のための準備が行われているらしい。なるほど国の勇者ともなると城へ帰るだけで大行事になるんだな。
◇◇◇◇◇
翌日の朝、昨日まではまるで想像もつかなかったくらいに大通りは綺麗さっぱり、何もなくなっていた。代わりに、大通りに交差するように家から家へとロープが渡され、小さな旗がたくさん掲げられていた。
勇者凱旋の当日、三の鐘に合わせて凱旋予定という話を市場で聞いていた。三の鐘とは一の鐘が夜明け、四の鐘が正午でその約三分の二といったところ。まあ孤児院で言うと昼前のお茶の時間だな。新市街の東門から東の大橋を渡り、南北に走る大通りを凱旋してくるそうだ。
「ユーキ、早く早く! ミシカも急いで!」
孤児院からの道をヨウカが駆ける。のんびりしてたら既に西側の大通りも人でいっぱいだったのだ。ただ、今日は孤児院の下の子たちを連れているので無理はできない。
通りの両側に店が連なり、食べ物や飲み物を売っていた。馬車も走っておらず、往来にまで人で溢れかえっていた。服装からすると城下中の人間だけじゃなく、周辺の町や村からも押し寄せてきている印象だった。
南北の大通りまで行くと衛士たちが車道の脇に立っていて、人の流れを整理し始めていた。孤児院の下の子たちを連れてはとても入っていけないし、人垣で前が見えないのもあって少し離れた人の少ないところから――商売上手な連中が貸し出してた空の酒樽を借りたりして――皆で眺めることにした。
やがて聞こえてきたパレードを迎える歓声。先頭では小さい子や街の娘が花を撒きながらその後を音楽隊、先導の王国兵が続き、騎士団に前後を守られた勇者を乗せた豪華な凱旋用の馬車が続くようだ。あの前の馬車の目立つ騎士が騎士団長だろうなあなんて話をしていたら、アリアたち三人からブーイングが飛んでいた。やめてやめて……。
「えー、でも顔はめっちゃイイじゃんー。まだ若そうな団長だしー」
「確かにイケメンだな。長い金髪も目立つし、フツメンからしたらなんかムカつくわ」
「また! そんな卑屈なこと言ってたら
アリアを見ると笑ってたが、ちょっと怒ってもいた。
「そういうとこ、治しなさいよ」――とキリカ。
「俺は根っからの卑屈なんだよ、残念だったな」
「仕方がないからあたしたちが傍にいてあげる。ね、ルシャ。ルシャ?」
ルシャを見ると一点を凝視して固まっていた。アリアの呼びかけにも反応しない。声は聞こえなかったが、――ゆうしゃさま――ルシャの口がそう呟いたように見えた。
視線の先を追うと、遠くの方で馬車に乗って手を振る勇者らしき男が見えた。黒い瞳に黒い髪はこの街では目立つ方だ。
ルシャを再び見る。目を離せないでいる。胸の中を針で突かれたような痛みが少しだけ走った。
◇◇◇◇◇
あの後、どうにもルシャに声をかけられないでいた。アリアは声をかけたが、ルシャは――なんでも――そう小さく返しただけだった。
「あーあー。せっかくだからもっと前で見たかったなあ。聖騎士特権とかで特等席あったんでしょー?」
「あ、バカ」――とミシカがヨウカに。
「え? そうだったの?」
「ロホモンド公の誘いだったから断ったの」――とアリア。
「遠慮しなくていいのに」
「もう!」
アリアは俺の頬をつねりあげてきた。いてててて――。
「ほーんと、逃げられないのが不思議です」
呆れ顔のミシカ。
しかしあの公爵様、いつの間にアリアを誘って来ていたんだ。ミシカたちが知ってるってことは孤児院を通じてか?
◇◇◇◇◇
ギルドは人でごった返していたため、孤児院へ戻って次の遠征の予定を立てていた時のことだった。再び孤児院に召喚状が届いたのだ。しかも今回は『陽光の泉』の名は書かれておらず、アリア、キリカ、ルシャへ宛てた召喚状で、わざわざ正装してくるよう書かれていた。
--
ここからが本題です。第一部よりは早めなんですけど、のんびりスタートでスミマセン。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます